東京国際法律事務所

時下、益々ご清栄のこととお慶び申し上げます。

新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックに伴う、米国のビジネスに関連して発生する
紛争とその対応策について整理しました。今回は、前半部分をお届けします。
米国で事業を展開している日本企業は、COVID-19に関する法令上・ビジネス上の影響を注視し、備えておく必要があります。日本企業の皆様が自社の米国事業に潜在する訴訟リスクについて早期に情報収集し、弁護士に相談し、リスクを軽減する対策を取る際のお役に立ちましたら幸甚です。

下記の情報は、米国法律事務所のKirby McInerney LLPに所属するChristopher Studebaker弁護士より提供いただいています。なお、同弁護士より「米国における新型コロナウイルス(COVID-19)に関連する契約上の問題への対応」についても情報を提供いただいていますので、あわせて
ご参照ください。

米国のビジネスにおける新型コロナウイルス(COVID-19)に関連して
発生する紛争とその対応策 <前半>

米国で事業展開する企業が現在直面している訴訟、および、今後発生する可能性のある訴訟の一部を2回にわたってご紹介します。

最近提訴された訴訟としては、特に注意すべきものとして、消費者保護のためのクラスアクション、規制当局による調査・起訴、株主訴訟やデリバティブ訴訟などがあります。
今後発生する可能性のある訴訟については、デリバティブ商品(サブプライム危機後の事件に類似しています)、サプライチェーンに係る契約、雇用者と従業員間の紛争、倒産などが問題となる可能性があり、次回、後半でお届けします。

1._消費者訴訟

COVID-19のパンデミック以来、消費者関連の訴訟が急増しています。消費者は、洗浄剤や安全
装備のメーカーから全米放送のテレビネットワークまで、さまざまな企業に対して訴訟を起こしています。例えば、オハイオ州では、GOJO Industries Inc.(Purellブランド等手指消毒剤メーカー)に対して、少なくとも2つの暫定的クラスアクションが連邦裁判所に提訴されています。当該訴訟においては、Purellが「99.9パーセントの病気の原因となる細菌」を防ぐことができるかのような誤解を招く表現をしたと主張されています。最近の別のアクションでは、非営利団体がフォックスニュースを消費者保護違反で訴えました。当該団体は、フォックスニュースがCOVID-19を「デマ」や「陰謀」などと称して、ウイルスを封じ込め、大量死を防ぐための努力を妨げたと主張しています。消費者訴訟における損害賠償額は比較的少額になるかもしれませんが、州の消費者保護法の中には、被告の将来の不正行為を抑止するために懲罰的損害賠償を認めているものもあり、裁判所は弁護士費用の賠償も認めることもあります。このような要因を考慮すると、パンデミックの継続に伴い、より多くの消費者によるクラスアクションが提起されることが予想されます。

消費者訴訟は、連邦政府や州の規制当局による調査や起訴の後に起こることが多いですが、係る
調査・起訴も増加傾向にあります。米国食品医薬品局(FDA)、連邦取引委員会(FTC)、州司法長官は、詐欺的な手段でCOVID-19を利用しようとする企業や個人をターゲットにし始めています。FDAとFTCは、COVID-19の治療に効果があると虚偽の宣伝をしている漢方薬、ホメオパシー薬、栄養補助食品の製造業者に対して、共同で多数の警告状を送付しています。例えば、2020年
1月にはFDAがGOJO Industries Inc.に対して、Purellを宣伝するためにウェブサイトやソーシャルメディア上で使用されている文言が誤解を招くものであると警告する書簡を送付しました。COVID-19に関連して詐欺を受けたなどというクレームで、多い類型としては、旅行等のキャンセルや返金に関するトラブル、オンラインショッピングでのトラブル、携帯メールでの詐欺、政府や企業を装う詐欺などです。FTCは2020年1月以降、7,800件以上の消費者からの苦情を受けていますが、その数は増えるばかりです(3月末日時点)。

同様に、州司法長官は、欺瞞的取引慣行の規制に係る違反の容疑で、企業や個人を調査し起訴し
始めています。消費者からの苦情は、手指消毒剤、消毒用ふきん、トイレットペーパー、マスクなど、需要が高く入手が困難になっている製品の値上げが原因で急増しています。鶏肉、米、牛乳などの日用的な食品も値上げの対象となっています。州司法長官は、価格を吊り上げている企業や
個人をターゲットにしているだけでなく、販売者が不当な価格を請求するのを止めていないという理由で、AmazonやeBayのようなオンラインマーケットの運営者にも注意を向けています。

2._証券・デリバティブ訴訟

既にCOVID-19関連の証券集団訴訟が株主訴訟として提訴されており、今後もさらなる訴訟が予想されます。例えば、ある株主はInovio Pharmaceuticals(Inovio社)がCOVID-19ワクチンを開発し、今年の夏に臨床試験を開始する予定であるとのCEOの発言に基づき、Inovio社とその最高経営責任者(CEO)を相手に証券集団訴訟を起こしました。また、米国クルーズ会社の大手Norwegian Cruise Lineの株主は、(1) COVID-19の発生にもかかわらず、同社が前向きな見通しを示したこと、(2) COVID-19に関する虚偽の情報を用いてクルーズ商品を販売したことを理由として、証券集団訴訟の対象としています。Zoom Video Telecommunicationsもまた、同社のデータプライバシーとサイバーセキュリティ対策について誤解を招くような情報を提供したとして、連邦証券集団訴訟の対象となっています。

また、個人株主のみならず、企業が株主である場合の訴訟も発生しています。最近では、The We Company(WeWork)の2人の独立取締役が、ソフトバンクグループ株式会社(ソフトバンク)が30億ドルの公開買付けを実行しないことを決定した後、ソフトバンクを提訴しました。ソフトバンクは当該決定について、COVID-19の発生などを理由にしていました。独立取締役は、ソフトバンクが契約上の義務に違反し、WeWorkの少数株主に対するfiduciary duty(信認義務)に違反したと主張しています。

今後は、企業やその幹部が関与する証券訴訟やデリバティブ訴訟が増えることが予想されます。
予想される類型としては、(1) パンデミックの事業への影響を軽視していること(例えば、COVID-19の一般的な伝染病のリスク、または伝染病の影響を受けやすいサプライチェーンや市場への依存から遮断されていると述べること)、(2) COVID-19の発生によって利益を得ることができる事業であると述べること(例えば、ワクチンや治療法を開発した、または自社の製品等がCOVID-19を
防ぐことができると述べるなど)。

さらに、企業の帳簿・記録の開示を求める動きの増加も考えられます。デラウェア州などの複数の州法上、株主が調査を行うため企業の計算書類等の開示を要求することができますが、係る要求は派生的な訴訟のために利用されることが多々あります(例えば、株主代表訴訟)。株主がCOVID-19に関連する経営陣の意思決定に係る書類を調査し、経営陣の不正行為や経営ミスを発見すれば、責任追及のための訴訟を提起するといったケースも想定されます。

(文責:飯島)

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