国際紛争(訴訟・仲裁)

【コラム】米国連邦最高裁判所、米国外の民間仲裁機関における米国ディスカバリーの適用可否を検討へ

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米国連邦最高裁判所、米国外の民間仲裁機関における
米国ディスカバリーの適用可否を検討へ

米国連邦最高裁判所(以下「最高裁」という)が、2021年10月期のServotronics, Inc. v. Rolls-Royce PLC and the Boeing Co.(事件番号20-794)において、合衆国法典第28編第1782条(28 U.S.C§ 1782)(以下「第1782条」という)に基づく米国のディスカバリー制度の適用範囲に影響を与える判断を近々行う可能性が出てきており、注目を集めています。

当該判断が出た場合、米国外で行われる民間仲裁で使用する証拠のため、米国法上のディスカバリー制度を利用することができるか否かに影響があるため、米国外での仲裁手続を行う又はそのような仲裁条項の入った契約を締結している日本企業の皆様においても実務的な影響があることが予想されます。

第1782条に基づくディスカバリー

第1782条に基づくディスカバリー命令では、ある個人(以下「対象者」という)が居住又は所在する地区を管轄する連邦地方裁判所が、対象者に対し、「外国又は国際法廷」で使用するための証言又は陳述をするよう命令し、また、文書又は他の物を提出するよう命令することができます。この命令は、「外国又は国際法廷」の嘱託書もしくは要請、又は利害関係人の申請に基づいて発することができます。さらに、裁判所は、特定の者に、ディスカバリーの実行に際して対象者から証言もしくは陳述を取ったり、文書等の提出を受領したりする権限を与えることができます。第1782条は、(1) 一般的に国際仲裁において証拠を収集するための手続は、コモンローの法域に比べて制限されており、(2) 仲裁廷は通常、召喚状を発行したり、第三者に証拠の提出を命じたりする権限がないことから、強力な手続であると考えられています。つまり、当事者は、米国の広範なディスカバリー制度を利用して、他の手段では収集することができない証拠を入手することができます。

本法は、「外国又は国際法廷」を定義していません。連邦裁判所は、この文言を、政府、行政又は準政府の権限で活動する機関を含むと解釈しており、これには外国裁判所、行政機関、二国間又は多国間の投資条約によって設立された仲裁裁定機関が含まれます。しかし、民間の商事仲裁機関が、この法律の適用範囲内に含まれるか否かについては、連邦裁判所において20年以上も意見が分かれています。第1782条について、連邦第4・第6巡回区控訴裁判所は、民間商事仲裁に適用されると判断していますが、連邦第2・第5・第7巡回区控訴裁判所は、民間商事仲裁に適用されないと判断しています。連邦第3・第9巡回区控訴裁判所における係争中の事件は、この見解の対立をさらに深める可能性があります。

最高裁での争点の本質

この論点は、航空機エンジンの部品メーカーであるサーボトロニクス社が、ロールス・ロイス社との英国での仲裁において、第1782条に基づく証拠開示を求めたことに端を発します。

2016年1月、ボーイング787-9ドリームライナー機に搭載されていたロールス・ロイス社が製造したエンジンが、サウスカロライナ州での飛行試験中に出火し、機体を損傷させました。ボーイング社はロールス・ロイス社に補償を求め、ロールス・ロイス社とその保険会社は、2017年にボーイング社と1,200万ドル(約13億円)で和解しました。その後、ロールス・ロイス社は、サーボトロニクス社のバルブが火災の原因であったと主張して、サーボトロニクス社に補償を求めました。両当事者の契約に従い、ロールス・ロイス社は、サーボトロニクス社に対し、ロンドンで英国勅許仲裁協会(Chartered Institute of Arbitrators)の規則に基づいて仲裁を開始しました。

その後、サーボトロニクス社は、ロンドンでの仲裁で使用する証拠をボーイング社から得るために、第1782条の申請を二つ並行して行いました。一方の申請は、証人予定のボーイング社の従業員の連邦地方裁判所サウスカロライナ州地区で行い、もう一方の申請はボーイング社の本社所在地である連邦地方裁判所イリノイ州北部地区で行われました。

連邦地方裁判所サウスカロライナ州地区は、サーボトロニクス社のディスカバリー命令の請求を却下しました。ところが、Servotronics, Inc. v. Boeing Co., 954 F.3d 209 (4th Cir. 2020)において、連邦第4巡回区控訴裁判所は、英国の仲裁廷は第1782条の趣旨に照らして、「法廷」に当たると判断し、原審の判決を破棄し、再審理するよう原審に差戻しました。連邦第4巡回区控訴裁判所は、「『外国又は国際法廷』の定義」が「政府に与えられた権限を行使する機関」のみを包含するとしても、連邦仲裁法や英国仲裁法等の法律に従って運営される民間仲裁機関が、第1782条における「外国又は国際法廷」に該当すると判断しました。

同一紛争内であるにもかかわらず、連邦第7巡回区控訴裁判所では異なる結論が出されました。連邦地方裁判所イリノイ州北部地区は、サーボトロニクス社のディスカバリー命令の請求を認め、召喚状を発行しましたが、ロールス・ロイス社とボーイング社による召喚状の無効及び取消しの申立てが認められました。Servotronics, Inc. v. Rolls-Royce PLC, 975 F.3d 689 (7th Cir. 2020)において、連邦第7巡回区控訴裁判所は、第1782条が「外国又は国際法廷」を国家が支援する公的又は準政府の法廷に限定しており、民間の外国仲裁機関は含まれないとし、召喚状を取消すという連邦地方裁判所の判決を認容しました。

最高裁は、2021年3月22日、サーボトロニクス社からの連邦第7巡回区控訴裁判所の判決に対する裁判記録移送提出命令申立て(petition for a writ of certiorari)を受理し、同控訴裁判所の審理を行うことを決定しました。最高裁は、2021年10月期(2021年10月~2022年9月)に当該審理を行う予定です。

最高裁の評価

巡回区控訴裁判所は、どの仲裁機関が第1782条に基づいてディスカバリーを求めることができる「法廷」とみなされるかについて矛盾した判決を出しているため、最高裁はこの論争に決着をつけ、地方裁判所、弁護士及び当事者の不確実性を取り除く機会を得ました。しかし、最高裁が本件を審理する前に、基礎となる仲裁(2021年5月予定)が終了し、最終裁定が出された場合、この論争の決着は持ち越しとなる可能性があります。もしくは、最高裁が長年の判断の分裂を考慮して、この問題について審理すると決定することも考えられます。

この論争に対し最高裁の権威ある裁定が下されるまで、当事者は第1782条の申請を行う際に、開示された証拠を利用する予定の外国仲裁等の手続が第1782条の要件を満たすかを、慎重に検討する必要があります。

(執筆担当者:スチュードベーカー/執筆協力者:小田


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小田 亮治
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