規制・当局対応

【コラム】日本企業が米国の「制裁」対象に?~OFACリスクの把握と対応

日本企業が米国の「制裁」対象に?
~OFACリスクの把握と対応~

このところ、「制裁」という言葉をよく耳にします。米国は、ロシアのウクライナ侵攻に様々な制裁で対抗しており、米国財務省外国資産管理局(「OFAC」)が公表・実施する制裁を含め、新しい制裁を定期的に実施し続けています。このOFACによる制裁は、特定の国、グループ、個人及び活動(例:麻薬取引やテロリズム)を対象とするものですが、OFACの規制上、米ドル建て又は米国資金を利用するだけで(特にそれ以外に何ら米国との接点がない場合でも)米国との接点、いわゆる「ネクサス」を持つ取引と評価され、当該取引を行う外国企業が米国による制裁の対象となりうるのです。

本コラムでは、非米国籍企業による米ドルの利用のほかに米国との関係がない取引に関するOFACの最近の執行事例を紹介し、日本企業がOFACによる制裁のリスクを最小限に抑えるために採りうる対策についてご説明します。

OFAC規制は米国と何ら関係のない非米国籍法人にも適用されうる

OFACによる制裁は、一般的には、「米国人」(米国籍企業、米国市民又は永住権保持者等)が特定の国籍を有する人及びブロック対象(「SDNリスト」)に指定された国又は対象と貿易又は金融取引を行うことを禁止するものですが、これに限らず、OFAC規制の違反を「生ぜしめる」非米国人に対しても適用可能(すなわち、米国人又は米国の事業体に違反行為を行わせた米国人以外も制裁を受ける)となっています。

非米国人が、OFAC の制裁対象国・地域・人が関与する商業活動にかかる金融取引 (通常は米ドル建て)を、米国の金融機関に対して又はこれを通じて処理することにより、OFAC 規制に違反したという事例は数多く存在します。米国の司法権の及ぶ組織が関与していない取引(例えば、第三国からOFACの制裁対象国への商品の出荷)であっても、当該取引に関連する支払いに米国の金融機関が関与しただけで、違反行為を構成しうるのです。

2022年4月にOFACがオーストラリアの貨物輸送物流企業であるToll Holdings Limited(「Toll」)に対して行った最近の事例では、非米国人が米ドルの使用によりOFAC制裁の対象となることが明らかとなりました。Tollは、米国人の所有でもなく、米国やその領土に所在するわけでもありません。同社が北朝鮮、イラン、シリアにかかる貨物や、SDNリスト指定対象の財産に関して行われた支払取引に関与していた点を除けば、OFACがTollに対して直接的な管轄権を行使できる点はありませんでした。しかし、支払いが米国の金融機関を経由していたため、OFACは、Tollが「米国の金融機関をして...制裁対象となる人、又は法域との違反行為に従事させた」と認定しました。制裁違反を「生ぜしめた」と認定された者(非米国人を含む)は、それだけでOFAC規制の対象となります。OFACは、さらに、「Tollが米国の経済制裁規制を徒に無視し」、「明白な違反を知っていたか、知るべき状況にあった」と認定し、当該違反行為の法定刑の上限は8億2,600万米ドル以上となりました。しかし、Tollによる自主的な開示、適切かつ組織的な内部調査の実行、コンプライアンス強化に努めたことが減額要因となり、最終的な罰金額は600万米ドルとなりました。

日本企業への教訓

上記のTollの事例からも明らかなとおり、OFACは、米国の国家安全保障上の利益を守るため、非米国人に対して広範な司法権を積極的に行使しています。日本企業も当然対象となりうるため、OFAC規制違反のリスクを最小化するために、また、仮に違反が発生した場合の潜在的な罰金額を軽減するためにも、一定の措置を講じておく必要があります。

  • 法令の改定に対応したコンプライアンス・プログラムへの更新
     米国の経済貿易制裁の流動性を考慮すると、コンプライアンス・プログラムは、SDNリストの更新やOFAC が公表する指針、新しい大統領命令の発行や新法令の制定等、OFAC が公表する変更に迅速に対応するものでなければなりません。実際、OFACは、国内外を問わず、企業が各社の事業運営に合わせたリスクベースの規制遵守プログラムを「策定、実施、定期的に更新」することを期待しています。数多くの企業が、OFAC規制を理解しないままに、当該規制は特定の取引又は行為を禁止していない、又は自社の組織や業務には適用されないと誤解し、米国の制裁対象となってしまう過ちに陥っています。OFAC規制は実質的に無過失責任であるため、不知は反論になりません。
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  • 従業員への十分な教育
     OFACは、企業に対し、全ての該当する従業員及び利害関係者(顧客、供給業者、取引先、相手先等)が、彼らの米国の制裁法上の義務について教育を受けさせることを期待しています。具体的には、内容として、同企業が提供する製品やサービス、関係を有する顧客、取引先、パートナー企業、及び企業が事業を行う地理的地域に応じたものである必要があります。また、各従業員に対して、(i)必要かつ業務に応じた知識を提供し、(ii)各人の規制遵守責任を伝えたうえで、(iii)各人の規制遵守にかかる知識を確認することが求められます。頻度及び対象範囲としては、少なくとも年1回、全ての該当する従業員及び担当者に提供される必要があります。そして、もし違反が確認された場合は、企業は、関連する人員に対して、教育その他の是正措置を講じることが求められます。
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  • デューディリジェンスの実施と契約関係の把握
     OFACは、契約上の規制遵守条項だけでは、取引先やビジネス・パートナーが米国の制裁規制に違反した場合の企業の責任回避には不十分であると述べています。企業は、いかなる取引であっても事前に、当該取引に関わる関係当事者について適切なデューディリジェンスを行うべきで、これには関係当事者の所有及び支配の及ぶ範囲も含まれます。企業のコンプライアンス及び法務部門も、必要に応じて、提案されている取引の検討や米国制裁法の遵守の確認に関与することが求められます。また、企業は、顧客、代理店、仲介業者その他の第三者を含め、ビジネス・パートナーは全て、適用される米国の禁止当事者リストに照らして選別しなければなりません。参照すべきリストは、事業の範囲や種類によって異なりますが、SDNリストの確認は最低限行われるべきです。
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  • 迅速な是正と自主申告の検討
     OFAC規制の違反の疑いを認知した場合、違反行為の停止と適切な是正措置を講じる必要があります。是正措置に含まれるものとして、内部調査の実施や、契約の解除、違反行為に関与した従業員の懲戒処分、コンプライアンス方針及び手続への反映等が考えられます。また、企業は、明白な違反行為を自主的に当局に開示すべきか、検討する必要があります。OFACの公表する執行ガイドラインでは、違反行為を自主的に申告した企業に対する減免措置として、罰金の法定基準額の最大50%減額が定められています。Tollの事例に見られるように、OFACは、違反行為に対する罰則の内容及び罰金額の軽重を決定する際に、自主申告と適時の是正措置を減免要素として考慮しています。

結論

日本企業は、外国企業との取引、特に米ドル建ての取引を行う場合、OFACのリスクに晒されています。Tollの事例が示すように、米ドル建てであることのほかには米国と全く関係のない取引でもOFAC規制の対象となります。OFACの執行手続の対象となることは、あらゆるビジネスにとって、深刻かつコストのかかる重大な懸念事項です。しかし、このようなリスクは、教育や社内ポリシー・手続の見直しを通じたコンプライアンス・プログラムの改善・強化により、また、仮に違反行為を発見したとしても、迅速に、自主的な開示が必要かどうかを判断するための調査を実施し、OFACに協力することにより、軽減することが可能です。OFACリスクについては、これを適切に把握し、適時に社内のコンプライアンス・プログラムを強化していくことが肝要です。

(執筆担当者:スチュードベーカー/執筆協力者:石原


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