国際紛争(訴訟・仲裁)建設・エネルギー

エネルギー・インフラストラクチャーブリーフィング:日本の洋上風力発電規制の枠組み

日本の洋上風力発電規制の枠組み
法的枠組み、入札制度改革、及びプロジェクトの開発・運営において繰り返し生じる論点

Executive Summary, Key Questions (FAQ) / 要約(クリックで開く)
  • I. 法的・制度的枠組み

    Q1. 日本の洋上風力発電プロジェクトを規律する主要な法制度は何ですか?
    A1.日本の洋上風力発電の立地は、プロジェクトが港湾区域の内側か外側かに応じて、2つの異なる法制の下で規律されています。
    • 港湾区域:2016年改正の港湾法が適用され、国土交通省(MLIT)が管理する競争入札を通じて長期占用権が付与されます。
    • 一般海域(領海および内水):2018年制定の再エネ海域利用法が適用されます。経済産業省(METI)と国土交通省が共同で「促進区域」を指定し、公募による競争入札を通じて開発事業者に長期占用権を付与します。
  • Q2. 排他的経済水域(EEZ)における規制の枠組みはどうなっていますか?
    A2.2025年6月の再エネ海域利用法改正(2026年4月1日施行)により、規制制度が日本のEEZに拡張されました。
    • 浮体式風力への焦点:EEZは水深が深いため、主に浮体式洋上風力技術を念頭に設計されています。
    • 二段階の許可手続:領海における一段階の手続とは異なり、EEZの制度では二段階の手続((1)仮許可の段階、および(2)その後の設置の許可の申請段階)を採用しています。仮許可段階の後には、法定協議会において区域図や計画の精緻化が行われます。
    • 選定後の調整:仮許可事業者は、自らの設置計画を協議会の合意事項と整合させる必要があり、選定後に実質的な再交渉の段階が生じます。
  • II. 入札制度および収入支援の改革

    Q3. 収入支援制度は各入札ラウンドを通じてどのように変化してきましたか(FIT、FIP、LTDA)?
    A3.収入支援制度は市場の動向に適応するため大きく変化してきました。
    • FIT(固定価格買取制度):第1ラウンドで採用され、発電した電力量(kWh)ごとに固定価格が支払われます。
    • FIP(フィード・イン・プレミアム):第2および第3ラウンドで採用され、事業者は卸電力市場で電力を販売し、上乗せ(プレミアム)を受け取ります。第3ラウンドでは実質ゼロプレミアムでの落札となり、収入はほぼ全面的に市場価格に依存することになりました。
    • LTDA(長期脱炭素電源オークション):バンカビリティ(融資適格性)を向上させるため、第2・第3ラウンドの案件向けの経過措置として導入されました。設備容量(円/kW)に対して20年間にわたり固定の年額を支払う一方、市場収益の85%〜95%を還付(クローバック)させるもので、利益保証ではなく費用回収メカニズムとして機能します。
  • Q4. 第1ラウンド案件からの撤退を受けて、どのような主要な制度改革が導入されましたか?
    A4.コスト高騰を理由とするコンソーシアムの第1ラウンド3案件からの撤退(2025年8月)を受け、経済産業省と国土交通省は2026年6月に以下の主要な改革を確定させました。
    • 想定供給価格幅の設定:価格上限額の下に価格幅を設定し、上限額から同幅を控除した額以下の応札には一律で価格点の満点(120点)を付与することで、非現実的な低価格応札が勝つことを防ぎます。
    • 評価基準の再調整:サプライチェーン形成や実行可能性の高い計画を報奨する詳細なチェック項目(120点)を重視する一方、迅速性の配点を半減(10点)し相対評価に変更しました。
    • 占用期間の更新:一定の基準を満たすことを条件に、当初の30年間の占用期間終了後の更新を原則として認めます。
    • 厳格な撤退ルール:撤退した事業者を次回の入札から排除し、再公募参加者への調査データ無償提供を義務付けます。
  • Q5. 政府は落札済みプロジェクトの過去のインフレに対する遡及的な救済(価格調整)を行いますか?
    A5.行いません。政府は、第2および第3ラウンド事業者からの過去のインフレを入札価格に遡及して反映させる要請を一貫して拒否しています。現在検討されているコスト調整メカニズムは将来のコスト上昇に対してのみ厳格に適用されます。そのため、インフレリスクを再配分する主要な手段は、民間契約の条項(ハードシップ条項や価格改定条項など)となります。
  • III. 契約構造、事業遂行、および運営上のリスク

    Q6. 日本の洋上風力プロジェクトにおける典型的な契約構造はどのようなものですか?
    A6.日本のプロジェクトにおいて単一のフルラップEPC契約が用いられることは稀です。
    • マルチパッケージ契約:風車サプライヤーはプラント全体の完工責任や他工事とのインターフェースリスクを負うことを一貫して拒否しています。その結果、プロジェクト会社(SPC)は各パッケージ(風車、基礎、BOP、海上工事など)のサプライヤーと個別に直接契約を結びます。
    • インターフェースリスクの配分:パッケージ間のインターフェースリスクはプロジェクト会社自身が負うため、契約書の起草やファイナンスの組成において、マルチパッケージのすり合わせとインターフェース管理が極めて重要な課題となります。
  • Q7. 漁業や環境調査に関する、開発段階で繰り返し発生する主なハードルは何ですか?
    A7.主なハードルとして以下の2点が挙げられます。
    • 漁業権:日本の漁業法において漁業権は物権とみなされる権利です。事業者は地元の漁協と補償合意を積極的に交渉する必要があり、未解決の紛争はコントラクターからの工期遅延クレームを頻繁に引き起こします。
    • 政府主導の環境影響評価:改正再エネ海域利用法(2026年4月施行)の下では、一般海域の区域指定前の海洋環境調査を環境省が直接実施することになり、事業者の重複するデュー・ディリジェンス費用が削減されます。
  • Q8. 法的紛争の主な分野は何ですか?また、当事者はどのように備えるべきですか?
    A8.
    • 繰り返し発生する紛争分野:漁業補償の範囲、公的な入札条件と民間契約間におけるインフレ・コスト超過リスクの配分、風車の仕様変更・製造中止、港湾の貸付けおよび原状回復条件、撤退に伴う違約金などです。
    • 紛争解決のフォーラム:法定協議会の手続きは利害関係者の協議のためのものであり拘束力のある裁定を目的としていないため、商事契約上の紛争については国際仲裁(JCAA、SIAC、ICCなど)が推奨されます。
    • 市場経験のギャップへの備え:日本の洋上風力発電はまだ若い産業であり、プロジェクトの当事者は外国企業との協働経験が限られていることがよくあります。当事者は、コミュニケーション、意思決定、変更管理に対する期待値をすり合わせるため、時間とリソースを明示的に予算化しておくべきです。

エグゼクティブ・サマリー

日本は、比較的短期間のうちに、洋上風力発電制度としての法的・規制的枠組みを整備してきた。すなわち、海域占用に関する専用の立法、政府主導の促進区域指定及び入札制度、固定価格買取制度(FIT)からフィード・イン・プレミアム(FIP)へ、そして直近では容量ベースの長期脱炭素電源オークションへと移行してきた収入支援制度、さらに2026年4月1日の施行により、浮体式洋上風力を念頭に制度を排他的経済水域(EEZ)にまで拡張する二段階の許可制度である。制度上は、市場参加者が最も必要とするルールは既に整備されたといえる。

しかしながら、第1ラウンドから第3ラウンドまでの実務経験は、枠組みの存在それ自体が実行リスクを解消するものではないことを示している。2021年の著しく低い水準での落札とその後の建設コストの倍増を受け、三菱商事を中心とするコンソーシアムが2025年8月に第1ラウンドの3案件から撤退したことにより、政府は、入札制度改革、価格調整メカニズム、占用期間の延長、港湾・系統支援策という一連の継続的な見直しを迫られている。その入札制度設計の中核は2026年6月の運用指針の改訂により確定したが、その他の支援策については本ブリーフィング執筆時点でなお検討が続いている。

本ブリーフィングは、発電事業者及びそのレンダーに加え、プロジェクトを実施する風車・基礎・BOP(バランス・オブ・プラント)の各コントラクターに関わる論点を扱うものであり、単一のラップ(フルラップEPC)コントラクターが存在しないという契約構造上の横断的な論点も取り上げる。本ブリーフィングでは、(I) 日本の洋上風力を規律する法的・制度的枠組み、(II) 入札及び収入支援制度並びに2025年から2026年にかけての改革の方向性、(III) 漁業関係、環境影響評価、港湾利用及び航路調整を含む、プロジェクト開発段階において繰り返し生じる論点、並びに (IV) コスト上昇リスクの配分、撤去、出力制御及び紛争解決の設計を含む、建設・運営段階において繰り返し生じる論点を概説する。

I. 法的・制度的枠組み

日本の洋上風力発電の立地は、対象海域が港湾区域の内側か外側かに応じて、それぞれ固有の法律と規制当局を有する2つの法制度の下で規律されている

港湾区域内に設置される洋上風力発電設備は、2016年の港湾法改正により導入された、入札を通じて付与される長期占用権制度の適用を受ける。他方、港湾区域外の領海及び内水である「一般海域」に設置される設備は、2018年に制定された「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律」(以下「再エネ海域利用法」という。)の適用を受ける。再エネ海域利用法の下では、経済産業省(METI)と国土交通省(MLIT)が共同で「促進区域」を指定し、当該区域に係る占用権は、公募による競争入札を通じて事業者に付与される。

2025年6月の再エネ海域利用法の改正(法律名を「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に関する法律」に改め、2026年4月1日に施行)は、この制度を初めて日本の排他的経済水域(EEZ)にまで拡張するものである。日本のEEZの海底の大部分は着床式基礎に適さない水深にあるため、EEZに係る制度は主として浮体式洋上風力を念頭に設計されており、領海及び内水に適用される一段階の手続とは対照的に、二段階の許可手続を採用している。すなわち、(1) 仮許可の段階(法定協議会での協議を踏まえて区域図の案及び設置計画の案の精緻化が行われる。)と、(2) その後の設置の許可の申請の段階である。

機関 主な役割
経済産業省(資源エネルギー庁) 区域指定、入札制度の設計・運営、FIT・FIP・長期脱炭素電源オークションによる収入支援制度
国土交通省(港湾局) 港湾区域の占用権、港湾インフラの利用、航路調整
環境省 海洋環境調査(2025年改正により、区域指定前の政府主導の調査へと移行)、環境影響評価の手法
都道府県・市町村 地元協議、漁業者との連絡調整、地域経済との連携、港湾貸付けの運営
法定協議会(第12条・第36条) 促進区域(領海・内水)については第12条に基づき、EEZの募集区域については第36条に基づき設置される協議の場であり、選定事業者又は仮許可事業者、地方公共団体、漁業協同組合その他の利害関係者により構成される

本制度に馴染みのないクライアントに対して指摘しておくべき構造上の特徴として、第34条に基づく仮許可(EEZの制度)は最終的な権利の付与ではないという点が挙げられる。仮許可後、経済産業大臣及び国土交通大臣が第36条の協議会を組織し、仮許可事業者はその構成員として参加する。仮許可事業者は、その区域図の案又は設置計画の案が協議会において協議が調った事項と整合しない場合には、設置の許可が付与される前に、これを修正する義務を負う。これにより、選定後においても実質的な再交渉の余地が生じることになるが、この点は初期段階のプロジェクト・スケジュールに必ずしも織り込まれていない。

なお、改正法それ自体は、促進区域の入札への外国企業の参加や外国資本の参入を制限するものではないが、個別の取引については、外国為替及び外国貿易法(外為法)に基づく一般的な規制が適用され得る点に留意が必要である。

II. 入札及び収入支援:改革途上の制度

まず、固定価格買取制度(FIT)の下では、発電した電力量(kWh)ごとに、市場価格の動向にかかわらず固定された価格が支払われる。フィード・イン・プレミアム(FIP)の下では、事業者は卸電力市場で電力を販売し、市場価格への上乗せ(プレミアム)を受け取るため、収入は市場価格とともに増減する。長期脱炭素電源オークション(LTDA)はこれらと異なり、発電した電力への対価ではなく、設備容量1kWあたり固定の年額を20年間にわたって支払う仕組みである。その代わり、事業者は、市場で得た収入の大半を制度の運営主体に還付しなければならず(同一の発電に対する二重の支払いを防ぐための「クローバック(収益還付)」)、このためLTDAは、利益を保証する仕組みではなく、費用回収を支える仕組みとして機能する。

第1ラウンド(2021年選定)はFITの下で実施された。第2・第3ラウンドではFIPへと移行し、事業者はアップサイドの可能性と引き換えに市場価格リスクを負担することとなった。もっとも、第3ラウンドの応札は実質ゼロプレミアムの水準となり、その結果、収入はほぼ全面的に卸電力市場での価格獲得に依存することとなっている。

ゼロプレミアムのFIPのみでは、プロジェクトファイナンスにおいて通常求められるデット・カバレッジ・レシオを支え得ないため、政府はその後、第2・第3ラウンドの案件がLTDAに参加することを認める経過措置を導入した。上記のとおり、事業者は、市場収益をその金額の区分に応じて85%から95%の割合でクローバックとして還付しなければならないが、これによりレンダーが引き受けるべき収入の変動幅は縮小される。2026年6月に公表された2026年度LTDA募集要綱案の下では、参加の条件として、公募占用計画上の供給価格を0円/kWhに変更し、FIP交付金(バランシングコスト相当分を含む)を受領しないことが求められており、これにより固定費の二重回収が防止される。洋上風力のLTDA参加資格は、現時点では時限的な例外措置として第2・第3ラウンドに限定されており、第4ラウンド以降は制度設計上この経過措置の対象から除外されている。

2025年8月、三菱商事を中心とするコンソーシアムは、秋田県沖及び千葉県沖の合計1.7GWに及ぶ第1ラウンドの3案件すべてから撤退した。2021年の入札において、政府の上限価格を大幅に下回り、かつ競合他社の応札額をも下回る水準で落札した後、建設コストが2倍超に膨らんだことがその背景にある。三菱商事は、2024年度決算において既に522億円の減損損失を計上しており、撤退表明の時点で、追加の損失は限定的である旨を示している。
この撤退は、現在進行中の入札制度、港湾及びオフテイクに係る改革サイクルの起点となる出来事となっている。

これを受けて、経済産業省及び国土交通省は一連の改革パッケージを進めており、その入札制度設計の中核は、2026年6月の「一般海域における占用公募制度の運用指針」の改訂により確定した。改訂の主な内容は、次のとおりである。①価格点のみで非現実的な低価格応札が優位に立つことを防ぐため、供給価格上限額の下に「想定供給価格幅」を設定し、上限額から同幅を控除した額以下の応札には、一律で価格点の満点(120点)を付与する。②事業実現性評価点(価格点と同じく120点)は、詳細なチェック項目の積上げ方式により採点し、サプライチェーンの形成や実行可能性の高い事業計画を評価する。あわせて、迅速性の配点は10点に半減し、相対評価に変更する。③許認可及び建設だけで商業運転開始までに6年から8年を要し得ることを踏まえ、当初最長30年とされる占用許可について、認定有効期間の終了後の更新を一定の要件の下で原則として認める。④撤退ルールを厳格化し、撤退した事業者を次回の公募から排除するとともに(将来のラウンドではグループ会社への拡大も検討されている。)、海底地盤等の調査データを再公募の参加者に無償で提供させる(これらは合同会議で整理されたものであり、個別の公募占用指針を通じて実装される予定である。)。⑤撤退のあった秋田・千葉の海域については、改訂後の基準により再公募を実施する。なお、当初、年次サイクルでの実施が予定されていた第4ラウンドの入札自体も、この改革プロセスの完了を待つために延期された。

遡及的なインフレ救済の可否に関する政府の立場は一貫しており、クライアントには明確に伝えるべきである。すなわち、第2ラウンド及び第3ラウンドの事業者による、過去のインフレ(応札時点から現在まで)を価格に反映させるよう求める要請は、拒否されている。現在検討中のコスト調整メカニズムは、将来のコスト上昇に対してのみ適用されるものであり、その理由として、遡及的な調整は当初の入札結果の前提となった競争条件を変更することになる点が示されている。

第3ラウンドが実質ゼロプレミアムで落札された結果、プロジェクトの収入は、法令上の支援ではなく、コーポレートPPAや小売電気事業者との売電契約を通じて長期のオフテイクを確保できるかどうかに依存することとなる。政府自身も、第1ラウンド撤退の要因分析において、足元のコスト増加を吸収できる価格水準で長期PPAを締結できるオフテイカーの確保は困難であると認めている。日本のコーポレートPPA市場は、数百MWというプロジェクトの規模に比して依然として厚みを欠く。かかる規模の電力を長期にわたり十分な信用力をもって引き受けられる国内のオフテイカーは少なく、レンダーはマーチャント収入ではなく契約済みの収入を基準にデットの規模を決定するため、未契約の容量はそのまま調達可能額の減少につながる。LTDAによる緩和は第2・第3ラウンドに限られる。したがって、第4ラウンドの応札者及びそのコントラクターは、オフテイカーの信用力、非化石証書の取扱い、出力制御リスクの配分、PPA上の価格フロアの設計といった論点を含め、オフテイク戦略を入札段階の中核的な検討事項として扱うべきである。外国スポンサーが第3ラウンド案件への関与を再検討していると報じられていることは、バンカブルなオフテイクを欠く落札が、それだけではファイナンス可能なプロジェクトとならないことを示している。

III. プロジェクト開発段階において繰り返し生じる論点

ここでは、発電事業者のみならず、そのサプライチェーンに参加するコントラクターやサプライヤーにも影響する、プロジェクト開発段階の主要な論点を取り上げる。

日本における漁業権は、漁業法上、物権とみなされる権利である。洋上風力プロジェクトにより操業を妨げられた地元の漁業協同組合は、事業者に対して差止め又は補償を求めることができる。漁業権は単なる協議上の利益ではなく財産権であるため、事業者としては、影響を受ける漁協との間で補償に関する合意を先行的に交渉・締結しておくことが賢明である。かかる合意の十分性や範囲を巡る紛争は、着工前の段階における最も一般的な摩擦要因の一つであり続けている。その結果、漁業補償を巡る紛争は、影響を受けるコントラクターのパッケージ契約上の工期遅延クレームとして顕在化することが少なくない。

2025年改正前の枠組みでは、環境影響評価は各事業者が個別に実施していた。その結果、実務上は、促進区域の指定前から、競合する複数の事業者が同一の候補海域において並行して方法書手続や調査を実施することとなり、地元の相当な混乱と地域社会の疲弊を招く要因となっていた。改正再エネ海域利用法(2026年4月施行)の下では、領海及び内水の促進区域については、環境省が、公表される調査方法書案、説明会及び関係地方公共団体との協議を伴う単一の政府主導プロセスを通じて、区域指定に先立ち海洋環境調査を自ら実施することとなった。これにより、今後のラウンドに応札する事業者にとって重複するデュー・ディリジェンス費用は削減されるはずであるが、他方で、調査の範囲及び時期に対する事業者の直接的なコントロールが弱まることも意味する。なお、EEZについては、第32条に基づく別個の事前調査(経済産業大臣による区域の状況の調査及び環境大臣による海洋環境情報の収集調査・結果の公表)の仕組みが設けられている。

基地港湾の能力を巡る公の議論は、従来、岸壁延長、水深、地耐力といった物理的な制約に焦点を当ててきた。しかし、事業者、そのレンダー及び当該港湾に動員されるコントラクターにとっては、港湾利用に係る契約条件の方がより重大な制約となる場合が少なくない。すなわち、特定の港湾を最初に利用する事業者に求められる契約保証の規模、商業運転開始との関係における貸付料支払義務の発生時期、及び地盤改良等の民間資金による港湾改良に付随する原状回復義務である。国土交通省は、「洋上風力発電の導入促進に向けた港湾のあり方に関する検討会」(直近では2026年3月開催)において、これらの各点を緩和する提案、すなわち、先行利用事業者の保証負担の軽減、商業運転開始前における貸付料の抑制期間の導入、及び民間資金による改良に係る原状回復義務の緩和を提示した。これらは確定したルールではなく、なお検討中の提案にとどまるため、近い将来に港湾利用契約を組成する事業者は、その動向を注視すべきである。

プロジェクトが相応の船舶交通量を有する開放海域へと展開する中、国土交通省は2026年3月24日、開放海域における風車と航路との離隔の枠組みを定める事務連絡を関係都道府県・行政機関宛てに発出し、この枠組みはその後、促進区域指定ガイドラインに組み込まれた。既存の航路に近接するサイトを有する事業者は、風車の配置、場合によっては設備容量への影響を想定しておくべきである。また、戦略的に機微な海域(第3ラウンドの青森県沖の促進区域が最も顕著な例である。)では、入札ルール上、防衛省との協議と、事業計画が自衛隊又は同盟国軍の活動を妨げない旨の確認書の提出が求められており、この協議は当初からプロジェクトのタイムラインに組み込んでおくべきである。

日本の洋上風力プロジェクトが単一のフルラップEPC契約の下で実施されることは稀である。風車サプライヤーは、数が限られ、自らも日本市場への新規参入者であることから、プラント全体の完工リスクや、BOP・基礎・海上工事とのインターフェースリスクの引受けを一貫して拒んできた。その代わり、プロジェクト会社が主要なパッケージごとに各コントラクターと直接契約を締結し、パッケージ間のインターフェースリスクはプロジェクト会社自身が負う。この構造は、ファイナンス(レンダーが依拠できる単一の完工責任主体の不在)、紛争処理(パッケージの境界で生じた瑕疵についてどのコントラクターに責任があるかの特定をプロジェクト会社が担うこと)、契約書の起草(相互に関係のない複数の契約間で保証やインターフェースリスクを整合させること)のそれぞれに影響する。プロジェクト会社の側からであれ、個々のコントラクターの側からであれ、これらの契約を組成する際には、マルチパッケージのインターフェースリスクの配分を第一級の論点として扱うべきである。

IV. 建設・運営段階において繰り返し生じる論点

第1ラウンドの中心的な教訓は、日本の入札制度が、これまでのところ、固定価格又はプレミアムの適用期間全体にわたり、インフレ及びサプライチェーンのリスクを、遡及的な調整メカニズムなしに事業者に配分してきたという点にある。日本の洋上風力プロジェクトに係る建設パッケージ契約及び風車供給契約を組成する者としては、このリスクを再配分するための主たる手段は、公的な入札条件ではなく、これらの民間契約における価格改定条項又はハードシップ条項であることを前提とし、これらの条項を入念に検討すべきである。

許認可及び建設の長期化により、プロジェクトは風車の製造中止リスクに晒されることとなった。第2ラウンドのあるプロジェクト・コンソーシアムは、2026年1月、当初仕様の18MW風車がメーカーにより製造中止となったため、より小型の15MW級風車の台数を増やして採用する見直し案を公表した(最終的な機種はメーカーとの協議を経て確定する。)。政府はこれを受け、選定後における風車サプライヤーの変更について、事業者により大きな柔軟性を認める対応をとっている。この柔軟性は双方向のリリーフバルブとして機能するため、関連する契約書類に反映されるべきである。すなわち、発電事業者を風車・BOP契約上の仕様変更クレームから守る一方で、スコープと価格が変動するのは風車・BOPコントラクターの側であるため、風車・BOPコントラクターとしても、その文書化を求めるべきものである。

系統容量及び出力制御は、認証の透明性やサプライチェーンの可視性と並び、バンカビリティに影響する未解決のボトルネックとして業界全体で認識され続けている。業界団体は、出力制御に連動した補償メカニズムの導入と、パイプライン形成目標から商業運転開始日ベースの目標への転換を求めており、その方が政府の政策目標と実際のプロジェクト実現に向けたインセンティブとの整合性が高まるとの見解を示している。拘束力のある出力制御補償制度は未だ存在せず、この点は、ファイナンス及びオフテイクに関する協議において、未解決のリスクとして明示されるべきである。

最初の3ラウンドにおける占用期間は、環境影響評価に4〜5年、建設に2〜3年、運転に約20年、撤去に2年を想定した合計30年の期間として設計されており、期間満了時には設備の撤去と再公募が求められる。2026年6月の運用指針の改訂により、①当該区域を引き続き促進区域として指定することが妥当であること、②既存事業者による事業継続が電力の安定的かつ経済的な供給の観点から合理的であること、③占用許可の審査基準に適合することのすべてを満たす場合には、認定有効期間の終了後も占用許可が原則として認められることとなった(更新の原則化)。既存の第1〜第3ラウンドの公募占用指針も、これに合わせて改訂される見込みである。撤去計画は、当初の事業計画の一部として提出され、廃棄物の処理及び清掃に関する法律並びに海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律に適合しなければならず、設備の一部を現地に残置する処分を行う場合には、環境省の個別の承認が必要となる。事業者としては、更新が認められない可能性も含め、占用期間全体に対応した撤去費用の引当てがなされていることを確認すべきである。

事業運営者及びその親会社は、改正GX推進法の動向にも留意すべきである。同法の下では、直近3事業年度の年間平均CO₂排出量(直接排出ベース)が10万トン以上の事業者について、2026年4月1日から日本の排出量取引制度(GX-ETS)への参加が義務化され、排出枠の最初の割当て及び取引は2027年度から開始される。この義務は、洋上風力の特別目的会社(SPC)自体よりも、事業者のより広い企業グループに関係する可能性が高いが、グループレベルでの確認を行うべきである。

V. 紛争解決と実務上の提言

日本の洋上風力プロジェクトから生じる紛争は、少数の典型的な事実類型に集中する傾向がある。すなわち、(a) 漁業補償の十分性及び範囲、(b) 入札により固定された公的価格と、民間で交渉された建設パッケージ・風車供給条件との間におけるコスト超過及びハードシップの配分、(c) 風車の代替及び仕様変更に係るクレーム、(d) 港湾利用に係る保証、原状回復及び貸付料を巡る紛争、並びに (e) 事業者の判断(又はレンダーの要請)によりプロジェクトを進めないこととした場合の撤退、違約金及びステップ・イン権である。本制度が公法と私契約の混合的な性格を有することに鑑みれば、適切に起草されたプロジェクト関連契約においては、法令又は入札ルールにより配分されるリスク(一般に交渉の余地がなく、かつ、政府の表明した立場によれば遡及的な変更もない。)と、商事契約の条項により適切に対処すべきリスクとを明確に区別すべきである。後者については、当事者及びファイナンス供与者に応じて選択される仲裁(JCAA、SIAC又はICC)が引き続き実務上現実的な紛争解決の場であり、法定協議会の手続は利害関係者間の協議のために設計されたものであって、拘束力のある裁定の場ではない。

2025年8月以降の改革の速度に鑑み、クライアントとしては、入札ルール、港湾に関するガイドライン又は占用期間に関するいかなる要約についても、現行改革パッケージの残る項目(特に港湾利用及びオフテイク関連の措置)の最終化までは暫定的なものとして扱い、入札、ファイナンス又は契約交渉においてこれらに依拠する前に、最新の内容を確認すべきである。

成熟した洋上風力市場と日本を比較する読者のために率直に付言すれば、成熟市場において契約上配分されているリスクの多くは、実務上は、契約の執行のみによってではなく、繰り返し取引を行う当事者間で培われた判断力と協働関係によって吸収されている。日本には、そのような共有された経験の基盤がまだ存在しない。日本の洋上風力は若い産業であり、発電事業者、コントラクター、風車サプライヤーのいずれの側のプロジェクトチームも、外国の取引相手方との協働経験が限られていることが少なくない。これは産業の若さの反映であって当事者の能力の問題ではないが、その結果、適切に起草された契約と適切に遂行されるプロジェクトとの間の距離は、現時点では他の市場よりも大きい。言語の違いに加え、エスカレーションの実務、意思決定の頻度や進め方、変更管理に対する期待値の差がこれを増幅する。この距離を埋めるには双方の意識的な努力が必要であり、それは発電事業者とコントラクターの双方が予算化しておくべき現実のプロジェクトコストである。

参考資料

海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に関する法律(平成30年法律第89号。2025年6月改正、2026年4月1日施行)(e-Gov法令検索)
経済産業省「「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律の一部を改正する法律案」が閣議決定されました」(2025年3月7日)
経済産業省 資源エネルギー庁・国土交通省 港湾局「洋上風力事業を完遂させるための新たな公募制度」洋上風力促進ワーキンググループ・洋上風力促進小委員会合同会議資料1(2026年1月21日)
三菱商事株式会社「国内洋上風力発電事業に係る事業性再評価の結果について」(2025年8月27日)
国土交通省港湾局「開放海域における洋上風力発電設備と航路との離隔の枠組みに関する事務連絡」(2026年3月24日付)
経済産業省 「排出量取引制度(GX-ETS)
公益財団法人 自然エネルギー財団「コーポレートPPA 日本の最新動向」(2025年版・2025年3月)
国土交通省「洋上風力発電の導入促進に向けた港湾のあり方に関する検討会
経済産業省 資源エネルギー庁・国土交通省 港湾局「一般海域における占用公募制度の運用指針」(2026年6月改訂)

本ブリーフィングは、TKI Singapore LLP及び東京国際法律事務所(TKI)が作成したものです。本ブリーフィングに記載された事項についてのご相談は、Earl Rivera-Dolera(earl.dolera@tkilaw.com)又はHojung Jun(hojung.jun@tkilaw.com)までご連絡ください。

(執筆:アール・リベラ=ドレラホジョン・ジュン奥山 光幸


※本記事の内容は、一般的な情報提供であり、具体的な法的又は税務アドバイスではありません。
ご質問などございましたら、ご遠慮なくご連絡ください。

アール・リベラ=ドレラは国際仲裁を専門とする紛争解決弁護士です。当事務所入所前は、ベトナムのFrasers Law Company(旧Freehills)においてパートナー兼国際仲裁部門責任者を務め、ICC、SIAC、JCAA、HKIACなど主要仲裁機関に基づく仲裁手続においてクライアントを代理してきました。これまでに200件以上、総請求額100億米ドル超に及ぶ案件に関与し、仲裁人(議長、単独、当事者指名)、代理人、または著名な国際仲裁人の下での仲裁廷書記など、様々な立場で実務経験を積んでいます。

  • 主な取扱分野: 国際仲裁、エネルギー・インフラ関連紛争、建設クレーム、クロスボーダー取引
  • 弁護士資格等:英国(イングランド及びウェールズ)ソリシター登録、弁護士(米国ニューヨーク州、テキサス州、およびフィリピン)
  • 所属:Chartered Institute of Arbitrators フェロー/ Singapore Institute of Arbitrators フェロー

エネルギー・インフラストラクチャー分野のパートナーとして、APAC、南北アメリカ、ヨーロッパ、中東、アフリカにわたるエネルギー、インフラ、鉱業分野の資産に関し、スポンサー、開発事業者、コントラクターに対して多数の法域にまたがる助言を提供しています。買収、ジョイントベンチャー、売却といった取引に加え、プロジェクト開発、建設、エネルギートランジション戦略について恒常的にアドバイスを行っています。東京およびシンガポールの国際的法律事務所での経験に加え、日本の大手企業への出向や、国際的な建設会社でのインハウスカウンセルとしての経験から得た深い知見を有しています。

  • 主な取扱分野: 洋上風力発電開発、クロスボーダーのエネルギーM&A・ジョイントベンチャー、建設、プロジェクト開発(再生可能エネルギー、電力・その他のインフラ、LNG施設)
  • 弁護士資格等:外国法事務弁護士(東京弁護士会 / 法域:米国ニューヨーク州)/米国ニューヨーク州弁護士
  • 所属:日本建設法学会(SCL Japan) 業務執行理事/ エンジニアリング協会(ENAA) 法務・契約部会委員/Women in Law Japan (WILJ) 会員/韓国国際建設・エネルギー法学会 会員

13年以上の実務経験を有する日本法弁護士です。TKI入所前は森・濱田松本法律事務所に所属し、国内外の投資家に対し、ストラクチャード・ファイナンス、再生可能エネルギー、建設、不動産取引に関する幅広い助言を行ってきました。弁護士としての法的専門性に加え、二級建築士および宅地建物取引士としての技術的・実務的背景を併せ持ち、日本のエネルギー、インフラ、実物資産プロジェクトのライフサイクル全般において、ビジネスに即した実践的なアドバイスを提供しています。

  • 主な取扱分野:再生可能エネルギー関連規制・立地対応、プロジェクト・ファイナンス、インバウンド投資、建設・不動産契約
  • 弁護士資格等:弁護士(東京弁護士会)/二級建築士/宅地建物取引士