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【コラム】令和4年度における下請法の運用状況及び重点立入業種の選定

令和4年度における下請法の運用状況及び重点立入業種の選定

1. はじめに

令和5年(2023年)5月30日、公正取引委員会(以下「公取委」といいます。)は、「令和4年度(2022年度)における下請法の運用状況及び中小事業者等の取引公正化に向けた取組」を公表しました。

令和4年度においては、下請法違反による親事業者への勧告・指導の件数は8,671件と過去最多になっており、公取委の執行に対する強い姿勢が見られます。

また、同日、令和5年度における下請法上の重点立入業種として、以下の5業種が選定されました。

― 情報サービス業、道路貨物運送業、金属製品製造業、生産用機械器具製造業、輸送用機械器具
  製造業

令和4年度には、上記5業種のうち情報サービス業を除く4業種が重点立入業種として選定され、実際に174件の重点的な立入調査が実施されました。公取委は、令和5年度も上記5業種に対して重点的な立入調査を実施していく意向を示しています。

以下、公取委の各公表につき、重要と思われるポイントを取り上げてご紹介するとともに、事業者として必要な対応についても検討します。

2. 令和4年度における下請法の運用状況

(1) 勧告・指導の件数

令和4年度の勧告件数は6件です。近年は4件~7件で推移していたため、概ね横ばいの状況です。

他方で、指導件数は8,665件で、過去最多の件数となっています(勧告と指導の違いについては、下記(3)を参照ください。)。

これは、公取委が令和4年度において、エネルギーや原材料等の価格高騰に伴う適切な価格転嫁ができるよう、調査対象となる親事業者数を令和3年度より5,000名拡大するなどして重点的に調査を行った結果と思われます。

このような方針は、内閣官房、消費者庁、厚生労働省、経済産業省、国土交通省及び公取委により共同で取りまとめられた令和3年12月27日付「パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化施策パッケージ」(以下「転嫁円滑化施策パッケージ」といいます。)を踏まえたものですので、今後も継続されるものと考えられます。

(2) 勧告・指導件数の多い違反行為(支払遅延、減額、買いたたき)

上記の勧告・指導がなされた8,671件における下請法違反行為を類型別にみると、全体で14,629件となります(※1つの事件において、複数の違反行為類型について勧告・指導が行われているケースがあるため、数字が大きくなっています。)。そのうち、発注書面の交付義務等を定めた手続規定に係る違反(下請法3条又は5条違反)が7,531件、親事業者の禁止行為を定めた実体規定に係る違反(下請法4条違反)が7,098件となっています。

手続規定違反は、そのほとんど(6,697件)が書面交付義務違反です。

実体規定違反について行為類型別の内訳をみると、支払遅延が4,069件(実体規定違反行為の類型別件数の合計の57.3%)と最も多い類型になります。そして、下請代金の減額が1,273件(同17.9%)、買いたたきが913件(同12.9%)と続き、これら3つの行為類型で全体の約9割を占めている状況です。

支払遅延は、下請法のルール(受領日から60日以内に支払わなければならない等)に反していれば、たとえ当事者で納得して合意した支払日であっても違法となります。また、下請事業者側の請求書の発行が遅れているせいで親事業者の支払いができなくても、親事業者側の下請法違反になります。そのため、下請法を正しく理解し支払いの管理をする必要があります。

(3) 勧告・指導がなされた場合の親事業者への影響

下請法違反がある場合、その違反行為の取り止め、下請事業者の不利益の原状回復、再発防止等を求める勧告を受けることがあります(下請法7条各項)。勧告を受けた場合、違反行為や勧告の内容、そして勧告を受けた企業名も公取委のウェブサイト上で公表されることになります。また、ほとんどすべてのケースで、新聞やニュース等で報道されることになります。勧告を受けた事業者は、その後、勧告への対応状況について改善報告書の提出が必要となります。

また、勧告に至らない事案であっても指導がなされる可能性があり、上記の統計結果のとおり、実務上は指導による事件処理がほとんどです。指導の場合、個別の違反行為や企業名の公表はされませんが、下請法違反行為を取り止めて原状回復等を行うよう指導され、改善報告書の提出が求められ得る点は勧告と同様です。特に、公取委は、令和4年5月20日から、再発防止が不十分と認められる事業者(繰り返し下請法違反を行う事業者)に対しては、取締役会決議を経た上での改善報告書の提出を求める方針を採っています((令和4年5月20日)下請法違反行為の再発防止が不十分な事業者に対する取組の実施について)。実際にも、当該方針に従って公取委が改善報告書の提出を求めた事例は令和4年度で9件ありました。

以上のとおり、指導であっても、事業者側の負担が軽いとはいえないため、注意が必要です。

3. 重点立入業種(5業種)の選定

公取委は、令和5年度の下請法上の重点立入業種として、情報サービス業道路貨物運送業金属製品製造業生産用機械器具製造業及び輸送用機械器具製造業の5業種を選定しました。

令和4年度にも、情報サービス業以外の4業種が重点立入業種として選定され、実際に174件の重点的な立入調査が実施されておりますので、名称どおりの重点的な運用がなされているといえます。今回新たに追加された情報サービス業(日本標準産業分類上、受託開発ソフトウェア業や情報処理サービス業等が含まれます。)は、令和4年度における下請法上の「買いたたき」の処理状況(前記2.(2)記載の913件の業種別内訳)等を踏まえて追加されたものであり、公取委の関心が窺えます。

令和5年度についても、公取委は、これらの業種について重点的な立入調査を実施していくとともに、当該立入調査を通じて、協議を経ない取引価格の据置き等が認められた事案については、勧告又は指導を迅速かつ積極的に実施するとの意向を示しています。

4. 事業者側に求められる対応

公取委の各公表を踏まえますと、事業者側には以下の心構え・対応が求められます。

まず、令和5年度の下請法上の重点立入業種として指定された5業種に該当する事業者は、公取委が積極的な調査・措置を採ることを明確に表明していますので、より一層の下請法の遵守が必要となります。

特に、令和5年度から新たに重点立入業種に指定された情報サービス業に該当する事業者は、改めて下請法が守られているか確認する必要があります。具体的には、下請法が適用される取引及び取引先を確認・把握し、書面交付義務を中心とした手続規定違反がないか、支払遅延や減額、買いたたきといった実体規定違反がないか、といった事実確認を進める必要があります。

なお、公取委は、令和4年6月29日付「ソフトウェア業の下請取引等に関する実態調査報告書について」を公表し、ソフトウェア業界では買いたたき等の違反行為が多重下請構造型のサプライチェーン上を連鎖していくという問題が見られたことや、当該業界においては独占禁止法・下請法に関する知識が十分とはいえない状況が明らかになったこと等の問題点を指摘しています。このように、公取委の当該業界に対する関心の高さが窺われ、今後積極的に法執行を行っていく可能性があります。

また、前記2.(1)のとおり、公取委はエネルギーや原材料等の価格高騰を適切に価格に転嫁しない「買いたたき」について積極的に調査・執行しています。そのため、重点立入業種に該当しない場合であっても、下請業者と何らの協議もせずに価格を据え置きにしていないか等チェックする必要があります。

下請法違反行為をしてしまっていた場合も、公取委が調査に着手する前に自発的に申し出を行い、自発的な改善措置を採っている場合には、勧告を受けることを回避できます。重点立入業種に該当するか否かを問わず、下請法の遵守状況のチェックや、下請法を遵守するための体制作りを行うことが重要となります。

なお、公取委は、本コラムで取り上げた各公表が行われた翌々日である令和5年6月1日に、「令和4年度における独占禁止法違反事件の処理状況について」及び「令和4年度における荷主と物流事業者との取引に関する調査結果及び優越的地位の濫用事案の処理状況について」を公表しています。資本金規模の要件等で下請法の適用がない場合であっても、支払遅延や減額、買いたたき等を行うと独占禁止法における優越的地位の濫用として違法になるおそれがあります。現在公取委は、優越的地位の濫用の執行も強化しておりますので(これも、前述の転嫁円滑化施策パッケージの流れを受けたものです)、下請法の適用がない取引先との取引であれば一切気にしなくてよい、というわけではない点には注意が必要です。

このように、近時は、下請法・独占禁止法(優越的地位の濫用)のいずれの面でも公取委は執行を強化していく動きを見せております。当事務所では、公取委での執務経験を有する弁護士等による、実際のビジネスを踏まえた下請法・独占禁止法対応をご提案しています。特に、公取委等から調査を受けた場合の調査対応や、予防的なコンプライアンス体制の整備についても広く経験・ノウハウを有しておりますので、不明点・質問等あればお気軽にお問合せください。

(執筆担当者:植村


※本記事の内容は、一般的な情報提供であり、具体的な法的アドバイスではありません。
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植村 直樹
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