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2020.05.15

【COVID-19】ASEAN諸国における契約上の問題に関する戦略的な対応<前半>

INSIGHT

新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大により、ASEAN諸国で契約の履行が不可能又は困難になる事態が発生しています。
サプライヤーが契約を履行できないといってきた場合、あるいは自社が契約の履行に困難な状況にある場合を念頭に、これらの問題への戦略的な対応のためのエッセンスをご紹介します。
今回は、前半部分をお届けします。

下記のコラムは、マレーシアを中心にASEAN諸国に展開する法律事務所のネットワーク ZICO lawより提供いただいた情報を基に作成しております。

ASEAN諸国における契約上の問題に関する
戦略的な対応 <前半>

COVID-19の影響により、契約を履行することが不可能又は困難となった場合、契約当事者で協議が整わない限り、義務の履行を一時的若しくは完全に免れるか、又は契約そのものを解除して免責されるかどうかは、契約上、不可抗力(force majeure)事由があるといえるか、又は履行不能や契約目的の不達成などの契約法理の基礎となる事実が認められるかに左右されます。

1. 不可抗力(force majeure)を理由とする免責

不可抗力とは、契約上の義務の履行を不可能又は著しく困難にする不測の事態や状況をいいます。具体的にどのような事態が不可抗力に該当するかは、不可抗力条項の規定によって異なります。
そこで、COVID-19が不可抗力に該当するかを検討する際には、まず契約を見直し、不可抗力条項が定められているかを確認することが肝要です。具体的には、不可抗力事由として、「伝染病」、「パンデミック」、「隔離措置」、「政府の規制」といった事由が明示的に定められているか、又は、個別具体的な事由が明記されていない場合であっても、「当事者の合理的な支配を超えた事由」のような包括的な事由が定められているかを確認します。

不可抗力条項による免責を主張する当事者は、COVID-19によって生じたロックダウンなどの事態が、合理的に予見できなかったことを立証しなければなりません。この点、SARSやMARSの流行と比較しても、COVID-19の世界規模の感染拡大やビジネスに対する影響は近年例をみないものであり、予見不可能であったと主張することは可能と考えられます。もっとも、契約の時期によって予見可能性に係る判断は異なり得るので、個別の具体的な事情や事実の確認が重要です。この点、WHOのパンデミック宣言(2020年1月30日)や各国におけるロックダウンの後に締結された契約については予見不可能であったと主張することは難しくなると考えられます。

なお、不可抗力を理由に義務の履行を拒絶した場合も、相手方が不可抗力条項の適用を争い、その適用が最終的に認められなければ、債務不履行などを理由に損害賠償義務を負う可能性がありますので、不可抗力条項の適用を主張する際には不可抗力条項の適用可能性を十分に検討することが重要です。

この点、不可抗力事由の発生に係る通知義務や、不可抗力による相手方への影響や損害を最小化するための合理的な努力義務が定められていないかを確認し、これらの義務が定められている場合には、当該義務を履践した上で記録として残しておくことが重要です。また、不可抗力条項を理由に履行を拒絶する前に、相手方と協議により契約条件の見直しなどができないかを検討することも必要です。

2. 不可抗力条項が定められていない場合の対応

契約上に明示的な不可抗力条項が定められていない場合や不可抗力条項による免責が難しい場合も、他の契約条項により免責などが認められないかを確認します。例えば、買収案件、プロジェクトファイナンス案件や投資案件では、重大な悪影響を及ぼす事由が発生した場合に契約当事者の一方が契約から離脱できる旨を定めた、いわゆるMAC条項が定められることがあります。
したがって、係る条項の有無及びその適用の可能性についても事前に確認・検討しておくことが重要です。

3. 履行不能、契約目的の不達成などを理由とした免責

契約上に不可抗力条項やMAC条項が定められていない場合も、ASEAN諸国においては、法律や契約法理上の履行不能、契約目的の不達成などを理由に免責される場合があります。しかし、国によってその要件・効果や運用は異なりますので、当該契約が準拠する法域の法令・判例などを確認することが重要です。

  1. 法律上の不可抗力による免責

    インドネシア、タイ、フィリピン及びベトナム法においては、不可抗力事由が法律に定められているので、契約に不可抗力条項が定められていない場合も、これらの法律に基づく免責が認められないかを検討することが重要です。

    他方で、マレーシア、シンガポール、ブルネイ、ミャンマー、ラオス及びカンボジア法においては、法律に不可抗力に関する定めがない、又は極めて限定的な定めしか有しないので、不可抗力を理由とした免責を主張するためには基本的に契約上に不可抗力条項が定められていることが必要となります。

    もっとも、シンガポールでは、4月7日、COVID-19の感染拡大を受けて、COVID-19 (Temporary Measures)Actが成立しました。これにより、建設工事契約や中小企業宛の担保付融資契約など、特定の類型の契約については、COVID-19又はそれに関連する法規制により債務の履行が不可能となった場合、相手方に対する適時の通知があれば、債務履行を理由とする訴訟提起・破産申立てや担保権の行使が一時的に禁止されます。そこで、シンガポール法準拠の契約については、本法の適用の有無についても検討する必要があります。ただし、本法による猶予期間は6か月のみであり、債務や契約から完全に解放されるものではないことに留意が必要です。

(執筆担当者:荒井


※本記事の内容は、一般的な情報提供であり、具体的な法的アドバイスではありません。
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