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2021.09.14

弁護士20年目の転機 世界で戦う日本企業を縁の下で支えたい

谷中直子弁護士が東京国際法律事務所(以下、TKI)に参画したのは、弁護士20年目を迎えるタイミングでした。大手渉外事務所で培った広範な知識と経験を活かし、「世界で戦う日本企業を縁の下で支えたい」と意気込みを語ります。一方で、谷中弁護士は家事・育児と仕事の両立にも長年奮闘してきました。彼女のバイタリティはどこから来ているのか、そのしなやかさと強さの秘訣に迫りました。

国際的な仕事への憧れと弁護士の魅力

弁護士を目指そうと思われたきっかけは何だったのでしょうか。

母が英語の教師だったこともあり、小中学生の頃から英語に触れる機会が多くありました。海外留学も経験し、「国際的に貢献できる仕事に就きたい」という漠然とした憧れを抱いていました。

大学で法学部へ進学すると司法試験の勉強を始める同級生が多く、私自身も弁護士としてキャリアを歩むことに興味を惹かれはじめました。ただ、子どもが好きだったので家庭を持ちたいとの希望もあり、弁護士が家庭・育児と両立できる仕事なのか、少し不安も感じていたのです。

そこで、司法試験に合格した大学の先輩から、当時弁護士であり司法修習所の教官であった元最高裁判所判事の鬼丸かおる先生を紹介していただき、お話を伺う機会を得ました。当時は今よりキャリアの男女格差が大きかったにも関わらず、鬼丸先生は家庭と仕事をしっかりと両立されていました。

もちろん誰でも真似ができることではありませんが、「弁護士は資格が必要な職業であるため、女性でも資格と能力によって活躍するチャンスがあり、かつ、自営業なので働き方に柔軟性を持たせることができ、女性でも男性と対等に戦い易い職業かもしれない」との鬼丸先生の言葉に感銘を受けました。

その後、国際的な案件を扱う渉外弁護士の存在を知り、弁護士という職業自体にもますます魅力を感じるようになりました。

その後、弁護士として大手渉外事務所に就職されました。どのような業務に携わられていたのでしょうか。

コーポレートからM&A、ファイナンス、金融規制、労働、IPまで、多岐にわたる分野を経験しました。最近では早くから1つの分野に特化する弁護士が増えているなか、広範な分野における知識や経験を持っていることは私自身の強みでもあると思っています。

たとえばM&Aの案件では、労務や知財などさまざまな問題が潜んでいますが、専門分野の知識しかなければ、専門外の分野については問題があると気づくことすら難しいのです。これまで培ってきた知識や経験は、今の仕事に大きく役に立っています。

ただ、こうして広範な経験をしてきた背景には、産休・育休、大学院留学などでキャリアがたびたび分断されていたことも影響しています。一般的には仕事を継続しているうちに自ずと専門分野が絞られていくものだと思います。私の場合、育休などのたびに仕事を引き継ぎ、復職時には異なる分野の仕事が多くなったり、その時々で異なる分野に対応できる柔軟性が必要とされたこともあり、自然と知識や経験の範囲が広がっていった側面もあります。

もともと国際的な活躍を志望されていました。実際にお仕事をされてみていかがでしたか。

特に外資系企業の案件やクロスボーダー案件が多かったので、国際的な仕事に携われていたと思います。ただ、事務所に入ってしばらくの間は、とにかくがむしゃらに目の前の仕事をこなしている感覚が強かったですね。そうこうしているうちに、留学、出産と大きなライフイベントが重なっていきました。

育児と仕事、両立のカギは「マイペースな気持ち」

海外での生活や育児のご経験について詳しく伺えますか。

Harvard Law Schoolの留学直前に長女を出産し、乳児を抱えての留学でした。帰国後、復職して間もなく長男を出産。その3年後に次女を出産しました。当時は時短制度はありませんでしたが、子どもが小さい時期は、出産前に多かったスケジュールがタイトな案件や深夜も対応が必要な案件から、比較的スケジュールの見通しが立ちやすい労働案件などにシフトし、育児と仕事をやりくりしていました。次女の出産の際は、継続案件をまた全て引き継ぐことに躊躇もあり、育休中もリモートで一部の仕事を継続しました。そして、産後2か月ほどでしたが、保育園の空きが出たので復職しました。

その後、家族でスイスに赴任し、3年間の駐在を経て帰国後に復職しました。

谷中弁護士は前の事務所でナレッジマネジメントチームの立上げメンバーとしてもご活動されていたそうですね。育児との両立はしやすい業務だったのでしょうか。

チームでは、所内の知識・ノウハウの共有化、ニュースレターやメモランダム、契約書雛型などの書式の構築・整理といったナレッジマネジメント業務を通常の対クライアント業務と並行して行っていました。対クライアント業務は急な案件などスケジュールのコントロールが難しく、時間に余裕がない状況になりがちです。ナレッジマネジメント業務は比較的時間の調整がつきやすいので、ナレッジマネジメント業務も担当させていただいたおかげで、時間のやりくりができました。

ただ、勤務時間では同期の弁護士たちにはどうしても及びませんので、私としては、勤務時間以外のところで付加価値を生み出せるよう努力していました。

家庭・育児と両立させながら仕事でパフォーマンスを出すための秘訣はありますか。

家事・育児と仕事のどちらも100%を目指していたら時間が足りません。できる範囲のことをマイペースでやるよう心掛けています。誰かと比べようとせず、「自分は自分」とマイペースな気持ちでいると、家事・育児においても仕事においても、精神的な負担は軽くなると思います。他のお母さんたちができていることができていないのも、同期と同じ時間働けないのも、仕方がないことだと割り切って大きく構えるような気の持ちようが大切なのかもしれません。

日本企業の海外での活躍をサポートできないはずはない

大手渉外事務所に約20年務められた後、TKIへ移籍されました。勇気がいる決断だったのではないでしょうか。

それまで移籍を考えたことはなかったので、たしかに悩みましたが、大学時代のゼミの友人だった代表の森幹晴弁護士から話を聞き、TKIのビジョン・ミッションに深く共感したことが大きかったです。

日本の渉外事務所は伝統的には外資系企業が日本へ進出する際のサポートを行うインバウンド案件が主流でした。日本企業が海外へ進出する、アウトバウンドの案件では外資系の法律事務所が起用されるケースが少なくありません。

しかし本来、日本の弁護士が日本企業の海外進出をサポートできないはずはありません。

前の事務所に所属していた頃から、海外に日本の弁護士が活躍できる場がもっとあってもよいのではと常々考えていました。

日本経済の不透明感が増し、多くの企業が海外に活路を見い出すなか「日本発のグローバルファームをつくり発展させていく」とのTKIのミッションに共感し、チームの一員として貢献したいという気持ちになりました。新しいことを始める最後のチャンスと思い、移籍を決意しました。

TKIはダイバーシティ&インクルージョンを理念に掲げています。谷中弁護士が働かれているなかで、こうした理念を実感されることはありますか。

弁護士という職業自体、場所の制約を受けにくく、さまざまなライフイベントが発生した際に女性でも続けやすい仕事です。加えてTKIではリモートワーク制が導入されていますので、柔軟性のある働き方を実現することが可能です。この先TKIに女性弁護士の方にもどんどん入ってきていただき、活躍してもらいたいですね。私のキャリアも参考になれば嬉しいです。

ダイバーシティは働き方にも重要な影響を与えます。性別問わず、定時にきちんと帰宅したり、育休を取得したりする人がいてもよい。能力のある人が場所や時間の制約を受けずに活躍できるようになっていけばと感じています。

最後に、谷中弁護士の今後のビジョンについて伺えますか。

末っ子の次女が3年後に中学生になるので、今よりは手が離れ、仕事に集中できる時間が増えていくと考えています。育児で時間の制約がありなかなか担当できなかったような案件にもチャレンジしていきたいですし、新人や若手メンバーの育成、ナレッジマネジメントなどの面でも貢献していきたいですね。また、海外留学・駐在を通して海外の文化や考え方を学んだ経験を活かし、日本企業が海外で活躍するための支援をしていきたいと思っています。

(文:周藤 瞳美、取材・編集:周藤 瞳美・松本慎一郎、写真:弘田 充)