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【コラム】インド市場への投資の鍵 – インド外資規制の最新アップデート

インド市場への投資の鍵
– インド外資規制の最新アップデート –

日本企業による投資有望国として名前が挙げられることの多いインド。
来年、2023年にはインドの人口は中国のそれを上回り、世界最多となる見通しが国連により先月、2022年7月に発表され、経営戦略上無視することのできない巨大な市場の一角であり続けることは間違いありません。もっとも、インドは複雑な法規制があり、また、その改正も頻繁であることから、特に外国勢はその対応に苦労することがよくあります。

今回は、複雑な法規制の中でも、重要なインド法規制の一つである外資規制と価格規制の最新アップデートにつき、基本とともに直近のアップデート内容をダイジェストでお伝えします。

1. インド外資規制関連のアップデート

(1) インド外資規制の概要・振り返り

  • 外国直接投資規制:外国企業によるインド資本の取得にあたっては、外国為替管理法(Foreign Exchange Management Act)上の外国直接投資規制が適用されます。
  • FDIポリシー及びプレスノート:同法を受け、外国企業が出資する企業の事業は、商工省(Ministry of Commerce and Industry(MCI))産業政策促進局(Department of Industrial Policy and Promotion(DIPP))が発布する最新の統合版FDIポリシー(Consolidated FDI Policy)及び同局の通達であるプレスノート(Press Note)に従い、各事業ごとの要件を満たす場合に認められています(Foreign Exchange Management(Transfer or Issue of Security by a person resident outside India)Regulations 5条1項・別紙等参照)。同別紙にて、1. 外国直接投資が禁止され、又は認められる事業分野、及び、2. 認められる場合に自動承認ルート(事前承認なくしてインド準備銀行に対する事後報告で足りるとされる手続)の対象となる事業分野について細かく列挙されていることから、インドへの投資にあたっては、投資先の事業内容の確認が重要な初動の一つとなります。
  • 度重なる法改正:特にプレスノート(Press Note)は度々変更・アップデートされるため、投資実行においては、インド法のアップデート状況の確認が必須となっています。例えば、2020年には、インドと国境を共有する国(中国等)の事業体、又は、当該国に所在若しくは当該国の国民であるインド投資の受益者は、インド政府当局の承認/クリアランスがなければインド国内への投資ができないとされ、大きな話題を呼びました(いわゆる「Press Note 3」)。

(2) インド外資規制につき何が変わったのか・今後の留意点は?

Press Note 1:上記のとおり、プレスノート(Press Note)による変更は度々行われるところ、まず、2022年4月12日付で発行されたプレスノート(Press Note 1)による変更点をご紹介します。同プレスノートは、巨大国営企業であるインド生命保険会社(LIC)に対する外国投資家の株式取得の緩和を企図していたものですが、例えば、以下のような影響があり、外資企業を歓迎する一助となる形になっています。

  • 従業員への柔軟なインセンティブスキームを可能に:従前、従業員へ株式ベースの報酬を提供する場合、(a) ストックオプション又は(b) 功労株式(sweat equity)の2種類が想定されていましたが、これら以外の柔軟なインセンティブスキームを可能とする改正がなされています。その他適用される会社法や上場規則、税法等への注意は必要ですが、インド企業と合弁/JV事業を営む日本企業等、海外企業にとって柔軟なインセンティブスキームを可能にしていることに間違いありません。
  • 柔軟な転換社債を可能に(スタートアップへの出資):転換社債(Convertible Note)は資本(Equity)証券と負債(Debt)証券の双方の性質を有するものであり、特に初期段階のスタートアップへの投資において用いられることがあります。転換期限は最大5年とされていましたが、改正により最大10年までが許されるようになりました。
  • その他FDIポリシーの文言の明確化:インドの法規制の理解を複雑にしている一つの理由が、法令上、同じ意味であるにも関わらず異なる用語が使われていること等法令用語が適切に整っていない点が挙げられます。本改正により、完全ではないですが、例えば、不動産業(real estate business)や合併等(merger/demerger/amalgamation)の用語の利用方法について一定程度整ってきており、今後の運用が明確になってきました。

Press Note 3:Press Note 3に関する直近の改正につき、2022年6月10日に交付されたCompanies(Appointment and Qualification of Directors)Amendment Rules, 2022による改正をご紹介します。

  • 上記のとおり、Press Note 3は、インドと国境を共有する国(中国等)からの直接・間接の投資を制限する内容でしたが、本改正により、当該国からの投資のみならず、付随関連する行為である役員選任についても、インド政府当局の承認/クリアランスが必要になりました。
  • インド企業への投資を検討している企業の皆様のみならず、既にインドへ出資済みの日本企業の皆様にも影響がありうる話ですので、自社において中国資本が1株でも関与されている可能性がある場合には対応を検討されてもよいかもしれません。

2. インド価格規制のアップデート

(1) インド価格規制の概要・振り返り

  • 外資規制に加えて、日本企業によるインドへの投資の多くの場面で問題となりうる規制が、価格規制(pricing guideline)です。
  • 価格規制上、株式譲渡及び新株発行のいずれの場面についても、一定の「基準価格」を基準として、インド居住者側に有利な規制内容となっており、上場会社の株式取引の場面においては、インド証券取引委員会(SEBI)ガイドラインに従い、当該「基準価格」が定められます。

(2) インド価格規制につき何が変わったのか・今後の留意点は?

2022年1月14日、SEBIが上場株式の優先株発行時における第三者割当価格に関する規制の改正を行っており、上場株式に関する価格規制等に影響が出ています。

  • 「基準価格」の変更:まず、上記「基準価格」の考え方に下記のような変更が生じています。変更前と変更後であわせてご確認ください。
    • 変更前:基準日(当該発行決議の株主総会の日)から起算して直近26週間又は2週間の株価の終値の州ごとの最高値及び最安値の平均につき、26週間又は2週間のいずれか高い価格
    • 変更後:基準日から起算して直近90取引日又は10取引日の株価の終値の州ごとの最高値及び最安値の平均につき、90取引日又は10取引日のいずれか高い価格。ただし、発行会社の定款が上記いずれかの価格を上回ることになる計算方法を規定している場合にはこの限りではない。
  • 独立した第三者からの価格算定の取得等の追加要件:また、当該改正では、支配権の変更が生じるような案件の場合には、独立した第三者からの価格算定レポートの提出及び独立取締役委員会による賛同意見も必要とするといった変更もされています。上場会社のM&Aを行う場合のスケジューリングや関係当事者の巻き込み方に一層の工夫が必要です。

(執筆担当者:岩崎アイヤル


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