国際紛争(訴訟・仲裁)

【コラム】裁判官経験者から見た国際民事紛争に関する訴訟実務

裁判官経験者から見た国際民事紛争に関する訴訟実務

はじめに

当事務所に今年4月に入所した弁護士の山崎雄大と申します。これまで私は、米国留学や外務省(ハーグ条約室)出向の期間を含め、裁判官や検事として約15年間職務に従事し、裁判所では行政部、交通部、労働部といった専門部に所属しつつ、主に民事裁判を担当してまいりました。

今回は、上記職歴に当事務所での担当業務も加えた私の経験を踏まえ、雑駁ではありますが、裁判官経験者から見た国際民事紛争に関する訴訟実務についてお話します。

裁判所に持ち込まれる国際民事紛争の例

裁判所に持ち込まれる紛争の多くは国内事案ですが、私が裁判官や検事として関与した事案に限っても、いわゆる入管法に関連した行政事件訴訟やハーグ条約実施法(国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律)に基づく子の返還申立事件等、国際的な事案が持ち込まれることがあります。

私が裁判所でこうした国際的な民事紛争に最も頻繁に接したのは、意外にも最後に所属した東京地裁の労働部であり、外国の労働者、企業、国(外国等に対する我が国の民事裁判権に関する法律9条1項は、外国等が所定の労働契約に関する裁判手続について我が国の裁判権から免除されない旨規定しています。)を当事者とする事案に複数関与しました。

こうした国際的民事紛争については、国際裁判管轄や準拠法等の法律的争点が問題になることも多いのですが、より実務的な特徴として、裁判官から見て気付いた点は次のとおりです。

英語書面の取扱い

国際的な民事紛争となる事案では、当事者間の契約内容や協議結果が英語の書面、あるいは英語と日本語(及びその他の現地言語)の書面で記録されることがよくありますが、私が関与した事案で、英語と日本語の書面の記載内容に齟齬が見られたことがあります。このような場合、いずれの言語による文言を優先するかが明示されているのが通例と思われますが、万が一明示されていない場合、将来の紛争の発生を誘発するとともに、裁判では当該書面の解釈が問題となります。いずれにしても、基本的なことではありますが、英語と日本語で書面を作成する際は、双方の間に齟齬がないよう慎重に確認する必要があります。

なお、日本の裁判所に提出する証拠には日本語訳を付けなければならず、英語の書面のみで審理がされることはありませんが、裁判官にも留学経験者を含め相当程度の英語能力を有する方々が多く、一定の文章であれば訳がなくとも理解することができるというのが私の印象です。そのため、裁判官から思わぬ指摘を受けることのないよう、裁判所に提出する日本語訳の書面についても、英語の記載内容と合致しているよう注意するのが望ましいといえます。

外国法令の調査

日本法を準拠法とする限り、外国法令の解釈が問題となることはまずありませんが、当事者が外国人や外国企業である場合、裁判の当事者となるために必要な当事者能力の有無等が問題になる場合があり、外国法令の調査が必要になる場合があります。

また、これは家事事件の例ですが、前述したハーグ条約実施法は、例えば一方の親によって日本に連れてこられた子を元の居住地である外国(常居所地国)に返還するための手続を規定した法律であり、子の監護権に関する外国法令の内容が問題になります。

こうした場合、外国法令や法制度につき適切な調査を行うことが必要になり、日本語文献で対応することができる場合もありますが、英語やその他の外国語での情報しかない場合には、適切な調査能力や提携先を持つ法律事務所に依頼する等の対応が必要になります。

本国との調整

これはどちらかというと外資系企業に当てはまりますが、訴訟への対応方針を決定するため、本国の会社あるいは本国から派遣された日本法人代表者の了承を得なければならない場合があります。こうした場合に重要になるのは、日本の裁判手続を英語で適切に説明し、本国側の理解を得ることですが、日本での民事裁判における代理人弁護士のみならず、日本法人の関連部署との調整を要するなどして、期日間に相当程度の調整を要する事案が見られました。

これは私の外務省(ハーグ条約室)出向時の経験とも重なるのですが、日本の法制度自体は、必ずしも英語圏諸国の制度のみを参考として策定されているわけではなく、様々な国の法令を参考として制定されている上、必ずしも法文には記載されていない訴訟実務等も存在するため、こうした事柄を適切に英語で説明することには困難が伴います。また、より事案の内容に踏み込んで、例えば訴訟終盤に和解の成否を検討する際には、裁判官から示された心証を参考にするなどして、訴訟の見込みを適切に説明する必要が生じますが、これを英語で説明することも同様に困難である場合があります。

こうした事態は、裁判所に持ち込まれる紛争に限らず、およそ国際法務全般に関連するものですが、弁護士の関与を検討する場合には、問題となる外国と日本の法制度の双方について適切な説明を行うことができる法律事務所に依頼することが必要になるでしょう。

終わりに

以上のとおり、日本の裁判所であっても、国際民事紛争には、解決に一定の語学能力を要するばかりでなく、異なる制度・文化間での調整を要するという意味でも、日本における訴訟実務と諸外国における法制度・法実務の双方についての理解を要します。実際に裁判にまで発展する事例は少ないとは思いますが、一定の紛争発生が見込まれる場合には、同種の事案につき適切な知見、ネットワーク、人員を有する法律事務所による支援を受けることが、紛争の効率的な解決に寄与するともいえるでしょう。

(執筆担当者:山崎


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