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2020.10.19

【コラム】M&Aにおける基本合意書の締結と適時開示

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M&Aにおける基本合意書の締結と適時開示

比較的大規模なM&Aが行われる際、最終契約(Definitive Agreement)が締結されるのに先立ち、当事者間における当該M&Aの共通理解について基本合意書(Letter of IntentやMemorandum of Understandingとも呼ばれます)を締結することが少なくありません。

基本合意書で定められる内容は案件ごとに様々で、また、交渉のフェーズによっても異なります。例えば、交渉の初期の段階であれば、M&Aの実行に向けた各当事者の誠実交渉義務や、基本合意書を締結した後の買主によるデュー・ディリジェンスの開始と売主や対象会社による買主への協力、また、独占交渉権や秘密保持義務が定められることが多く、他方、交渉が進んだタイミングであれば、取引ストラクチャーやスケジュール、M&Aを実行するための主要な前提条件(競争当局からのクリアランス取得など)、M&Aを実行した後の方針・戦略などのコマーシャルな事項についても定めることがあります。そして、これらの事項のうち、法的拘束力のある条項は、独占交渉権、秘密保持義務などに限定されるのが一般的です。

この点、上場会社は、上場ルールにおいて、業務執行を決定する機関が重要な決定事実に該当する事項を行うことについて決定した場合、直ちにその内容を開示することが義務づけられています(有価証券上場規程402条1号。なお、軽微基準については、有価証券上場規程施行規則401条1項参照)。そして、東京証券取引所は、M&Aにおける基本合意書などを締結した場合の適時開示について、以下の実務要領を公表しています。

「合併等の組織再編や子会社等の譲渡などについて、最終的な契約書の締結の前に、基本合意書(Memorandum of Understanding)や契約趣意書(Letter of Intent)の締結などを行う場合があります。これらの基本合意書等を締結し、当該行為について事実上決定した場合は、その時点において適時開示を行うことが必要となります。
ただし、例えば、これらの基本合意書等の締結が単なる準備行為に過ぎないものであったり、交渉を開始するにあたっての一定の合意でしかなく、その成立の見込みが立つものではないときや当該時点で公表するとその成立に至らないおそれが高いときまで、適時開示を行うことが求められるものではありません。なお、これらの基本合意書等の法的拘束力の有無や合併比率等の記載の有無をもって、直ちに適時開示が不要と判断すべきものではない点に留意してください。」

この実務要領は、なぜ適時開示が求められているかという趣旨から考えると分かりやすいでしょう。証券市場で取引される株式の価値、すなわち株価は、多数の投資者が、各々の見立てに基づいて、売買するあるいは株式を保有し続けるという投資判断を行うことによって形成されています。そして、この投資判断を各投資者が合理的に行うためには投資者の投資判断に重要な影響を与える情報が適切に開示されていることが前提となります。このため、上場会社は、投資者の投資判断に重要な影響を与える会社情報を直ちに開示しなければならないという適時開示ルールが定められているのです。

そして、この「投資者の投資判断に重要な影響を与える」かについては、実務上判断に迷うことも少なくないところですが、上場規程の総則において、「上場会社は、投資者への適時、適切な会社情報の開示が健全な金融商品市場の根幹をなすものであることを十分に認識し、常に投資者の視点に立った迅速、正確かつ公平な会社情報の開示を徹底するなど、誠実な業務遂行に努めなければならない。」という基本理念が定められていることが参考になります(有価証券上場規程401条)。すなわち、適時開示すべきかの判断に迷うときは、「常に投資者の視点に立って開示を行うこと」が求められているということです。

このように考えると、M&Aについて交渉がある程度進み、当該M&Aの成立の見込みが立っている状況で基本合意書を締結したといった場合には、投資者からすると、投資判断に重要な影響があることから、適時開示を行う必要があるということになります。

なお、M&Aの合意や実行に至らない可能性が相当程度あるにもかかわらず基本合意書の締結について適時開示を行った場合、市場に対してかえって不正確あるいは誤解を招く情報を出すことにもなるとして、基本合意書に法的拘束力を持たせないといったことによって適時開示の対象とならないようにするといった対応が議論されることもあるようです。

しかしながら、法的拘束力があるか否かにかかわらず、当該M&Aの成立の見込みが立つような場合には、投資者の投資判断に重要な影響を及ぼす情報といえるでしょうから、上記の適時開示の実務要領にもありますように、基本合意書に法的拘束力がないことやM&Aの基本条件が定められていないことだけをもって適時開示は不要であるとはいえないことに留意が必要です。

(執筆担当者:関本)


※本記事の内容は、一般的な情報提供であり、具体的な法的アドバイスではありません。
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