国際紛争(訴訟・仲裁)Cross-border Disputes (Litigation and Arbitration)

【コラム】投資家対国家の仲裁(ISDS):日本の投資家のためのエグゼクティブ・サマリー

投資家対国家の仲裁(ISDS):日本の投資家のためのエグゼクティブ・サマリー

本稿は英語で作成された原文をもとに日本語要約を掲載しています。英語版の全文記事は以下よりご覧いただけます。
When Foreign Investment Goes Wrong: Investor-State Arbitration for Japanese Company

Executive Summary

日本の対外投資は、アジア、中東、米州全域で拡大を続けています。この成長伴い、政治的リスク、規制の突然の変更、そして事実上の収用(資産の没収など)に直面するリスクも高まっています。「投資家対国家の仲裁(ISDS)」は、受入国(ホスト国)の行為によって海外投資で損害を被った日本企業にとって、最も有効な対抗手段の一つです。

  • 概要
    投資家対国家の仲裁とは、投資先の国が投資条約、投資契約、または国内の投資法に基づいて負っている義務に違反した場合に、外国投資家がその国を直接提訴する国際仲裁の一種です。商事仲裁とは異なり、実体的な判断基準は主に国際公法から導き出されます。また、投資家は日本政府の外交交渉に頼ることなく、自らの名において請求を提起することができます。仲裁判断は最終的なものであり当事者を拘束します。ICSID(投資紛争解決国際センター)の仕組みを通じて、ICSID以外のケースではニューヨーク条約を通じて、強制執行が可能です。
  • 法的根拠と保護の源泉
    すべてのISDS請求は、受入国が「仲裁に応じる」と事前に同意していることを前提としています。日本の投資家にとって、この同意は、東南アジア、インド、中東、中南米の主要経済国を網羅する、日本の広範な二国間投資条約(BIT)や経済連携協定(EPA)のネットワークに見出すことができます。また、CPTPP(TPP11)、エネルギー憲章条約、日・ASEAN包括的経済連携協定などの多国間協定が、多くの場合で重畳的な保護を提供しています。さらに、資源が豊富な国などでは、事業権契約(コンセッション契約)や受入国の外国投資法が同意の根拠となることもあります。

    一般的に保証される実体的な保護規定は以下のとおりです。
    • 違法な直接的・間接的収用からの保護
    • 公正かつ衡平な待遇(正当な期待の保護や規制の安定性を保護)
    • 完全な保護および安全
    • 内国民待遇および最恵国待遇
    • 資金の自由な送金
    • (含まれている場合)アンブレラ条項に基づく、国が約束した特定のコミットメントの遵守
  • どのような場合に請求が可能か
    通常、次の4つの条件を満たす必要があります。
    • 申立人が日本の適格な投資家であること
    • 対象資産が条約上の「投資」の定義を満たしていること
    • 国家の行為が実体的保護基準のいずれかに違反していること
    • 手続上の前提条件(通常は紛争通知と3〜6ヶ月の冷却期間)が遵守されていること

    よくある具体的な紛争パターンとしては、ライセンスや事業権の突然の取り消し、投資時に前提としていた関税や優遇制度の不利益な変更、差別的な規制の執行、政治的動機による刑事処分や資産凍結措置、現地裁判所の判決による司法上の収用、国営企業(カウンターパーティ)による不払いなどが挙げられます。いずれの場合も、早期に条約の適用関係を把握(マッピング)し、証拠を保全することで、損害回収の可能性を大幅に高められます。

  • 手続き、救済策および強制執行
    仲裁手続きは、ICSID条約、ICSID追加的制度規則、またはICSID、SIAC(シンガポール国際仲裁センター)、HKIAC(香港国際仲裁センター)、SCC(ストックホルム商業会議所仲裁裁判所)、PCA(常設仲裁裁判所)、ICC(国際商業会議所)などの機関が管理するUNCITRAL(国連国際商取引法委員会)仲裁規則に基づいて執り行われます。標準的なケースでは、訴状の提出、証人・専門家の証拠提出、審問、そして理由付仲裁判断に至るまで、3〜5年を要します。主権免除(国家資産への強制執行の制限)が公的目的の国家資産に対して依然として障壁となるため、仲裁判断後の戦略では、資産追跡を含めた強制執行および、商業的に合理的であれば和解交渉を組み合わせて進めることが一般的です。

主要な要点 (Key Takeaways)

  1. 投資条約による保護は実効性があり、強制執行が可能です。 ISDSを利用することで、日本の投資家は自らの名において受入国(ホスト国)を直接提訴し、その結果下される仲裁判断を強制執行することができます。
  2. 保護の対象となるかは(投資の)構造に依存します。 投資が条約の保護を受けられるかどうかは、その投資がどのような方法で、またどの管轄区域(国・地域)を経由して保有されているかによって決まります。これは紛争が具体化する前に評価・検討しておく必要があります。
  3. 「収用」にとどまらない、広範な違反トリガーが存在します。 許認可の取り消し、関税や税制の突然の変更、差別的な規制の執行、政治的な意図による調査、現地裁判所による不利益な判決などは、すべて投資条約違反を構成する可能性があります。
  4. 手続きは厳格ですが、確立されています。 標準的なケースでは、ICSID(投資紛争解決国際センター)またはUNCITRAL(国連国際商取引法委員会)の規則に基づき、3年〜5年を要しますが、最終的には理由付の、かつ強制執行可能な金銭賠償判断が下されます。また、近年では「第三者資金調達(サードパーティ・ファンディング)」の利用も拡大しています。
  5. 早期の対応が結果を大きく左右します。 「仲裁の提起という、現実的かつ重大な対抗策がある」という事実そのものが、強力な和解交渉の手札(レバレッジ)となります。早い段階で法律顧問(弁護士など)を関与させることで、法的立場が固まってしまった後では失われてしまう選択肢を維持することが可能になります。
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(執筆: アール・リベラ=ドレラ, 中村 勇道


※本記事の内容は、一般的な情報提供であり、具体的な法的又は税務アドバイスではありません。
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アール・リベラ=ドレラは国際仲裁を専門とする紛争解決弁護士です。当事務所入所前は、ベトナムのFrasers Law Company(旧Freehills)においてパートナー兼国際仲裁部門責任者を務め、ICC、SIAC、JCAA、HKIACなど主要仲裁機関に基づく仲裁手続においてクライアントを代理してきました。また、仲裁人(議長仲裁人、単独仲裁人、当事者指名仲裁人)としても継続的に活動しています。
日本、シンガポール、ロンドン、ベトナムなどの主要法域にまたがる紛争案件において豊富な経験を有し、エネルギー、建設、クロスボーダー取引など幅広い分野を取り扱っています。これまでに200件以上、総請求額100億米ドル超に及ぶ案件に関与し、仲裁人、代理人、またはシンガポール、ロンドン、ニューヨークにおける著名な国際仲裁人の下での仲裁廷書記など、様々な立場で実務経験を積んでいます。
イングランド・ウェールズのソリシター資格に加え、ニューヨーク州、テキサス州、およびフィリピンの弁護士資格を有しています。また、Chartered Institute of ArbitratorsおよびSingapore Institute of Arbitratorsのフェローでもあります。