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2020.12.03

【コラム】2021年バイデン政権後の動き – LIBORの公表廃止への十分な対応をしていますか?

INSIGHT

2020年11月、米国大統領選挙戦は現職のドナルド・トランプ大統領と民主党候補のジョー・バイデン氏の接戦が繰り広げられ、現在、トランプ大統領より選挙不正の主張がされているものの、報道では、バイデン氏の選挙勝利が確実視されています。どちらが2021年の米国大統領になるとしても今後考えなければならない事項の一つが、2021年末に予定されているロンドン銀行間取引金利(LIBOR:London Interbank Offered Rate)の公表廃止です。

LIBORは、様々な融資、債券及び金融派生商品等の基準金利として世界的に認識されているベンチマーク金利(金利指標)で、この廃止によって、他のベンチマーク金利への移行が予定されています。LIBORの公表廃止はもしかしたら延長されるかもしれませんが、延長されるとしても、移行の検討は不可欠で、その影響は単に金融機関のみならず、多くの事業会社のビジネスに影響があるほか、契約解釈を巡って訴訟等に発展する可能性があります。

本コラムでは、2021年に起こるLIBOR廃止に伴い生じうる訴訟リスク、そしてそのリスクを最小限にするためのエッセンスの一部をご紹介します。

2021年バイデン政権後の動き
LIBORの公表廃止への十分な対応をしていますか?

1. なぜLIBORの公表が廃止されるのか?

2007年から2008年までの金融危機後、LIBOR設定銀行(算出基礎となるレートを呈示するパネル行)に対して、米国競争法違反や米国商品取引所法違反等を理由に、各国の規制当局による世界的な調査が行われ、不正に関与した大手行には約90億ドル(約1兆 2,000億円)の罰金が科せられました。特に、LIBORは、パネル行が無担保で他銀行から調達できると想定する金利を、調達期間(テナー)毎に各々が提示し、その提示金利を元に算出されたものでしたが、ここでいう「他銀行から調達できると想定する金利」の詳細な定義がなかったため、各パネル行による恣意的な判断ではないか等が問題となりました。

このスキャンダルにより、LIBORや他の銀行間金利(EURIBORやTIBOR等)の信頼性・公正性に対する評価が低下したため、金利指標改革に係る検討が国際的に広がり、各国の規制当局では、銀行のクレジット・リスク等を反映しない現地通貨建てのリスク・フリー・レート(Risk Free Rate:RFR)を採用する方向で検討が進められています。米国における担保付翌日物調達金利(Secured Overnight Financing Rate:SOFR)や日本における無担保コール・オーバーナイト(Tokyo Over Night Average Rate:TONA)が例として挙げられます。将来予測の観点が入るLIBORとは異なり、SOFRやTONAでは、過去実績を重視しておりその恣意的な判断が入る余地は少ないものの、時に(予測を超える)大きな変動が見られる可能性があるという点は、LIBORから他のベンチマーク金利へ移行した場合の注意事項の一つです。

2. LIBORを参照している契約はどのような影響を受けるのか?

米国の実務では、LIBORを参照していた契約については、SOFRへの参照に移行が進んでいます。
今回は、日本の実務の今後の動向把握のため、簡単にご紹介します。

  1. まず、連邦準備制度理事会とニューヨーク連邦準備銀行が招集した民間市場参加者のグループである米代替参照金利委員会(Alternative Reference Rate Committee :ARRC)は、米ドル建て現物に関するフォールバック条項の推奨文言案を公表しています。
  2. また、ニューヨーク州上院は、LIBORよりSOFR又は他の推奨される代替指標を利用するために訴訟からのセーフハーバーを提供する法案を提案しています。当該法案は、今後日本企業の皆様が(潜在的な)訴訟リスクをマネージするヒントが含まれていると考えます。

米国の実務と同様に、日本の全国銀行協会(全銀協)はLIBORを相対貸出の契約で利用している当事者が契約変更手続を進めていくことができるようフォールバック条項の参考例を公表しました。しかし、この参考例が特定の取引に対するフォールバック条項として十分であるかどうかは、個別の事情に応じての分析が必要です。例えば、フォールバック条項の文言においては、代替レートを選択する手段が明確でない場合があり、一方の当事者にとって経済的に望ましくない結果を招くことがあるほか、いくつかの潜在的な法的問題を生じさせる可能性があります。

3. 発生する可能性のある潜在的な法的問題は?

LIBORから他の代替指標等へ変更する場合に発生しうる潜在的な法的問題は、(1) LIBORからの移行に伴う金利等に関する計算方法やスプレッド調整をどうするか、(2) 取引条件の変更に第三者の同意が必要かどうか、(3) RFRへの移行費用をどの契約当事者が負担すべきかといった点です。

既存の契約上適切なフォールバック条項があるか、代替レートの修正等に関する合意が当事者間でできるのであれば、これらの問題はスムーズに解決できることもありますが、修正案に合意できず、紛争に発展する可能性があることについてもよく考える必要があります。

例えば、契約に関するものとしては、(1) LIBORのままでの契約履行を義務付けられたり、(2) LIBORの公表が廃止される段階における契約違反や履行不能等の主張がなされたりする可能性があります。

また、契約には直接関連しない紛争も生じうるかもしれません。例えば、金融商品の提供企業(銀行・投資会社等)が契約締結時にベンチマーク移行の事実やリスクを適切に開示しなかった場合、相手方は、開示や説明が不十分であった、あるいは詐欺的であるとの主張をすることも可能です。さらに、LIBORを参照している金融商品を消費者に提供している企業は、誤解を招くような、あるいは不正確な開示があったとして、集団請求者や規制当局から不公正・欺瞞的取引慣行法に基づく請求の対象となるリスクもあります。

4. LIBORからスムーズな移行を促すためのエッセンス

LIBORからのスムーズな移行のために、まずは、LIBORに関連する商品・契約を特定することです。次いで、LIBOR公表廃止による悪影響を軽減するために、(1) 可能であれば、新規契約にはLIBOR以外の金利指標(SOFR等)を使用すること、及び、(2) 2021年末を超える満期の既存契約にはフォールバック条項の追加を検討した方がよいでしょう。LIBOR公表廃止による影響が、契約当事者のみならず第三者に波及しないかということも確認する必要があります(例えば、シンジケートローン契約を締結している場合において優先債権者との交渉が、劣後債権者に影響しないか)。

加えて、金融機関等業規制が厳しい分野の企業においては、当該変更が、契約相手方・関連当事者の問題のみならず、法令・コンプライアンス上の問題となることも踏まえて方針を総合的に検討する必要があります。この場合は、特に一法域を越えた複数法域における影響も考える必要が出てくるかもしれません。

これらの問題は、時には契約相手方、関連当事者や当局等との交渉で必要となり、かつ米国や英国で議論が進んでいる論点ということもあり、これらの論点に詳しく、日本企業のニーズをよく理解している外部専門家等の早めの起用が重要なポイントになってくるでしょう。

(執筆担当者:岩崎スチュードベーカー


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