OUR STORY

2023.10.04

裁判官15年のキャリアを生かして世界と日本の司法に橋をかける

約15年間にわたって裁判官・行政官として経験を積んできた山崎雄大弁護士が2023年4月、東京国際法律事務所(以下、TKI)へ参画しました。もっとも長く担当した民事裁判では、通常民事事件のほか、労働、医療、建築、交通、行政など多種多様な事件を担当したといいます。

山崎弁護士は、裁判官のキャリアを持ちながら、国際的なビジネス法務の世界をどうして新たなステージとして選んだのでしょうか。今回のインタビューでは、山崎弁護士の大胆なキャリアチェンジの背景と今後の展望について探りました。

語学力を生かした仕事への興味から米国留学・外務省出向を経験

まずは山崎弁護士のこれまでのご経歴について伺えますか。


2007年に任官後、徳島、さいたま、大阪、津、東京の各裁判所に勤務し、民事、家事、刑事などの裁判手続でさまざまな事件を担当しました。裁判長からの指導を受け、他の裁判官や書記官と議論を行い、手続の進め方や判決の書き方、和解のまとめ方などについて試行錯誤を重ねることで、裁判手続に対する思考の基礎、特に大局的な事案の見方が身についたと思っています。

また、裁判官としては、民間企業や弁護士事務所、行政機関など裁判所外での経験を積むことが求められます。私自身も米国留学と外務省への出向を経験しました。

米国留学や外務省出向時の思い出をお聞かせいただけますか。

私はもともと語学が趣味で英語が得意でした。語学力を活かした仕事への興味があったこともあり、Columbia Law SchoolでLL.M.プログラムを履修する機会を得ました。プログラムでは、裁判手続に関する講義を受け、現地の裁判手続を見学する機会も得ました。

帰国後は、国際的な業務に携わりたいという希望を出していたこともあり、2年間ほど外務省領事局のハーグ条約室へ出向することになりました。

親同士の間でどちらが子どもを育てるのかが問題となり、一方の親が子どもを日本国内に連れて来たり、あるいは日本国外に連れ去ったりすることがあります。こうした状況に対し、子どもの返還手続や面会交流に関して定めた条約がハーグ条約です。

私が所属したハーグ条約室では、海外の関係機関と連絡を取り合い、裁判手続やADR(裁判外紛争解決手続)に関する支援を行うことで、子どもをもとの国に返還したり子どもとの面会交流をアレンジしたりするための援助を提供していました。

帰国後も語学力を活かしてお仕事をされていたのですか?

裁判所で証拠として提出される書類は和訳文での提出義務があるため、日々の業務のなかで外国語に接する機会はほとんどないというのが現状ですが、退官直前に所属していた東京地裁の労働部では、外国企業や外国労働者が当事者となる事件が意外と多くありました。英語で記載された証拠書類の原文を読む機会や和解案を英語で作成する機会もあるなかで、特技である語学力を仕事でも活かせるという実感を抱くようになりました。

裁判官から弁護士へのキャリアチェンジ、その理由とは

そして、2023年4月にTKIへ参画されました。なぜ裁判官から弁護士になるという決断をされたのでしょうか。

やはり語学力を別のフィールドで活かしてみたいという意識が高まっていたことが大きいです。特に、日本の法制度を海外向けに英語で説明し理解を得ることにある程度のニーズがあると感じていましたし、自分自身もそこに対する興味を持っていました。

プライベートでも英字新聞や英英辞典を読むなどして、英語の読み書き能力を向上するための勉強を続けてきており、プライベートとキャリアとがうまくマッチしたようにも思います。

こうしたなか、Columbia Law Schoolで共に学んでいたTKI代表の森弁護士の話を聞き、事務所のビジョンやカルチャーに強く共感し、TKIへの参画を決めました。

思い切ったキャリアチェンジに思えますが、不安はありませんでしたか。

裁判官は自分の考えに従い判決文を書くため精神的な自由度が高い一方、弁護士はクライアントの利益を最大化することが職務になります。クライアントの利益を第一に考え、法的主張、事実、証拠を整理できるかという点は少し不安に感じていました。

ただ、私自身としては、一貫して今自分が置かれている環境に適応し、そこで求められるニーズに応えていくというスタイルでこれまで仕事をしてきました。裁判官であれ、弁護士であれ、的確にニーズを捉えて職務を遂行するという点は大きく変わらないだろうと考えました。

「意外にもすぐに慣れることができた」TKIの弁護士としての働き方

実際にTKIで働いてみていかがですか。


現在は、訴訟をはじめ紛争案件を中心に担当しています。クライアントが海外企業であったり、外国法の調査が必要になったりするなど、国際的な業務が多いですね。

この場合、日本の裁判所に翻訳文を提出しつつ外国の法制度について説明する必要がある一方、外国のクライアントに対しては日本の法制度を英語で説明する必要があり、両者間のコミュニケーションを上手く取り持つ必要があります。

これまでの自身の経験が活かせるのはもちろんですが、TKIには外国法の法曹資格を有する弁護士も多く所属しており、所内で気軽に相談できる点も強みに感じています。

働き方は変わりましたか。

裁判官時代は平日に裁判所内で仕事をするのが基本でしたので、スタイルは大きく変わりました。TKIでは、さまざまなテックツールを活用し、各自が都合に合わせてオフィスや自宅など場所を問わず業務を行っています。また、さまざまな国の弁護士が働いており、キャリアだけでなく、国際的な文化やバックグラウンドの違いを気にすることなく働ける環境だと感じています。

国際的で多様なメンバーがフラットかつ率直に議論を交わし、充実したチームワークを築いています。弁護士に転身し、TKIに参画してから数か月が経過しましたが、意外にもすぐに慣れることができました。TKIのカルチャーと私の価値観が合っていたのでしょう。

世界と日本の司法の適切な橋渡し役へ

山崎弁護士がこれまでのキャリアのなかで大切にされてきた考え方はありますか。


「調整と決断」がキャリアの軸になっているように思います。対立する意見の持ち主の双方から話をよく聞き対立点を明らかにして、まずは相互の利害を調整しつつ、話し合いで解決できない場合には、法律専門家として事実と法律に基づきしっかりと判断することを大切にしてきました。

国際案件でもそうした姿勢は大きく変わらないと考えています。日本の法制度を海外向けに説明する場合には、具体的かつ詳細に伝え、相互の認識にギャップがない状態にするよう心がけてきました。これからも、多様な価値観のあいだで譲歩・相互理解を促進し、法律専門家としてより双方が理解し合える土壌を築き上げていくためのサポートをしていければと考えています。

最後に、今後のビジョンをお聞かせください。

海外に所在する当事者の案件や海外市場が関係するような案件をはじめ国際的な紛争の解決に向けて、クライアントと裁判所、また、世界と日本の司法のあいだで適切な橋渡し役を務めることができるよう、積極的に関与していきたいと考えています。

クライアントの要望を最大限実現するためには、適切な法律構成や立証方針を選択しなければなりませんが、既存の法律や判例からははっきりしない点について主張立証することが必要になる場合もあります。こうした場合であっても、最後まで粘り強く検討を重ね、クライアントのみなさまの長期的な利益を実現することができるよう、カスタム・メイドの解決策を提供していきたいです。

また、より多くの方々とお会いする機会を増やしていきたいですね。今後はセミナーへの登壇やニュースレターの発行などを通じて外部の方々とのタッチポイントをつくっていくことで人間関係を広げ、より業務の幅を広げていければと思っています。

(文:周藤 瞳美、取材・編集:周藤 瞳美・松本 慎一郎、写真:岩田 伸久)