【コラム】CIETACによる国際仲裁実務の概観
はじめに
日本企業にとって、中国企業との紛争解決手段は、大きく分けて訴訟か仲裁の二つがある。そして、契約において、紛争が生じた場合の解決方法を予め合意しておく条項としては、紛争解決条項が設けられるのが一般的であり、そこでは訴訟のための合意管轄か、仲裁のための仲裁条項を定められることが多い。また、紛争の類型にもよるものの、中国企業・中国人以外が当事者となる渉外紛争の場合、訴訟よりも仲裁を紛争解決手段として選択することが多い傾向にある。
本稿では、中国における渉外仲裁[1]を中心に、仲裁に関する基礎および実務を概観するとともに、紛争解決条項そのものについて解説する。読者の理解が深まれば幸いである。
なお、本稿は当職が執筆参加した『類型別 企業関係紛争の実務―予防から初動・事後対応まで』(中央経済社)という本の「中国における国際仲裁」の章の内容をベースとしている。本稿の内容についてさらに詳しく知りたい場合には、同書該当箇所をご参照いただきたい。
[1] 中国の仲裁判断については、一般的に、①中国国内の仲裁判断、②渉外仲裁判断(例えば、後述のCIETACによる仲裁判断)、③外国の仲裁判断(例えば、後述のJCAAによる仲裁判断)、④中国法域外の仲裁判断(例えば、香港仲裁判断)の4 種類に分けられています。本稿では、主に②について解説する。
第1 適用される法律
中国においては、日本の「法の適用に関する通則法」に相当するのが、「中華人民共和国渉外民事関係法律適用法」(以下、「法律適用法」という。)という法律である。同法は、渉外紛争を含め、いずれの国の法律を適用すべきかについて定めるものである。
1 いかなる場面で中国法が適用されるか[1]
法律適用法によると、主に以下の場合には、中国法が適用される。
(1) 中国法が渉外民事関係について強制的規定を設けている場合には、当該中国法上の強制的規定が直接適用される。
(2) 不動産の物権については、不動産の所在地が中国国内にある場合、中国法が適用される。
(3) 権利質権については、質権設定地が中国国内にある場合、中国法が適用される。
(4) 労働契約については、労働者の勤務地が中国国内にある場合、中国法が適用される。労務派遣については、労務派遣地が中国国内にある場合、中国法が適用される。
(5) ネットワークを通じ又はその他の方法により、氏名権、肖像権、名誉権、プライバシー権等の人格権が侵害された場合には、被権利侵害者の常居所地が中国国内にあるとき、中国法が適用される。
(6) 知的財産権の帰属及び内容については、保護が請求された地が中国国内にある場合、中国法が適用される。
2 いかなる場面で中国法以外の法律を準拠法として選択できるか
法律適用法によると、主に以下の場合において、中国法以外の法律を準拠法として選択できる[2]。
(1) 当事者の合意により、仲裁合意に適用する法を選択する場合。
(2) 当事者の合意により、動産の物権に適用する法を選択する場合。
(3) 当事者の合意により、契約に適用する法を選択する場合。
(4) 権利侵害行為の発生後に、当事者が合意により適用する法を選択する場合。
(5) 当事者の合意により、知的財産権の譲渡及び使用許可に適用する法を選択する場合。
3 渉外民事関係に当たるか否かの判断基準
但し、留意しないといけないのが渉外要素のない契約については、中国法以外の法律を準拠法として選択することはできないとされている点である。すなわち、法律適用法によれば、渉外民事関係に適用する準拠法は当事者間で選択することができる一方、それ以外の場合には、当事者間で他国法を準拠とする合意は認められていない点に注意を要する(『「中華人民共和国渉外民事関係法律適用法」の適用における若干問題に関する解釈(一)』(以下、「適用法司法解釈(一)」という。)4条[3])。
また、中国法を排除し、外国法を準拠法とするためには、当該民事関係が渉外民事関係に当たる(渉外要素を有する)ことが必要である。渉外要素の有無については、以下の判断基準(法律適用法司法解釈(一)1条)が適用される。
(1) 当事者の一方または双方が外国の個人又は法人である
(2) 当事者の一方または双方の常居住地が中国以外の地域にある
(3) 目的物が中国国外に所在すること
(4) 民事関係の発生、変更または消滅の原因となった法律事実が中国国外において発生したこと
4 事例の紹介
渉外民事関係とは具体的にどのようなものか、また、その場合に準拠法をいかに定めるべきかについて、以下の仮想事例をご参照されたい。
[1] 本稿は、会社関連の法の適用を中心に記載するもので、同法に規定されている婚姻・家庭及び相続等に関する法の適用の内容については、割愛する。
[2] 但し、適用される外国法には、当該国の法律適用法は含まないとされている(法律適用法9条)。
[3] 「適用法司法解釈(一)」4条によると、渉外民事関係に適用する法律を当事者間で選択できると中国法上明確に規定していない場合、当事者は適用法を選択したとき、中国人民法院は当該選択が無効であると認定すべきとされている。
第2 仲裁条項の定め方
中国法においては、仲裁合意の要件として、①仲裁申立ての意思表示、②仲裁事項、③選定する仲裁委員会(仲裁機関)が明確にされていなければ、有効な仲裁合意とはならない(中国仲裁法16条)とされている。したがって、仲裁条項を作成する際には、特にこれらの3つの要件に留意する必要がある。以下では、中国の渉外仲裁機関として広く利用されている[1]中国国際経済貿易仲裁委員会(CIETAC)の仲裁条項等を概観する。
CIETACのウェブサイトには、簡単な内容のモデル仲裁条項がすでに掲載されているため、ここでは割愛するが、実際契約に使用されている条項例のサンプルとして、以下が挙げられる。
- CIETACモデル仲裁条項1
[1] CIETACは、1956年に設立されてから、7万件超の国際仲裁案件を中心とする案件を受理しているとされている。
2. CIETACモデル仲裁条項2
3. 仲裁条項のカウンター提案
日本企業と中国企業との間で国際取引に関する契約を締結するにあたり、紛争解決手段について交渉を行う場合、できる限り、自国の紛争解決機構を利用したいと考えるのが一般的である。そのため、前述のCIETAC仲裁条項に対し、日本企業としては、一般社団法人日本商事仲裁協会(JCAA)による仲裁手続きをカウンターとして提案することが考えられる。もっとも、双方が自国の紛争解決機構を利用する立場に固執し、いずれも譲歩できない場合、紛争解決条項について合意に至らないこともある。そのような場合には、被告地主義仲裁条項が利用されることも多い。
しかし、被告地主義仲裁条項を定める場合、当事者双方が同時または近いタイミングでそれぞれ仲裁が提起され、2つの仲裁手続が並行して進行し、異なる仲裁判断が下される可能性がある。その結果、いずれの仲裁判断に基づき履行すればよいかという混乱が生じる可能性が生じる。
このような事態を回避するために、当事者の一方が仲裁手続を開始した場合には、他方の当事者は当該仲裁手続に排他的に服し、ほかの仲裁手続や訴訟手続を開始してはならない旨を明確に定めることが考えられる。あわせて、仲裁手続き開始のタイミングを定義しておけば、上記のような混乱が生じる可能性を可及的に低減することができる。以上を踏まえ、実際に契約で使用される条項例のサンプルとして、以下を参照されたい。
終わりに
以上、本稿ではいかなる場面で中国法が強制的に適用されるかを概観するとともに、実務上CIETACの仲裁で使用される仲裁条項の定め方を解説した。
さらに、応用編として、CIETACの仲裁手続を踏まえて強制執行の段階まで争われていた事例の紹介、仲裁費用の目安及び予防法務への示唆の内容については、文字数の関係で割愛させて頂くが、その詳細をより詳しく知りたい場合、冒頭に記載した本の関連箇所をご覧いただきたい。
(執筆:唐 紅海)
※本記事の内容は、一般的な情報提供であり、具体的な法的又は税務アドバイスではありません。
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