本ニュースレターでは、近時の法令等のアップデートを踏まえたグループガバナンスと情報開示についてご紹介します。 グループガバナンスと情報開示 情報開示は、株主や投資家に適切な投資判断材料を提供するとともに、企業が中長期的な企業価値の向上のために株主や投資家と建設的な対話を行う際のベースとなるものです。 特に、親会社やグループ会社との間の取引の内容や条件は株主や投資家にとって関心の高い事項であることから、以下の事項を含め、情報開示の充実が図られてきたところです(詳細は末尾の表をご参照ください)。
このような流れを受け、上場子会社の少数株主保護の観点から、親会社との関係について株主に情報を開示する必要性は広く認識されていると考えられるとして、令和元年会社法改正に伴う「会社法施行規則等の一部を改正する省令」(2020年11月27日公布)により、親会社との間の重要な財務及び事業の方針に関する契約等の内容の概要について、2021年6月総会の事業報告から記載が求められることになりました(会社法施行規則120条1項7号)。 ※なお、パブリックコメントに対する法務省の回答では、「会社法施行規則第120条第1項第7号は、当該株式会社と親会社との間に重要な財務及び事業の方針に関する契約等が存する場合にその概要を事業報告に記載することを求めるものであって、当該株式会社が関知していない親会社における方針等の記載を求めるものではない。」、「当該株式会社において、親会社が当該株式会社の重要な財務及び事業の方針に及ぼす影響を踏まえ、少数株主保護のための措置を講ずることを親会社との間で合意等をしている場合には、その内容の概要等を記載することが考えられる。」とされています。 このことは、2020年2月、上場子会社を有する上場会社と親会社を有する上場子会社に対して投資家が適切な投資判断を行えるようにするため、コーポレート・ガバナンスに関する報告書の記載要領が改訂され、グループ経営に関する考え方及び方針に関連した契約の内容の開示が要請されたことと軌を一にするものといえます。 ※なお、東京証券取引所が2020年12月25日に公表した「市場区分の見直しに向けた上場制度の整備について(第二次制度改正事項)」では、流通株式の定義の見直しを行い、所有目的が「純投資」であることが明らかな株式である場合を除き、日本国内の銀行、保険会社、事業法人が所有する株式については流通株式から除外するとしています。これは、いわゆる安定株主以外の株主による一定割合以上の株式保有を求めることで、上場会社の経営者と機関投資家との間の建設的な対話の基盤を確保し、上場会社のコーポレート・ガバナンスの実効性を高めることを期待したものです。また、プライム市場では、投資家との建設的な対話の促進の観点から、いわゆる安定株主が株主総会における特別決議可決のために必要な水準を占めることのない公開性が求められ、流通株式比率が35%以上であることが上場を維持するために必要とされています。これらの流通株式の定義の見直し等は、親会社(支配株主)といういわば究極の安定株主が存在する上場子会社という形態への牽制にもなりうるものといえます。 近年、ハードローである金融商品取引法に基づく有価証券報告書や会社法に基づく計算書類・事業報告、ソフトローである上場規則に基づくコーポレート・ガバナンスに関する報告書、任意の統合報告書の開示等、情報開示のチャネルが多様化しています。企業によっては開示書類の作成担当部署が異なる場合もあると思われますが、情報開示の役割に鑑み、各作成部署間で連携のうえ、株主や投資家に統一的かつ有用な開示を行っていくことが重要です。 【有価証券報告書】 |
上場親会社による開示 | 上場子会社による開示 |
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◇ 関連当事者との取引に関する注記(連結ベース) ・ 関連当事者の名称、所在地、資本金、事業内容 ・ 関連当事者が有する又は関連当事者に対して有する議決権の割合 ・ 関連当事者との関係(役員の兼任・事業上の関係等) ・ 取引の内容 ・ 取引の種類別の取引金額 ・ 取引条件及び取引条件の決定方針 ・ 取引により発生した債権債務に係る主な科目別の期末残高等 (連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則15条の4の2第1項) |
【計算書類・事業報告】 |
上場親会社による開示 | 上場子会社による開示 |
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◇ 【計算書類(個別注記表)】関連当事者との取引に関する注記(単体ベース) ・ 関連当事者の名称 ・ 関連当事者が有する又は関連当事者に対して有する議決権の割合 ・ 関連当事者との関係(役員の兼任・事業上の関係等) ・ 取引の内容 ・ 取引の種類別の取引金額 ・ 取引条件及び取引条件の決定方針 ・ 取引により発生した債権債務に係る主な項目別の当該事業年度末日における残高等 (会社計算規則112条1項) |
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_ | ◇ 【事業報告】親会社等との取引における 少数株主保護に係る留意事項 ・ 当該取引をするにあたって自社の利益 を害さないように留意した事項 (当該事項がない場合はその旨) ・ 当該取引が自社の利益を害さないかに ついての取締役会の判断とその理由 ・ 取締役会の判断が社外取締役の意見と 異なる場合には当該意見 ・ 当該事項についての監査役等の意見 (会社法施行規則118条5号、129条1項 6号等) |
_ | ◇ 【事業報告】親会社との間の重要な財務 及び事業の方針に関する契約等が存在 する場合には、その内容の概要 (会社法施行規則120条1項7号) |
【コーポレート・ガバナンスに関する報告書】 |
上場親会社による開示 | 上場子会社による開示 |
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◇ グループ経営に関する考え方及び方針を 踏まえた上場子会社を有する意義及び 上場子会社のガバナンス体制の実効性 確保に関する方策 (有価証券上場規程419条1項、 同施行規則415条1項1号) |
◇ 支配株主との取引等を行う際における 少数株主の保護の方策に関する指針 (有価証券上場規程419条1項、 同施行規則415条1項1号) |
◇ 上場子会社との間でグループ経営に 関する考え方及び方針として記載される べき内容に関連した契約(その他の名称 で行われる合意を含む)を締結している 場合には、その内容(要請) (コーポレート・ガバナンスに関する 報告書の記載要領) |
◇ 少数株主保護の観点から必要な親会社 (非上場会社を含む)からの独立性確保 に関する考え方・施策等 ◇ 親会社におけるグループ経営に関する 考え方及び方針、それらに関連した契約 を締結している場合には、その内容 (要請) (コーポレート・ガバナンスに関する 報告書の記載要領) |
(執筆担当者:関本) 私どもに何かお手伝いできることがあれば、ぜひお気軽にお問合わせください。 *本記事の内容は、一般的な情報提供であり、具体的な法的アドバイスではありません。 連絡先:関本 正樹_Tel: 03-6273-3026(直通)E-mail: masaki.sekimoto@tkilaw.com |
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