OUR STORY

2026.07.27

図面が読める弁護士が、官と民の橋渡し役になるまで――工学×行政×法務のトリプル・スキルで切り拓くインフラ法務の最前線

子どもの頃はミニ四駆やプラモデルに夢中になり、「なぜ動くのか」「どうすれば速くなるのか」を考える少年だった。その興味はやがて建築へと向かい、青年は建築家を志して工学部の門をくぐる。ところが大学で直面したのは、耐震偽装問題など、建築が人を不幸にしかねない現実だった――。

「一つひとつの建物を設計するより、もっと引きの目線で、制度そのものを変えられないか」。そう考えた奥山光幸弁護士は、法律家の道を選びます。以来、建設・不動産・インフラを軸に研鑽を重ね、二級建築士の資格を取得。さらに国土交通省へ出向して空港民営化の最前線にも立ちました。工学・行政・法務を越境し、現場の言葉を理解する奥山弁護士が、2026年3月に次なる挑戦の舞台として選んだのは、急成長を遂げる東京国際法律事務所(以下、TKI)でした。図面を読み、官と民の橋を架け、社会のインフラづくりを法務から支える奥山弁護士の、これまでの軌跡とTKIで描く未来に迫ります。

ミニ四駆から、一番大きなものづくりへ

もともと工学部で建築を学ばれていたとのことですが、ものづくりへの興味は幼少期からお持ちだったのでしょうか?

そうですね。子どもの頃からプラモデルやミニ四駆などが好きで、よく作っていました。完成したもの自体も好きだったのですが、それ以上に「なぜ動くのか」「どういう構造になっているのか」といった仕組みの部分に強い興味がありました。説明書を読み込み、ミニ四駆を少しでも速く走らせるために、自分なりに改造を重ねたりもしていました。そうした「構造」への興味が、ずっと自分の根底にあったのかもしれません。

その延長で、ものづくりのなかで最も大きな存在の一つである建築に惹かれ、大学は工学部建築学科へ。建物を通じて、暮らす人や使う人の利便性、さらには幸せにも関われる。そんなものづくりに携わりたいと考えていました。

「引きの目線」で、建築の世界を変えたい

そこからなぜ、ロースクールへ進み、法律家を目指すことになったのでしょうか?

建築を通じて人を楽しませたい、幸せにしたいと思っていた一方で、学生だった当時、耐震偽装が大きな社会問題になっていました。欠陥住宅の実例を見る機会もあり、建築によって人が不幸せになることもあるのだという現実に直面したのです。それは私にとって耐えがたいことで、強い憤りも感じていました。

もちろん、建築家として良い建物を一つひとつ作っていく道もあります。ただ、私はもう少し引きの目線で見たときに、個別の事案に向き合うだけでなく、関係者の役割分担やリスク分担といった制度設計そのものを変えていくことに興味を持つようになりました。

折しも日本でロースクール制度が始まったばかりで、新しい挑戦をしやすいタイミングでもありました。設計図に惹かれていた延長で、いわば、社会という大きな設計図を引く側に回った。今振り返ると、そんな感覚に近かったのかもしれません。

現場の技術者と同じ言葉で話すために、二級建築士の資格を取得

弁護士としてキャリアをスタートさせた後、二級建築士の資格を取得されています。多忙な業務と並行しての資格取得は大変だったのではないでしょうか。

本当の意味で、現場の技術者の方々と同じ言葉で話せるようになりたかったのです。「法律家として勉強して知っています」と言うだけでなく、対等に議論するためには、目に見える資格や裏付けがあったほうが説得力にもつながりますし、重要だと考えました。

ただ、取得までにはやはり苦労もありましたね。通常の弁護士業務を終えた後、夜に自宅で一人、製図セットを広げて線の引き方を練習し、週末には製図セットを抱えて資格講習会や模試に通うなど、仕事と並行して地道な訓練を重ねました。大変ではありましたが、普段の業務とはまったく違うことに取り組む面白さもありました。

技術者と同じ言葉で話せることが、実務で役立った場面はありますか。

たとえば、建設やインフラ案件の会議で技術部門の方とお話しする際、図面をベースにダイレクトに会話ができます。通常であれば「この専門用語はどういう意味ですか?」から始まる場面でも、その一段階を飛ばして、共通認識のもとですぐに本題に入ることができる。最終的には、それを私たちが法律の言葉に落とし込んでいくのですが、技術と法律のあいだにある翻訳の手間を減らす、いわば架け橋のような役割を担えていると感じます。クライアントからも「この弁護士には専門用語の説明から始めなくてよい」という安心感を持っていただけるのは大きいですね。

また、建築紛争の裁判で、建物の耐震性が十分にあることを証明しなければならない案件がありました。その際、構造計算を専門とする建築士の方とともに、一つひとつの数式を検討する作業を担当したのです。構造計算書の内容を、「なぜこの数式によって安全と言えるのか」という論理に落とし込み、専門外である裁判官にもわかりやすく説明しなければなりません。「これを解いて”X=“に直すとこうなります」「この不等号はこういう意味です」と、まるで物理や数学の授業のようでしたが(笑)、専門家任せにせず、自分でも直接数式を確認し説明できることは、大きなアドバンテージだと思っています。

行政の内側で知った、全体最適と調整の面白さ

その後、国土交通省へ出向し、行政の内側に入られています。

建設やインフラを専門にするなかで、民間の立場から関わるだけでなく、制度をつくり運用する行政の内側も一度経験してみたいと思い、自ら手を挙げました。

出向先は、国交省航空局の空港経営改革推進室。国が管理する空港の運営権を民間に委ねる「コンセッション」、いわゆる空港民営化のプロジェクトを担当する部署で、私はある地方空港のプロジェクトリーダーを務めました。どのようなパッケージで民間に運営を任せるかという制度設計から、関係者の利害調整、契約書の確認、行政内部の調整まで、幅広く担当しました。

実際に国家プロジェクトの最前線に立ってみて、弁護士として外から見ていたときとのギャップはありましたか?

出向する前は、行政に対して「お上が何かを決めて、民間に従わせるものだ」という少し単純なイメージを持っていました。ところが実際は、多くの利害関係者のあいだに立って全体を調整する立場であり、それが”できる立場”でもある。そこに面白さを感じました。

空港を運営する民間会社は、利益を見込んだチャレンジングな提案をします。一方で、法令上の制約や技術的な課題、財政面から国が負えないリスクなど、現実的な限界もあります。

そうした条件を踏まえながら、法務・技術・財務の各面から調整し、押したり引いたりしていく。地方空港の案件でしたから、自治体や航空会社、地元の有力事業者など、価値観も立場もまったく異なる方々が関わります。「東京から来た、実情も知らない人間が法律論だけ話している」と受け止められてしまっては、まったく通用しません。だからこそ、何度も現地に足を運び、人間関係をつくっていく必要がありました。泥臭いプロセスの連続でしたが、非常に面白かったですね。

異なる立場の人たちとの調整を乗り越え、プロジェクトが一つにまとまったときには、大きな達成感がありました。引きの目線で全体を俯瞰して、橋渡しやバランス調整をする。それは、自分が得意で、やりがいを感じることなのだと確信できました。

「軸を持って、周辺も広げる」――街ができる現場に立ち会う喜び

キャリアの初期からインフラや建築に軸足を置いてこられましたが、「この分野だ」と専門を絞ることに躊躇はありませんでしたか?

最初はありました。「何でもできます」と言えることも、一つの強みではありますから。ただ、3〜4年目の頃に、「この分野といえばこの人だ」と顔が浮かぶ弁護士になりたい、自分の武器を決めようと腹を括りました。建築や不動産の話になると、自分のなかで解像度がぐっと上がり、他の弁護士より一歩踏み込んだ議論ができているという手応えがあったためです。

大事にしたのは、「狭く深く」ではなく、「軸を持ちながら周辺領域にも広げていく」こと。建設だけに閉じては広がりが限られるので、その周辺にある不動産、インフラ、再生可能エネルギー、行政関係、そしてこれらを支えるファイナンス(資金調達)まで、地続きの領域として押さえていきたいと考えました。特にインフラや再生可能エネルギーの大型プロジェクトでは、金融機関から融資を受けるためのプロジェクトファイナンスの組成や、複雑な融資契約のストラクチャー構築が不可欠です。法務と技術だけでなく、金融のスキームまで一気通貫で理解して初めて、プロジェクトを本当に動かすことができるからです。

複雑な利害調整や専門知識が求められる分野ですが、奥山弁護士をそこまで突き動かすやりがいは何でしょうか。

少しベタかもしれませんが、自分が関わった仕事が、街として、形として目に見えて残ることです。自分が見ていた契約書がプロジェクトの一部となり、最終的に巨大な商業ビルが建ったり、インフラ施設が稼働したり、空港が変わったりする。我々の仕事は表には見えませんが、完成したものを目にしたとき「ここに密かに自分も関わっているんだ」と実感できる瞬間は、本当に嬉しいですね。

だからこそ、法律論だけを振りかざすのではなく、実際に動いているビジネスや技術、現場の事情も踏まえて考えることを大切にしています。「法律上できません」で終わらせるのではなく、技術的にどこまで可能なのかを見通したうえで、「こうすれば通せる」という筋道を示す。物事を前に進めるための法律、というスタンスを常に大切にしています。

「自分の仕事で事務所を大きくする」――急成長フェーズのTKIへの参画

これまで小規模から大規模まで、さまざまな事務所を経験されています。そのうえで、2026年3月にTKIという急成長フェーズの事務所を次の舞台に選んだのはなぜでしょうか。

理由は大きく二つあります。一つ目は、自分の仕事によって事務所が成長していく手応えを感じられる環境に興味があったことです。完成された仕組みのなかで働く面白さもありますが、ある程度弁護士として経験を重ねていくうちに、今度は事務所をつくっていく側に回りたいと考えました。TKIは「世界で勝負する企業を支えるプロ集団」という明確な方向性を掲げ、インフラや再エネを含むクロスボーダー案件にも本気で取り組んでいます。私の軸と事務所の方向性が、非常によく重なっていると感じました。

二つ目は、代表の二人とお話しするなかで、本気で事務所を拡大していこうとしている熱量を肌で感じたことです。他の事務所も見ましたが、これほどの熱意を持ち、実際に数年で急成長を遂げているところは、なかなかありませんでした。

実際に入所してみて、TKIのカルチャーや雰囲気はどう感じられていますか?

想像以上に、若手を含めたメンバー一人ひとりの当事者意識が高く、案件を自分ごととして進めていく積極性があります。印象的だったのは、事務所の制度や運用を決める場面でも、若手が忌憚なく意見を述べ、しっかり議論していたことです。これまでトップダウンで「決まりました」と進む環境も多く経験してきたので、年次に関係なく、一緒に事務所を良くしていこうという前向きな空気はとても新鮮でした。成長フェーズだからこその風通しの良さだと感じています。

一人の強みを、組織の強みに

TKIが掲げる「日本発のグローバルファーム」というビジョンのなかで、奥山弁護士の強みはどのように発揮されるのでしょうか。


クロスボーダーのインフラ・再エネ案件を、さらに伸ばしていきたいと考えています。この分野では、海外の投資家や金融機関と、日本で事業を動かす現場とのあいだで、十分な共通認識を持てていないことが少なくありません。金融機関側が求める厳格なリスク管理やファイナンスの要件と、日本のインフラ特有の行政規制や現場の技術的な制約は、往々にして衝突します。お互いの事情や懸念を把握できていないと、プロジェクトは前に進みません。

その橋渡しをするのが弁護士の役割ですが、私の場合は、法務だけでなく、技術や現場のレベルまで踏み込んでつなげられることが強みです。私の参画を機に、こうした規制対応や現場の技術調整に加え、プロジェクトファイナンスのストラクチャー構築といった金融法務まで、チームとしてワンストップで伴走できる体制を強固にしていきたいと考えています。
行政規制の運用実態や現場の実務、金融スキームまで一気通貫で理解しているからこそ提供できる、独自の付加価値を組織として届けていきたいです。TKIが掲げる「ビジネス視点で能動的に解決策を示す」という姿勢を体現しながら、インフラ・再エネ領域を事務所の大きな柱の一つに育てていく。それが、私が発揮していきたい価値です。

最後に、5年後、10年後のビジョンをお聞かせください。

「インフラや再エネのクロスボーダー案件なら、TKIだ」と、外部から自然と名前が挙がるようなプレゼンスを発揮したいです。個人の実力や評判を伸ばすだけでなく、その積み重ねによって案件が集まり、事務所全体の評価へつながるよう取り組んでいきたいと考えています。

そのためにも、私が培ってきた専門性――技術や行政に関する肌感覚のような、教科書には載っていないナレッジを言語化し、組織に共有していきたい。私一人の強みで終わらせるのではなく、組織の強みに変えていくことが目標です。

インフラや再エネは専門性が高く、最初から目指す人は少ない分野かもしれません。ただ、一度”わかる側”になれば、大きな差別化になります。社会のインフラをつくっていくことのダイナミズムや面白さを、これからも若手弁護士たちに伝えていきたいですね。

(取材・文:周藤 瞳美、写真:岩田 伸久)