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2021.03.03

【コラム】米国証券法の域外適用/米国証券訴訟の最新動向

INSIGHT

米国証券法の域外適用を制限する連邦最高裁判決から10年
日本企業の米国証券訴訟への脅威は消えたのか

2010年6月に連邦最高裁がSecurities Exchange Act of 1934(証券取引所法)の域外適用を制限する判決(モリソン判決)を下してから10年が経過しました。

米国の証券訴訟では、「(証券の売買に関して、)重要な事実について不実表示をすること又は重要な事実の表示を行わないこと」を禁止した証券取引所法10条(b)項及び米国証券取引委員会(SEC)の規則10b-5が根拠とされることが多く、実際にも、不適切会計等の問題を起こした企業に対し、日本でいうところの有価証券報告書等に不実表示がある(証券詐欺で被害を被った)として、投資家らから損害賠償請求のクラスアクションを起こされることが少なくありません。

そして、かつては、損害の原因となる「行為」やその行為の「効果」が米国内や米国民に生じた場合には、証券取引所法の適用が認められる(米国での証券訴訟が認められる)とされ、(1)米国外の投資家が、米国外の証券取引所での取引で被った損害につき、外国企業を訴える場合や、(2)米国の投資家が、米国外の証券取引所での取引で被った損害につき、外国企業を訴える場合であっても米国証券訴訟が認められるという状況にありました。

そこで、モリソン判決は、米国議会がその法律について米国外でも適用されるという積極的意図を明確に表明していない限り、当該法律は米国内でのみ適用されると推定しなければならないとしたうえで、証券取引所法の適用が認められる(米国での証券訴訟が認められる)のは以下のいずれかの取引に限定されるとしました。

  1. 米国内の証券取引所に上場されている証券の取引
  2. その他の証券についての米国内で行われた取引

上記のうち、1.の内容は明確であるのに対し、モリソン判決は、米国の証券取引所に上場されていない証券についての「米国内で行われた取引」とは具体的に何を意味するのか判示しなかったことから、いかなる場合が2.に該当するかについてはモリソン判決後の下級審での判断の積み重ねに委ねられることになりました。

この点、米国の証券取引所に上場していない日本企業を含む外国企業において、その発行する株式等の証券が「米国内で行われた取引」に該当する可能性のある場合としては、米国の証券市場において米国預託証券(ADR)が発行・流通している場合があります。

ADRとは、米国の信託銀行等の預託機関が外国企業の株式を取得した後、その株式の所有権を示す預託証券を発行し、米国株式と同様に、米国の証券取引所や店頭での取引が行われるものです。ADRは、以下の表のように、その裏づけとなる株式の発行企業の同意(スポンサー)があるか否かや既存株式をベースにしたものか新株発行を伴うものかで特色が異なります。例えば、レベル1ADRは、米国の証券取引所に上場するコストをかけずに米国の投資家や資本を呼び込むことができるという点では外国企業にとってもメリットがあるものです。

  • スポンサーなしADR:原則として外国企業の意思とは無関係に、米国預託機関が主体となって設定・発行し、主に店頭取引により流通するもの
  • スポンサーつきADR:外国企業が主体となり、米国預託機関と預託契約を締結することで設定・発行し、店頭取引や証券取引所での取引により流通するもの
スポンサーなしスポンサーつき
レベル3
(新株発行(資金調達)を伴うもの)
(該当なし)米国の証券取引所に上場
レベル2
(既存株式をベースに組成)
(該当なし)米国の証券取引所に上場
レベル1主に店頭取引(非上場)主に店頭取引(非上場)

そして、ADRのうち、レベル2ADRとレベル3ADRについては、米国の証券取引所に上場されていることから、これらのADRの裏づけとなる株式を発行している外国企業に対して証券取引所法の適用が認められる(米国での証券訴訟が認められる)のはモリソン判決のもとで疑義がないところですが、他方、非上場で店頭取引されているレベル1ADRについては、モリソン判決後の下級審で判断が分かれています。

もっとも、レベル1ADRのうち、スポンサーつきのものについては、(「外国性の強い取引」であることを理由に証券取引所法は適用されないと判断した下級審もあるものの、)外国企業がADRの発行や流通において米国の投資家に向けて積極的に関与していたということを理由に証券取引所法の適用が認められ、米国証券訴訟に服しうるというコンセンサスが高まりつつあるといえます。

問題は、レベル1ADRのうち、スポンサーなしのものについてです。上記のようにレベル1スポンサーありADRについて証券取引所法の適用を認めるのはADRの発行・流通における発行企業の積極的な関与にあることからすると、レベル1スポンサーなしADRの場合、外国企業はADRの発行に同意しておらず、「米国内における取引」に関与しているとはいえないことから、証券取引所法の適用は認められないと考えるのが素直であり、実際、東芝に対する米国証券訴訟においてそのように判断する連邦地方裁判所の判断が2016年5月に出されていました。

ところが、その控訴審である第9巡回区連邦控訴裁判所(カリフォルニア州等をカバー)は、「米国内で行われた取引」といえるかは、東芝の関与にかかわらず、以下のいずれかが必要であり、原告がこれらを立証しているかについて判断させるため、2017年6月、連邦地方裁判所に差し戻しました。

  1. 米国内で撤回不能な義務が生じたこと
  2. 米国内で証券の所有権が移転したこと

ただし、第9巡回区連邦控訴裁判所は、証券取引所法10条(b)項は「証券の売買に関して(不実表示等を行ってはならない)」と規定していることから、(ADRの売買がどこで行われたかのみならず、)東芝の不実表示とADR売買との関連性についても原告に立証を求めており、外国企業とADRとの関連性を不要としているものではありません。

このような第9巡回区連邦控訴裁判所の判断の背景には、証券取引所法の適用が認められないとした場合に、スポンサーなしADRを購入した米国の投資家が救済される手段がなくなってしまうということがあるようです。

これに対し、第2巡回区連邦控訴裁判所(ニューヨーク州等をカバー)は、証券取引は電子的に行われること等に鑑みると、外国企業が米国内でのADR取引に関与していない場合には、仮にその取引が「米国内で行われた取引」であるとしても、「外国性が強い取引」であるため「許容範囲を超えた域外取引」になるとし、米国での証券訴訟を認めない判断をしています。

証券取引所法の適用を認めるための要件第2巡回区連邦控訴裁判所
(ニューヨーク州等をカバー)
第9巡回区連邦控訴裁判所
(カリフォルニア州等をカバー)
「米国内で行われた取引」であること必要必要
「外国性が強い取引」でないこと必要不要
不実表示等と証券の売買との関連性必要必要

このように、いかなる場合がモリソン判決における「米国内で行われた取引」であり、また、証券取引所法の適用が認められるためには「外国性が強い取引」ではないことが必要であるのかについて、連邦控訴裁判所の間で見解が一致していないことから、東芝は連邦最高裁に裁量上訴しましたが、2019年6月、連邦最高裁は、理由を述べることなく、裁量上訴の申立てを却下しました。

直近でこのような動きがあったことからすると、連邦最高裁が証券取引所法の域外適用に関する解釈について判断することは当面の間はないものと見込まれ、モリソン判決から10年が経過した現在においても外国企業に対する米国証券訴訟の脅威は消えておらず、スポンサーなしADRであっても、外国企業がその発行・流通に何らかの関与をしていると判断されることで、米国証券訴訟のリスクにさらされる可能性があるという状況にあります。

そこで、米国証券訴訟のリスクを軽減するためには、さしあたり、スポンサーなしADRに可能な限り関与しないようにするという自衛手段を講じるほかなく、例えば、米国の預託機関からスポンサーなしADRを組成することについての要請があったときに同意あるいは容認しないようにする、ウェブサイトにおいて、第三者が自社の同意や許可なくADRを販売しているといった注意喚起をすることが考えられます。

スポンサーなしADRが発行・流通している日本企業は、米国証券訴訟の最新動向を注視しておくことが重要といえます。

(執筆担当者:関本/執筆協力者:スチュードベーカー


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