国際紛争(訴訟・仲裁)その他

【コラム】新型コロナウィルスへの対応 ~取引先の破綻への初動~

【新型コロナウィルス(COVID-19)への対応】
取引先への破城への初動

猛威を振るっている新型コロナウィルス(COVID-19)の影響により、世界中で企業の経済活動に深刻な影響が出ています。様々な都市において外出禁止措置がとられ、早期に解除される見込みは立っておりません。また、国境が封鎖された結果、国境を跨ぐサプライチェーンや事業の運営に重大な支障が生じております。

グローバル経済の見通しが非常に悪い中、日本企業の皆様におかれては、世界中で生じる不測の事態に対して、適切な対応を行っていくことが求められるものと考えます。

本コラムでは、そのような不測の事態の一類型として、海外の取引先が破綻し、またはそのおそれが生じた場合の戦略的対応について、そのエッセンスをご紹介します。

1. 取引先破綻のおそれを察知した場合の初動について

取引先の破綻懸念に関する情報を入手した場合、まずは、自社とその取引先との間の取引の詳細を確認することが肝要です。例えば、(a) 取引は継続的なものなのか、それとも単発的なものなのか、(b) 当該取引先は代替可能なのか、そうではないのか、(c) 当該取引先との取引は自社の事業に関してどこまで重要なものなのか等を確認する必要があります。これらの要素についての理解なしに、取引先の破綻懸念に、戦略的かつ有効な対応をすることは困難でしょう。

特に、自社の複数の事業部門が、同一の取引先と取引をしている場合には要注意です。各事業部門によって、取引先の位置付け、関係は異なりうるからです。

次に、自社と当該取引先との債権・債務関係を確認する必要があります。現代の高度で複雑なサプライチェーンの中では、自社の製品の納入先が、同時に部品の仕入先であるというようなこともよくあります。この場合、自社は、当該取引先に対して、製品代金支払請求権としての債権を有すると同時に、部品代金支払債務を有するということになります。

自社の債権の一部又は全部に対して、反対債務がある場合には、当該債権債務の弁済期次第では、相殺により債権を保全することが出来る可能性があります。また、保全債権の弁済期については、いわゆるクロスデフォルト条項等によって、期限の利益の喪失が生じていないかという点も確認すべきです。

商品の納入は営業部門、部品の仕入は調達部門と、担当管理部門が異なることも多くあるかと思いますので、この点についても、部門間を横断した早期の対応が求められます。

また、これらの確認を行うにあたっては、実際に債権債務を負うエンティティは、どの国のどのエンティティであるかという点にも注意する必要があります。これにより、たとえば、明示的な親会社保証がなされていない場合でも、親会社に対して責任追及できるかという問題について検討する必要があるかどうかが変わってくることになります。

2. 各国の法的整理手続への対応

不幸にも取引先が法的整理手続を開始してしまった場合には、各国の法的整理手続への対応が必要となります。この点、各国の法的手続には、それぞれ違った側面や特徴があるため、戦略的な対応方針も異なります。

例えば、日本の民事再生手続は、米国連邦倒産法第11章(チャプター11)に基づく倒産手続の影響を多分に受けていますが、実際の実務慣行、手続きの進め方等には、大きな違いがあります。

一般に、米国の司法手続においては、裁判官に判断を求めることなく当事者間で合意を形成することが強く推奨されています。そして、その原則はチャプター11においてもあてはまります。何か当事者間で争いが生じた場合には、すぐ裁判所の判断を求めるのではなく、まずは当事者同士で解決することが求められるのです。

その結果、チャプター11手続に関係する当事者間同士では、様々な交渉が行われ、種々多彩な契約が締結されることとなります。裁判所の管理監督のもとで、決められたルールに従った手続きが進められることを前提とする日本の民事再生手続とは、手続のダイナミズムも、関係者として必要となる工数が全く異なりますので、注意が必要です。

また、取引先がグローバルに事業展開をしている企業である場合、法的・私的整理手続が複数の国地域で同時進行で進むことになります。これらの手続は、それぞれ現地の法制度に従って進められますので、各手続における個別最適戦略と全体でみたときの最適戦略が異なるという事態が生じ得ます。

このような事態に備えて、当該事案において意思決定の主体となる本社が、経験があり戦略的なアドバイスを提供できるアドバイザーを統括役として登用し、各国手続に対応する現地アドバイザーを適切に管理監督させるというやり方が非常に効果的です。

(執筆担当者:山田岩崎


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