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2020.09.16

【コラム】インドの企業結合規制

INSIGHT

本コラムでは、日本企業の進出が進む新興国の一つであり、かつ、競争法当局の動きが積極的であるインドの企業結合規制の注意点をご紹介します。

インド競争法の実務はいまだ発展途上にあり、届出基準の曖昧さ故に、日本企業にとって「うっかり違反」をしてしまわないように注意を要する論点です。

インドの企業結合規制】
少数株式取得であっても、インド企業が直接の当事者でなくても
要注意

1. 少数株式取得であっても、企業結合規制の対象となることも

日本の独占禁止法上、企業結合届出の対象となる株式取得は、議決権保有割合が新たに20%又は50%を超える場合と議決権保有割合の基準が明記されています。しかし、インド競争法上、このような議決権保有割合の数値基準は明記されておらず、届出基準は非常に曖昧です。「支配権(control)」取得が企業結合届出を要する要件とされており、「支配権」の取得に該当する行為がどう解釈されるのかが問題となります。

インド競争法上、「支配権(control)」は、(i) 一つ若しくは複数の企業体が、共同若しくは単独で他の企業体若しくはグループの業務内容若しくは経営を支配すること、又は、(ii) 一つ若しくは複数のグループが、共同若しくは単独で他のグループ若しくは企業体の業務内容若しくは経営を支配することと定義されています(インド競争法上第5条)。

このように「支配権(control)」の定義のなかに「支配(controlling)」が入って定義が循環していることもあり、定義は曖昧と言わざるを得ません。しかしながら、実務では、インド企業株式の(過半数取得でなく)少数株式取得の場合であっても、「支配権(control)」の取得に該当される場合があるので要注意です。以下、日本企業による少数株式取得(10%程度から)の場面におけるインド競争法当局への届出事例(公表事例)を2つご紹介します。

【事例1】
2020年3月20日、農機関連メーカーである株式会社クボタは、インドのトラクターメーカーであるEscorts Limited社への出資を発表しました。当該出資は少数株式取得(発行済株式総数に対し約10%)ですが、インド競争法上、企業結合届出が行われ、2020年7月10日、インド競争法当局(Competition Commission of India:CCI)は当該出資を承認しました。
(2020年3月20日付 株式会社クボタ プレスリリース/同年7月10日付 現地メディア(The Hindu and Business Line)報道

【事例2】
2015年11月24日、生命保険会社である日本生命保険相互会社は、インドの大手財閥リライアンス・グループの生命保険会社リライアンス・ライフ・インシュアランスへの追加出資(出資比率26%から49%への出資)を発表しました。この約23%の追加出資においても、インド競争法上の企業結合届出が行われ、2016年2月、CCIは当該出資を承認しました。
(2015年11月24日付 日本生命保険相互会社 プレスリリース/翌年2月11日付 現地メディア(The Hindu and Business Line)報道

2. インド企業が直接のM&A当事者でない場合であっても、企業結合規制の対象となることも

諸外国の競争法上でも同様の問題に直面することが多いですが、インド企業が直接の当事者でない企業買収案件(いわゆる”foreign-to-foreign”の場合)でも、インド競争法上の企業結合届出が必要となることがあります。具体的には、日本企業間の出資案件で、日本企業がインド子会社を有する別の日本企業の少数株式を取得する場合であっても、「支配権(control)」取得に該当してインドで企業結合届出が必要とされるケースがあります。

例えば、インドの子会社a社を有する日本企業A社の「支配権」(例えば、少数株式)を、日本企業B社が取得する場合、日本企業B社がインド子会社b社を有するとき、以下の資産基準又は売上高基準の一つでも超えた場合には、企業結合届出が原則として必要となります。

_ インド国内(億ルピー) 全世界(億米ドル)
資産 売上高 資産 売上高
当事者基準 200
(約282億円)
600
(約846億円)
10
(約1,054億円)
30
(約3,162億円)
グループ基準 800
(約1,127億円)
2,400
(約3,381億円)
40
(約4,216億円)
120
(約12,648億円)

(*) なお、インド国内の関連市場における競争に影響を及ぼさない場合には、上記資産・売上高基準を満たすとしても、届出を要しないとされています。

インドの競争法や企業結合規制の実務はまだ発展途上であり、届出要件の曖昧さ故に、「うっかり違反」をしやすい論点です。インド企業の買収のみならず、上記規模のインド子会社を有する国内外の企業への出資、買収案件の検討・実行にあたっては、世界的な企業結合届出に精通し、諸外国法律事務所と強いネットワークを有する専門家を起用することが重要です。

(執筆担当者:岩崎


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