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【コラム】中国反スパイ法の改正および実務上の留意点

中国反スパイ法の改正および実務上の留意点

はじめに

2023年7月1日より改正「中華人民共和国反間諜法」(以下「反スパイ法」または「新法」)が施行されました。旧反スパイ法(以下「旧法」)と比べて、スパイ行為の定義が拡大され、当局の偵察手段も強化されており、中国国内で事業展開している日本企業も影響があるところです。特に、出張者や駐在員を中国に派遣する場合には、反スパイ法違反の嫌疑をかけられる等のトラブルに巻き込まれないように注意する必要があると思われます。

本コラムでは、今般の法改正の概要および実務上の留意点についてご説明します。

1. 反スパイ法改正の概要

(1) スパイ行為の定義

新法第4条は、同法の規制対象となる「スパイ行為」に該当する活動を列挙しています。旧法第6条は、スパイ行為を、スパイ活動の実施または指示、スパイ活動に対して資金援助する行為および国家安全に危害を及ぼす行為と定義していましたが、新法第4条では、新たに下記4項目が追加されました。

  1. スパイ組織に参加し、またはスパイ組織もしくはその代理人の任務を受ける行為並びにスパイ組織またはその代理人の手先となる活動1
  2. 国家秘密、情報およびその他国家の安全と利益に関わる文書、データ、資料または物品を窃取、偵察または買取し、不法提供する行為並びに国家公務員を策動し、誘引し、脅迫し、または国家公務員に対して贈賄して、反逆活動をさせる行為
  3. スパイ組織もしくはその代理人または国内外の機構、組織、個人が共謀して、国家機関、機密に関わるエンティティまたは重要なデータインフラストラクチャーのネットワークに対する攻撃、侵入、妨害、制御もしくは破壊活動を実行し、または実行を指示もしくは実行に対して資金援助をする活動
  4. 敵のために攻撃目標を指図すること

さらに、新法第4条では、「中華人民共和国の領域内で、または中華人民共和国の国民、組織、その他の条件を利用して第三国に対してスパイ活動に従事し、国家の安全を危険にさらした場合も、本法が適用される」と規定されており、中国に対してのみならず、中国以外の第三国に対してスパイ行為を行うことも反スパイ法の規制対象となります。

(2) 「双罰制」の導入

反スパイ法で規定するスパイ行為に該当し、犯罪行為(刑法違反)に当たらない場合、行政処罰がなされます。新法では、個人の行政責任に加えて、組織(企業、行政組織等)が違反した場合も、行政処罰がなされる、いわゆる「双罰制(両罰制)」が導入されました。具体的な罰則は下記のとおりです。

  • 個人スパイ行為:警告/15日以下の行政拘留/罰金
  • 組織スパイ行為:組織に対して罰金
            組織の責任者または直接責任者に対しては個人と同様に、警告/
            15日以下の行政拘留/罰金

なお、新法で導入された上記の罰金のほか、社会団体または企業組織がスパイ行為を行った場合については、国家安全を害する行為として、中国会社法第213条に基づき、営業許可が取り消される場合があります。「反スパイ法実施細則」第8条は、社会団体または企業組織を設立し、国会安全を害するスパイ活動を、スパイ行為として定めており、2022年に広州の企業が行った行為を同条のスパイ行為と認定して、営業許可の取消処分がなされた事例があります。

(3) 国家安全機関の捜査、調査権限の拡大

新法においては、スパイ行為に関する国家安全機関の捜査権限が下記の8項目に拡大されました。

  1. 身分証明書の検査、簡易尋問(新法第24条)
  2. 持ち物検査(新法第24条)
  3. 電子設備、電子施設および関連するプログラム、ツールの検査(新法第25条)
  4. 国家機密に関連性のある文書、データ、資料、物品を閲覧、取寄せ(新法第26条)
  5. 出頭命令(新法第27条)
  6. 口頭による出頭命令(新法第27条)
  7. 身体、物品、場所を検査(新法第28条)
  8. 関連する財産情報の取調べ(新法第29条)
  9. 場所、施設または財産の差押、凍結(新法第30条)
  10. 出国拒否(新法第33条)
  11. 入国拒否(新法第34条)
  12. 技術偵察措置、身分保護措置(新法第37条)

2. 実務上の留意点

(1) 企業の義務

反スパイ法に基づく規則である「反間諜安全防范工作規定」第8条は、企業を含む各種組織(機関、団体、機関、その他の社会組織)に対して、反スパイ活動の主体責任を課しています。主に、教育、トレーニングにより、スパイ行為を未然に防ぐことを目的としています。同条によると、企業を含む組織は以下の活動を行う義務があります。

  1. スパイ防止安全防犯教育および訓練を実施し、組織の職員の保安意識および対応能力を向上させる。
  2. 組織の反スパイ安全管理を強化し、関連する安全予防措置を実施する。
  3. スパイ行為やその他国家の安全を脅かす行為に関わる疑わしい状況を国家安全機関に適時に報告する。
  4. 国家安全機関が法律に従って任務を遂行するための便宜またはその他の援助を提供する。
  5. スパイ防止の安全対策を講じ、組織およびその職員が関与する緊急事態に適切に対応し、対処する。
  6. その他の果たすべきスパイ防止義務および安全保障義務2

上記義務を履行しない場合、国家安全機関は企業に対して、是正命令を出すことができます(新法第56条)。是正命令にもかかわらず、是正しなかった場合、当局は組織の責任者に対して、「約談」を行うことができます。「約談」とは、一種の事情聴取です。必要に応じて、約談の状況について当該組織を管轄する上位管轄機関に(例えば市の安全局から省の安全局に)報告することができます。約談の結果、スパイ行為や他の犯罪に当たる行為等が発覚した場合、国家安全機関は、当該組織に対して、警告、通報批評(公表)でき、状況が深刻な場合、責任のある指導者と直接の責任者に対して、行政処罰や刑罰が科されます。

また、国家安全機関が法に基づいてスパイ行為を捜査する場合、郵便・宅急便等の物流事業者、電気通信事業者およびインターネットサービスプロバイダーは、必要な支援と協力を行わなければなりません(新法第41条)。

(2) 出張者・駐在員に関する留意点

(i) 極力避けるべき行動

  1. 軍港、軍事施設、科学研究所やその周辺の撮影、関連施設付近での散歩
  2. 電子機器(パソコン、携帯電話、タブレット端末)で、国家秘密、国有企業の商業秘密等の機微なデータを保存すること
    →中国の国有企業の利潤率のデータを、国外に流通させたことで、反スパイ法違反で摘発された事案あり。
  3. 反社会的な発言、反社会的とみなされ得るキーワードの検索
    →政権転覆やそれに関するワード、反政府的なワード(台湾独立、政権批判等)はリスクが高い。

(ii) 当局の出頭命令

  1. 出頭命令の方法
    スパイ行為が疑われる場合に、当局から出頭命令が出される場合があります。出頭命令は書面によらなければなりませんので、国家安全機関は「伝喚証」を郵送またはその場で提示します。ただし、現行犯の場合は、口頭による出頭命令も適法です。この場合、機関職員は、自らの「工作証」(身分証明書)を提示します。
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  2. 出頭後の留置時間
    国家安全機関に呼び出されて、事情聴取が行われた場合、当局は最大8時間、当事者を留置することができます。ただし、状況が複雑で行政勾留や犯罪の疑いがある場合、24時間留置される可能性があります。
    実務では、留置時間が超過している場合に異議申し立てをすることがありますので、出頭した時間を必ず確認、記録してください。携帯で、出頭時に会社にメールやSMSを送る等、時間の記録を行うことが有用です。
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  3. 管轄機関の連携・拘束リスク
    「反スパイ法」下では、国家安全機構、すなわち国家安全局が管轄当局になりますが、同法は他の各行政機関との連帯協働を規定しているため、公安(警察)、秘密保持行政管理機関その他関連部署、軍隊の相当する部門にも管轄権があります。そのため、反スパイ法に基づく出頭後に、調査を経て疑わしい行為が発覚された場合、刑事犯罪につながる可能性があります。具体的には、国家分裂罪・国家分裂扇動罪(中国刑法第103条)、国家政権転覆罪・国家政権転覆扇動罪(同法第105条)等の他の犯罪行為で捜査につながる恐れがあり、長期間の拘束や刑罰のリスクがありますので、その点も留意の上、反スパイ法違反の嫌疑をかけられぬよう十分注意する必要があるものと思われます。

1「手先となる活動」とは、スパイ組織またはその代理人に身を寄せ、スパイ行為をすることを意味します。条文の中国語原文は、「投靠间谍组织及其代理人」。
2各地(各省、市等)の法律や条例、政令で定められているスパイ防止義務等を含みますが、法令上定められている義務に限定されておりません。

(執筆担当者:谷中/


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