コーポレートガバナンス

【TKI Voice】アクティビスト投資家対応の最前線とエクイティ・ガバナンス時代の戦略 急増する株主提案と、全ステークホルダーを守るための実務ポイント

Executive Summary, Key Questions (FAQ) / 要約(クリックで開く)
  • Q1. なぜ今、日本市場でアクティビスト(物言う株主)投資家が急増しているのですか?
    A1.従来のメインバンク主導のガバナンス(企業統治)から、株式市場を通じて資本効率を問う「エクイティ・ガバナンス」の時代へ移行したといえます。東証や金融庁による企業価値向上の要請を背景に、巨額の資金を持つアクティビストが、短期的な株主還元や経営支配権の獲得を求めて活発に提案を行っています。
  • Q2. アクティビストに狙われやすい企業の特徴や、近年の具体的な事例は何ですか?
    A2.PBR1倍割れなどの株価低迷企業、不適切経営や不祥事が発生した企業、更には、収益性の低いセグメントを抱えて高収益セグメントが見劣りする「コングロマリット・ディスカウント」企業などは狙われやすいといえます。実際にも、紅麹の食品問題を起こした小林製薬や、企業会計問題を抱えるニデック、高収益のコンビニ事業から祖業であった旧来型スーパーストア事業の切り離しを迫られたセブン&アイ・ホールディングスなどが挙げられます。
  • Q3. アクティビストが提案する「本業回帰」や「事業切り離し」には、どのような落とし穴(リスク)がありますか?
    A3.本業回帰を求めているように見えて、実は企業を支えている「高収益なノンコア事業(不動産など)」の売却を迫り、短期的な利益を得ようとするケース(フジメディアHDの事例など)がある点に要注意です。アクティビストは正論を訴えて事業の切り離しを求めてきますが、その提案が常に企業の長期的利益(本業回帰)に資するとは限りません。慎重な見極めが必要です。
  • Q4. 短期的な株主至上主義を掲げる要求に対し、企業はどのような理念で対抗すべきですか?
    A4.企業とは、ゴーイング・コンサーンつまり永続性を前提とした存在であり、企業を取り巻くすべてのステークホルダー(顧客、従業員、取引先、地域社会など)への価値提供を重視することで真の企業価値を持つ存在です。「ステークホルダー資本主義」とも言います。企業の内部留保は、将来の安定した製品供給や社会貢献のための原資であり、日本各企業が持つ崇高な企業理念と共にその正当性を社会へと訴求し、短期的な株主至上主義への最大の対抗軸とすべきです。
  • Q5. アクティビストの脅威に対し、企業が「平時」から備えておくべき実務ポイントは何ですか?
    A5.経営陣や外部専門家を交えた「アクティビズム対応チーム」を平時から組成し、自社のガバナンスや事業の脆弱性を定期的にセルフチェックすることです。また、スチュワードシップ・コードを踏まえ、日頃から機関投資家やアナリストとの間に強固な信頼関係を構築しておくことも不可欠です。
  • Q6. 実際にアクティビストから面談や公開質問(有事)を突きつけられた場合、実務上の「勝利ライン」はどこに設定すべきですか?
    A6.相手の提案を100%跳ね返すことだけが勝利ではありません。面談には誠実に対応しつつ、トップの経営姿勢(Tone at the Top)の下で冷静な王道対応を貫き、自社の企業価値を最大化するために「何を落としどころ(勝利ライン)とするか」を冷静に見極め、粘り強く、したたかに交渉し、対処することが重要です。

アクティビスト投資家対応の最前線とエクイティ・ガバナンス時代の戦略 急増する株主提案と、全ステークホルダーを守るための実務ポイント

東京国際法律事務所(TKI)のマーケティングチームから、所内の専門家が登壇したセミナーの内容をもとにお届けする情報発信シリーズ 【TKI Voice】 をお送りします。
日本市場におけるアクティビスト(物言う株主)の活動は近年、過去にない規模と頻度で展開されています。彼らの要求にどう対峙し、企業の長期的な価値をいかに守り抜くかは、現代の経営陣にとって喫緊の課題です。
本稿は、当事務所が2026年5月に開催した法律実務セミナー「アクティビスト投資家対応 ~エクイティ・ガバナンス時代を如何に乗り切るか~」での講演内容をもとにまとめたものです。日本市場で急増するアクティビズムの実態と、企業がステークホルダーを守るために取るべき実践的な防衛・対応策について、実務上の留意点を解説します。

1. なぜ今、アクティビストが急増しているのか?「エクイティ・ガバナンス時代」のリアル

(1) メインバンク支配の終焉と、株式市場が突きつける「資本効率」の要請
かつて日本の企業統治はメインバンクを中心とする「デット・ガバナンス」が機能していましたが、バブル崩壊以降その求心力は低下し、現在は株式市場を通じて企業統治が問われる「エクイティ・ガバナンス」の時代へと移行しています。政府の骨太方針や金融庁・東京証券取引所の要請も、企業に対して資本効率の向上と株価・企業価値の向上を強く求めています。
こうした環境を背景に、アクティビストの活動は急増しています。2025年6月末までの1年間で開催された株主総会において、株主提案が行われたのは111社にのぼり、そのうち51社がアクティビストによるものでした。彼らは数兆円単位の運用資金を背景に、ターゲットとなれば一銘柄に数千億円を投じることも躊躇しません。同じ時期のアクティビストからの株主提案の約83%が「株主還元」「資産売却(事業処分)」「役員構成の変更(経営支配権獲得)」に集中しており、内部留保を吸い上げて短期的に売り抜けることを目的とするケースも少なくありません。

(2)狙われる企業の特徴 ― 赤字企業、―PBR1倍割れ、不祥事、そして「コングロマリット・ディスカウント」の罠
上場企業である以上、理論上はすべての企業が買収の対象になり得ますが、アクティビストは投資リターンが見込める「買いやすい企業」を優先的に狙います。代表的なものは、不適切経営による赤字企業、PBR1倍割れ等の株価低迷企業、そして不祥事により株価が下落した企業です。
たとえば、小林製薬では、紅麹サプリメントによる健康被害問題の公表後にアクティビストである香港系ファンドが大株主となり、臨時株主総会での株主提案があり、同時期に社外取締役を含む旧経営陣に対する株主代表訴訟の提訴に至りました。ニデックにおいても、不正会計問題が表面化した後に、アクティビストが株式の大量保有報告書を提出しています。
また、本業の収益性が低いにもかかわらず、含み益のある不動産を保有している企業や、政策保有株を多額に抱える企業も標的になりえます。さらに、高収益事業と低収益事業が混在することで全体の企業価値が目減りする「コングロマリット・ディスカウント」企業は、経営課題を指摘されやすいと言えます。
その典型がセブン&アイ・ホールディングスです。同社は、収益性の高い国内コンビニ事業が低収益のスーパーストアや百貨店事業と一体であったことで全体評価が希薄化していました。その経営課題とコンビニ事業の将来性から、カナダのコンビニ大手から買収提案を受け、祖業であるイトーヨーカ堂などのスーパーストア事業の切り離しを迫られることとなりました。
一方で注意したいのが、本業回帰を促す提案の落とし穴です。フジメディアホールディングスは、コンプライアンス問題の報道を機に標的となりました。複数の問題を一気に突きつける「キッチンシンク型」のキャンペーンの末、多額の自社株買いや不動産事業の再編検討に追い込まれています。ここで切り出しを求められたのは、業績が低迷していたメディア事業ではなく、それを支えていた高収益の不動産事業でした。このように、高収益部門だけを切り離させてそこから収益を得ようとする提案もあり、本業回帰が常に正しいとは限らない点に留意が必要です。
アクティビストは、経営陣が日頃「課題だ」と認識しつつも躊躇している経営判断の隙を的確に突いてきます。株価低迷企業の一例として、東京コスモス電機では、アクティビスト提案の取締役候補合計8名が選任され、会社提案の取締役選任議案がすべて否決されるとの事態になっています。

2. 経営支配権を守り抜く「3つのバトル」の全体像

(1)大義名分(世論形成)・経済合理性(数字)・リーガル(法律)―すべてで負けないロジックの担保
こうしたアクティビストに対峙するためには、支配権争いにおいて繰り広げられる「3つのバトル」を的確に分析し、どの局面でのバトルかに応じた明確な戦略を立案することです。
1. リーガルバトル(法廷闘争等) わが国は法治国家であり、最終的な司法判断で負ければすべてで敗退となります。大義名分と経済合理性で戦い抜くと同時に、法的判断で負けないロジックを常に担保しておくことが必須です。
2.大義名分のバトル(世論形成のバトル) 何が本来的に正しいかを社会に訴求し、世論や市場参加者を味方につける定性的な戦いです。現代ではSNS等の”場外乱闘”も立派な世論形成の基盤となります。
3.経済合理性のバトル 市場の論理は経済合理性の原理で支配されます。いくら大義名分が立派でも、TOB価格や株主還元の規模といった定量的な数字で劣っていれば、機関投資家を含む多くの株主の支持は得られません。

(2)「株主至上主義」への最大の対抗軸―ステークホルダー資本主義という大義
アクティビストはしばしば「会社は株主のものだ」と主張し、巨額の株主還元を迫ります。しかし、企業の内部留保は経営陣や社員が連綿と働いて積み上げた成果の蓄積であり、将来の雇用の安定や製品の安定供給、社会貢献(ESG・SDGs)のための原資です。
この点において、ダボス会議で有名な経営者団体ビジネス・ラウンドテーブルが2019年に公表した「会社の目的」に関する声明が参考になります。で「会社の目的」は、顧客、従業員、サプライヤー、地域社会への価値提供が掲げられ、株主は5番目との位置付けです。すべての株主でなく「企業の成長投資と革新へ資金提供をする株主」とされる点にも注目です。
日本にも、松下幸之助氏の「会社は社会の公器」、住友の「自利利他公私一如」、三菱の「三綱領」、稲盛和夫氏の「全従業員の物心両面の幸福を追求し、人類・社会の進歩発展に貢献する」といった崇高な企業理念が存在します。こうした理念を用いて大義名分を立て、社内を一致団結させ、ステークホルダー全体の最適利益を目指す姿勢、つまりビジネス・ラウンドテーブルで示された「ステークホルダー資本主義」こそが、短期的な株主至上主義への最大の対抗軸となります。

3. 「自分たちの会社は自分たちで守る」――平時の備えと有事の王道

(1)脆弱性のセルフチェックと、迅速に即応できる「対応チーム」の平時組成
海外の制度と比して、日本の株主提案権は行使要件が緩やかであり、米国に倣った提案内容の制限等の法改正は多く期待しがたい状況です。基本は「自分たちの会社は自分たちで守る」という独立自尊の気概が求められます。
対応の要諦は、「平時からの準備」です。有事になってから慌てるのではなく、平時からアクティビズム対応チーム(CEO、主要役員、中枢部門、外部専門家を主要メンバーとする。)を組成し、迅速に機能する体制を整えておくべきでしょう。定期的に自社の事業ポートフォリオやガバナンスの脆弱性を評価し、同業他社のベンチマークと比較して劣る指標があれば、先手を打って改善を進める社内風土の構築が重要です。
また、スチュワードシップ・コードを踏まえ、平時から機関投資家やアナリストとの強固なネットワークと信頼関係を構築しておくことも不可欠です。議決権行使助言機関の基準を把握し、自社の中長期的な価値創造戦略を説得力を持って提示することも大切です。

(2)劇場型の争いに屈しない冷静な対応と、トップの経営姿勢(Tone at the Top)
もしアクティビストから面談を求められた場合、面談をむやみに拒否することは得策ではありません。機関投資家からの評価を下げるリスクもあります。複数名で誠実に対応し、十分な情報収集を行うまで判断を留保する姿勢が求められます。相手に言質を与えないよう注意し、やり取りはすべて記録化します。
交渉が「パブリック・コミュニケーション・ステージ(公表を伴う劇場型の争い)」に移行した場合、彼らはメディアやSNSを巻き込んで経営陣を疲弊させようとします。企業側は曖昧なメッセージを出さず、事実に基づく冷静かつ節度ある王道の対応を貫く必要があります。
ここで決定的に重要になるのが「Tone at the Top(トップの経営姿勢)」です。トップの倫理観や透明性のある判断が企業文化の屋台骨となります。トップが建前と本音を使い分けたり、短期的な収益至上主義に傾いたりすれば、社内の風土は毀損し、アクティビストに付け入る隙を与えてしまいます。有事においてこそ、トップが毅然とした態度で本業に集中し、高収益を上げる姿勢を示すことが最大の防衛策となります。

4. おわりに:社会の公器として、次世代へ事業をつなぐために

アクティビストとの交渉において、彼らの提案を100%跳ね退けることだけが勝利ではありません。経営陣は、自社の企業価値を最大化するために「何を勝利ラインとするか」を冷静に見極め、柔軟かつ断固として対処する、したたかさが求められます。ここで対応を諦めれば、社員を含むすべてのステークホルダーが敗北することになります。
企業は社会の公器として長期的な価値を創造し、社員や取引先、地域社会を守る使命を負っています。私たちには、先人たちが復興し育て上げた豊かな日本社会を次世代へ引き継いでいく責務があります。短期的な利益のために内部留保を切り売りするような要求に安易に屈するべきではありません。企業は永続性を前提とした「ゴーイングコンサーン」であり、事業を次世代へとつなぐ適切な戦略と体制構築が、このエクイティ・ガバナンス時代を生き抜く鍵となります。
東京国際法律事務所は、そうした長期的な企業価値向上を目指す正当な企業の皆様を、持てる知見と経験のすべてを尽くして全力でご支援いたします。

(執筆協力:三原 秀哲


※本記事の内容は、一般的な情報提供であり、具体的な法的アドバイスではありません。本稿のテーマやアクティビスト対応に関するご相談がございましたら、ご遠慮なく当事務所までご連絡ください。

三原 秀哲
シニアカウンセル
Email:hidetaka.mihara@tkilaw.com