【コラム】裁かれる JOLCO
FW Aviation 対 VietJet — 解除通知の有効性、解除金の有効性(執行不能な違約罰ではないこと)、そしてロンドンからシンガポールへの執行
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本件は、パンデミックに端を発するデフォルトに対し、英国高等法院・控訴院およびシンガポール裁判所で展開されたJOLCOの歴史的先例です。解除通知の有効性、ディストレスト債権買主への譲渡、失権からの救済(Relief from Forfeiture)の不適用、約1億8,150万米ドルの解除金の有効性(違約罰ではない)、および整備回復費用等の「実損害」の補償責任が全面的に維持され、JOLCOの契約構造の堅牢性が証明されました。
解除金が原告の「正当な利益」を保護するものと認められたためです。具体的には、日本のエクイティ投資家の加速償却による税務上の地位・投資リターンを守る合理的なメカニズムであること、当事者(VietJet)が専門性の高い商業主体であること、さらには航空機が既に回収・売却された後であっても支払義務が残る点が評価されました。
VietJet側はファンド/SPVが「金融機関」に該当しないと主張しましたが、裁判所は二次市場のディストレスト債権買主への譲渡を広く認める商業的解釈を採用し、譲渡を有効と判断しました。実務上、融資契約上の譲渡条項にはファンドや二次市場投資家を含める旨を明記することが重要です。
JOLCOのコールオプションに基づき救済を申し立てる資格自体は認められるものの、VietJetが支払能力を有しながら意図的に不払いを続け、約1年間無償で運航し、さらにベトナム当局への書簡等で機体の国外搬出を妨害したという不誠実な不履行態様が重視され、救済が拒絶されました。
補償条項がレッサーの実際の損害を「完全補償(Make-whole)」する機能を果たすことが確認されました。具体的には、返還後の機体を耐空状態に復旧・再輸出するための実費、および整備期間中に再リースできず失われた賃料収入(Consequential Loss)の補償が命じられました。
英国の金銭判決を現地で執行するため、航空・金融ハブであるシンガポールで外国判決登録を行いました。VietJet側はベトナム法に基づく送達不備を主張しましたが、シンガポール上訴部([2026] SGHC(A) 11)は「国外代替送達の判断基準は直接送達が現実的に困難か否かであり、外国ローカル法は無関係」として異議を退けました。
エグゼクティブ・サマリー
- コールオプション付日本型オペレーティング・リース(JOLCO)は、日本の投資家による商用航空分野(および船舶ファイナンス分野)への資本投下の仕組みであり、COVID-19以前には、実際の訴訟でその仕組みが本格的に検証されることはほとんどありませんでした。ロンドンを拠点とするFitzWalter Capital グループのジャージー法人であるFW Aviation (Holdings) 1 Limitedと、VietJet Aviation Joint Stock Companyとの間の訴訟がその状況を変え、JOLCO のリスク配分がストレス下でどう機能するかに関する代表的な先例と目される一連の判決を生み出しました。
- JOLCOは、日本の投資家による出資と銀行からの借入れを、航空機を保有する日本のオーナー会社に組み入れます。オーナー会社が航空機を購入し、複数のリースを経て航空会社にリースし、契約期間の終了時に航空会社が当該航空機を低額で購入できる仕組みです。図は、VietJet の4機がどのように調達されたかを示しています。
- 英国における6件の判決において、JOLCOの仕組みは全面的に有効と判断されました。これらの判決は、2025年6月に控訴院によって維持され、2025年10月には最高裁判所への上告許可申立ても却下されました。すなわち、リース契約は有効に解除され、債権はディストレスト資産の買主に有効に譲渡され、失権からの救済は認められませんでした。また、航空機が既に回収・売却された後であっても、約1億8,150万米ドルの解除金について、執行可能であり、違約罰には当たらないと判断されました。
- 英国裁判所は自らの管轄権も守りました。VietJet のベトナムでの並行手続を差し止めてロンドンに紛争をとどめる一方で、国際礼譲の観点から、ベトナムに踏み込む強制的な命令は差し控えました。
- VietJetが支払わず、英国裁判所も全世界的な資産凍結命令を認めなかったため、争いはシンガポールにおける判決執行へと移りました。
- 日本の投資家、レンダー、レッサーおよび当事務所の業務地域全体におけるアジアの航空会社にとって、本件は、JOLCOのリスク配分が現実の危機的状況においてどのように機能し、債権者がどのように権利を実現するかを示す、最も重要な実例となっています。
I. JOLCO とは何か
コールオプション付日本型オペレーティング・リース(JOLCO)は、日本の投資家の資本を商用航空分野に投じるための仕組みであり、COVID-19以前は実際の訴訟でその仕組みが本格的に検証されることはほとんどありませんでした。ロンドンを拠点とする FitzWalter Capital グループのジャージー法人である FW Aviation (Holdings) 1 Limitedと、VietJet Aviation Joint Stock Companyとの間の訴訟がその状況を変え、JOLCO のリスク配分がストレス下でどう機能するかに関する代表的な先例と目される一連の判決を生み出しました。
FitzWalterはダブリンのリース会社ではなくファンドですが、アイルランドの航空機リース業界のポートフォリオにはJOLCOによって資金調達された航空機が大量に含まれており、また、同業界がパンデミック期にベトナムで経験した航空機回収に伴う問題が本件で明らかとなった摩擦と重なるため、本件は同業界から強い関心をもって注視されてきました。仮にVietJetの違約罰に関する主張が認められていれば、解除金が執行不能であるとの判断により、世界中のJOLCO取引において違法性を理由とする解除事由が発生し、その影響が市場全体に波及するおそれがありました。
Ⅱ. JOLCO の仕組み
その仕組みを簡潔にいうと、JOLCOは、1機の航空機を中心に構成される一連の契約関係です。資金は二つの経路から調達されます。日本の投資家が航空機価格の約4分の1を出資し(その真の狙いは加速償却による節税です)、銀行シンジケートが残りの 4 分の 3 を融資します。これらの資金は、機体を保有することのみを目的に設立された日本の特別目的会社(SPV)に払い込まれ、SPVがメーカーから機体を購入します。オーナー会社は次に、中間会社を介して、実際に機体を運航する航空会社まで機体をリースします。航空会社が支払う賃料は、一連のリース関係をさかのぼって支払われ、銀行借入れの返済に充てられます。リース期間の終了時には、航空会社は購入選択権、すなわち「コールオプション」を行使し、あらかじめ合意された価格で機体を購入して所有者になることができます。
問題が生じた際に重要な機能を果たすのが、次の二つの仕組みです。第一に、銀行は、担保受託者が保有する形で航空機に抵当権を設定します。この抵当権により、資金提供者は、最終的に航空機を差し押さえ、売却することができます。第二に、航空会社はコールオプションを有しているため、単に航空機を占有しているだけでなく、航空機について財産権上の利益を有しています。そのため、債務不履行に陥った航空会社も、少なくとも裁判所に対して「失権からの救済」を求めることができます。これら二つの機能は、いずれもVietJet 事件の中心的な論点となりました。
Ⅲ. 取引と債務不履行
2018 年と 2019 年に、VietJet はAirbus A321型機4機(新型の「NEO」機2機と「CEO」機2機)の引渡しを受けました。各機は、日本の投資家による出資約 25 %と銀行融資約 75 %を組み合わせた独自の JOLCO で調達されました。BNP Paribas 主導のシンジケートがCEO機 2 機を、Natixis 主導のシンジケートがNEO機 2 機を融資し、各銀行は担保受託者も務めました。各機は日本のオーナー SPV が保有し、VietJet が所有する中間会社にヘッドリースされ、さらに運航会社である VietJet にサブリースされました。4 機分のコールオプションの総額は約 9,600 万米ドルでした。
パンデミックにより VietJet の収益は大幅に減少し、2021 年までには、 4件すべてのJOLCOにおいて多額の支払遅延が生じていました。2021 年 10 月、各担保受託者は解除通知を送達しました。VietJetはこれらの解除通知の有効性を争い、その後も約1年間、賃料を支払うことなく航空機の運航を続けました。同じ時期に、レンダーはその地位を、新たに設立された英国法人である FitzWalter Capital Partners (Financial Trading) Limited に売却し、同社が担保受託者に選任され、その後貸付債権と担保権は FW Aviationに譲渡されました。FWA は抵当権を実行し、関連会社を通じて機体を取得し、2022 年 8 月に英国高等法院(商事裁判所)で、機体の引渡し、約 800 万米ドルの未払賃料、および 1 億 8,000 万米ドルを超える解除金を求めて提訴しました。航空機の回収は長期化し、激しい争いとなりました。 3機は 2024 年 8 月までにベトナムから輸出されましたが、残る1機が搬出されたのは2025年3月になってからでした。裁判所は後に、この回収の遅延が、組織的な妨害行為によるものであったと認定しました。
Ⅳ. 判決ごとにみる紛争
英国の訴訟手続では、一連の判断が示されました。平易にまとめると、以下のとおりです。
[2024] EWHC 1823 (Comm), 2024年7月16日 — 和解交渉の内容は証拠として使えるか
トライアル(本案審理)前、VietJet は、和解交渉の内容を引用したFWAの主張書面の一部を削除するよう裁判所に求めました。これに対し、FWA は、VietJet が当該交渉の中で、ベトナムでの判決執行を事実上不可能にすると脅したものであり、そのような「明白に不当な行為」があった以上、和解交渉の内容が訴訟上の証拠として使用されることを防ぐ「without prejudice」の保護は及ばないと主張しました。しかし、裁判官はFWAの主張を退けました。VietJetの発言は、裁判所の命令に従わないとの威嚇ではなく、ベトナムでの執行の現実的な困難についての率直な警告と解釈するのが適切であり、脅迫にも当たらないと判断しました。その結果、和解交渉の内容は引き続き秘密として保護されました。ポイントは、率直な和解交渉は手厚く保護され、強硬な発言が「不当な行為」と評価されるためのハードルは高いという点です。
[2024] EWHC 1904 (Comm), 2024年7月26日 — 妨害行為の差止め、ただし、その範囲には限界がある
FWA は既に、機体の占有・保管・管理を認める 2022 年の合意に基づく命令(consent order)を有していました。しかし、FWAは、VietJetと関係する株主がベトナムで提起した訴訟や関係者間の書簡が、航空機の登録抹消および国外搬出を妨げるために利用されているとして、VietJetの行為を制止するよう裁判所に求めました。ベトナムの原告らに書簡を送ることをVietJetに命じる作為命令も含まれていました。裁判所は、複数の不作為命令、すなわち一定の行為をしてはならないとする命令を認めましたが、作為命令、すなわち一定の行為をするよう求める命令については認めませんでした。裁判所は、不作為命令と作為命令との違いに加え、ベトナムの裁判所に対する国際礼譲や、別途係属していた裁判所侮辱手続との関係も考慮し、作為命令を認めませんでした。英国裁判所は、自らの命令を守る一方で、外国の裁判手続における当事者の行為を直接命じることには慎重な姿勢を示しました。
[2024] EWHC 1945 (Comm), 2024年7月31日 — FWAが責任の有無に関する争いで勝訴
これは、責任の有無に関する中心的な判決です。特に重要なのは、次の三つの判断です。第一に、2021 年 10 月に送付された解除通知により、各リース契約は有効に終了したと判断されました。第二に、FitzWalter 各社への譲渡の連鎖は有効であり、FWAには訴えを提起する権限があると判断されました。VietJetは、ディストレスト債権の買主は「金融機関」に当たらないと主張しましたが、裁判所は「金融機関」を広く解釈し、この主張を退けました。第三に、VietJetが反訴により求めていた「失権からの救済」は認められませんでした。この請求は、実質的には、航空機をVietJetに返還すること、または新たなリース契約を締結させることを求めるものでした。しかし、VietJetは支払能力があったにもかかわらず、多額の債務不履行に陥り、航空機の回収も妨害していたため、裁判所は救済を認めませんでした。
[2024] EWHC 3337 (Comm), 2024年12月23日— 紛争はロンドンで
VietJet は、原初の融資銀行である BNP と Natixis を相手に、ハノイ人民裁判所に訴訟を提起していました。これに対し、FWA と各銀行は、主要契約である融資契約、ヘッドリース契約、サブリース契約のいずれも、紛争を英国で解決することを定めていたとして、訴訟差止命令を求めました。裁判所は、各銀行が権利を譲渡した後であっても、専属的裁判管轄条項を援用できると判断しました。ただし、訴訟差止命令を発する代わりに、VietJetから、ベトナムの訴訟を継続しない旨の正式な確約を受け入れました。これは、国際礼譲により配慮した対応です。その結果、英国を指定する裁判管轄条項の効力が認められ、外国で並行して進められていた訴訟は停止されました。
[2025] EWHC 928 (Comm), 2025年4月17日 — 支払額はいくらか、また違約罰に当たるか
金額に関する審理では、解除金が約1億6,480万米ドル、合意された状態で返還されなかったNEO型機について解除後に発生した「賃料」が約1,670万米ドルとされ、合計額は約1億8,150万米ドルと判断されました。これに対し、VietJetは、解除条項は執行不能な違約罰の性質を有すると主張しました。しかし、裁判所はこれを退けました。解除金は、日本の投資家の収益や税務上の地位を含む正当な利益を保護するものであり、JOLCOが予定より早く終了すれば、その税務上の地位が悪化することも考慮されました。VietJetは、取引内容を理解した上で交渉を行った専門性の高い当事者でした。特に重要なのは、FWAが既に航空機を回収し、売却した後であっても、解除金の支払義務が残ると判断された点です。
[2025] EWCA Civ 783, 2025年6月24日 — 控訴院が原判決を維持
VietJetは、責任の有無に関する判決を不服として控訴しました。2025年6月24日、控訴院は控訴を全面的に棄却し、解除通知の有効性と、FitzWalterの各法人への譲渡を有効とした「金融機関」の広い解釈を維持しました。2025年10月30日には、最高裁判所への上告許可も認められなかったため、英国における本案の判断は確定しました。
[2025] EWHC 1920 (Comm), 2025年7月23日 — 勝訴は執行・回収と同じではない
判決に基づく債務は 2025 年 5 月 15 日に支払期限を迎えましたが、VietJet が資金調達に向けて「積極的かつ緊急の措置」を講じていると裁判所に述べていたにもかかわらず、未払のままでした。FWA はVietJetが資産を債権者の手の届かない場所に移すおそれがあるとして、全世界的な資産凍結命令を求めました。しかし、VietJetは2022年以降、激しく争われた訴訟手続に全面的に参加しており、提出された証拠からは、資産を散逸させる現実的な危険があるとは認められないとして、裁判所はこれを退けました。この判断は、有利な判決を得ることは数多くの段階の最初にすぎないこと、また、判決に基づく債務を支払わない債務者に対しても、資産凍結命令を得ることは容易ではないことを示しています。こうした回収の困難が、FWAをシンガポールでの判決執行へと向かわせました。
[2025] EWCA Civ 1458, 2025年11月14日 — 裁判所侮辱をめぐりVietJetが限定的に勝訴
控訴審における判断のうち、一件はVietJetに有利なものとなりました。FWAは、VietJetがベトナムの行政当局に送付した書簡が、FWAによる航空機の占有を保護する差止命令を損なうものであるとして、裁判所侮辱手続を進めていました。2025年11月14日、控訴院は、差止命令の文言そのものには違反せず、その趣旨に反するにすぎない行為について、刑事上の裁判所侮辱責任を問うことはできないと判断しました。この判決から直ちに得られる実務上のポイントは、差止命令では、懸念される具体的な行為を明示的に禁止する必要があるという点です。裁判所は、事後的に命令の文言を拡張して解釈することはありません。
[2026]EWHC 1996 (Comm), KBD, 2026年7月31日 — 賃料不払いを超える補償条項に基づく損失の回収可能性および解除後の日本のレッサー兼投資家にとっての「実損害」の意味
Birt裁判官の下で行われたこの第3回審理における中心的な争点は、JOLCOのリース関連書類に定められた補償条項の契約解釈、具体的には、解除の原因となった未払賃料の支払いにとどまらない、レッシーであるVietJetがレッサーであるFWAに対して負う補償義務の範囲でした。裁判所は、当該補償義務には、(a) 返還後、NEO型航空機を耐空状態に復旧し、再輸出するために実際に発生した費用および(b) 当該復旧期間中、航空機を賃貸することができなかったために失われた賃料収入という派生的な損失が含まれることを確認しました。補償義務の範囲、またはこれらの費用の合理性もしくは因果関係を争うものであったと考えられるVietJetの反訴は、全面的に棄却されました。
Ⅴ. 判決の執行:ロンドンからシンガポールへ
この一連の事件から得られる最も重要なポイントは、ロンドンで勝訴したこと自体ではなく、その勝訴判決を実際の債権回収につなげるまでの困難な過程にあります。英国の金銭判決を得ただけで、ベトナムの航空会社に対する強制執行が自動的に実現するわけではありません。債権者は、債務者が資産または事業上の拠点を有する法域を選び、その法域の裁判所に判決の承認・執行を求める必要があります。FWAはシンガポールを執行地として選択しましたが、VietJetはその手続の各段階を争いました。
英国判決の登録
2025年6月、FWA は、1959年外国判決相互執行法(Reciprocal Enforcement of Foreign Judgments Act 1959)に基づき、英国裁判所の各命令をシンガポールで登録するよう申立てを行い、2025 年 7 月 1 日、シンガポール高等法院は登録を認めました。登録によって初めて、外国判決はシンガポールの裁判所が執行できるものとなるため、これは資産に対する強制執行に先立つ不可欠な第一歩です。
送達を巡る争い
その後、VietJetは、書類の送達方法をめぐって手続上の争いを提起しました。FWAはまず、2025年7月中旬に、DHLの宅配便を利用して登録関係書類をベトナム国内で送達しようとしましたが、2回とも成功しませんでした。そこで、裁判所は同年8月1日、電子メールによる代替送達を許可しました。VietJetは、宅配便および電子メールによる送達はベトナム法に適合しておらず、書類にもベトナム語訳が添付されていなかったとして、この命令の取消しを申し立てました。2025年12月、副登録官はかかる申立てを退けましたが、慎重を期して、FWAに対し、翻訳済みの書類一式を改めて送達するよう命じました。VietJetは高等法院一般部に不服を申し立てましたが、これも退けられ、さらに上訴許可を求めました。
[2026] SGHC(A) 11(シンガポール)
2026 年 4 月 21 日、上訴部はVietJetの上訴許可申立てを退けました。この判断は、シンガポールにおける実務を明確に示しています。すなわち、シンガポール国外への代替送達を認めるかを判断する際に問題となるのは、直接送達が現実的に困難かどうかであり、それ以前に試みられた送達が、送達地の外国法上有効であったかどうかではない、というものです。そのため、この点についてベトナム法は判断に影響しませんでした。また、証拠上、VietJetの関係者は、明確に送達を回避していたとまではいえないとしても、少なくとも送達を困難にしていたと認められました。VietJetが予定していた上訴は、実質的には事実認定を争うものでしたが、例外的な事情がない限り、このような上訴は認められません。本件にはそのような事情もありませんでした。その結果、英国判決の登録は維持され、登録を覆すためのVietJetの手続上の争いは尽きました。
以上のことからは三つの教訓があります。第一に、シンガポールの外国判決登録制度は、アジアの債務者を相手方とする債権者にとって有力な執行基盤となります。債務者がシンガポール国内に保有する資産が少ない場合でも、航空機がチャンギ空港を経由し、取引先がシンガポールで銀行取引を行っているためです。第二に、ベトナム法人に対する送達をめぐる手続上の争いは十分に予想されるため、その費用をあらかじめ見込んでおく必要があります。第三に、裁判所は適切な翻訳の提出を求める一方、形式的・技術的な異議だけで外国判決の登録を阻止することは認めません。
Ⅵ. 市場関係者への示唆
- 日本の投資家 JOLCOの税務上の意義も、英国法上の救済を検討する際の考慮要素となることが示されました。違約罰の法理の適用に当たっては、日本の投資家による出資の動機となる、加速償却による税務上の利益が十分に考慮されました。将来、解除時の支払順位(ウォーターフォール)の執行可能性を支える根拠となり得るため、ストラクチャーに関する説明資料や契約書の前文では、こうした利益を明確に記載すべきです。
- レンダーおよびアレンジャー 広範な譲渡文言は十分な価値があります。「金融機関」の解釈をめぐる争いには数年を要しましたが、譲渡条項がより明確であれば、この争いは避けられた可能性があります。融資契約では、ファンド、特別目的会社およびディストレスト債権の二次取得者への譲渡も明示的に想定すべきです。
- レッサー(アイルランドのプラットフォームを含む) 解除に関する契約上の仕組みは、航空機の回収・売却後も効力を有します。また、解除後の賃料は、航空機が合意された状態で返還されなかった場合の損害賠償額の予定として執行可能となり得ます。これは、この地域への関与が大きいダブリンの航空機リース会社を含め、すべての資金提供者にとって交渉上の立場を強めるものですが、解除後の賃料に関する条項については、改めて注意を払う必要があります。
- 航空会社(レッシー) コールオプションは単なる契約上の期待にとどまらない衡平法上の権利であり、英国裁判所は、それが失権からの救済の根拠となり得る物権的利益であると認めています。もっとも、戦略的な不払いまたは航空機の回収に対する妨害行為に及んだ場合には、このような保護を受けることはできません。経営難に陥った航空会社は、賃料を支払わずに航空機の運航を続けながら解除を争うよりも、早期に協議を開始し、一定期間の権利行使の猶予を交渉する方が、より多くの選択肢を確保できます。
- 補償条項に基づく損失 JOLCOストラクチャーにおける日本の投資家およびアレンジャーにとって、2026年7月31日判決は、補償の仕組みが、単に未払賃料に代わる損害賠償額を算定するためのものにとどまらず、回収した資産を再び商業利用可能な状態にするためにSPC又はレッサーが実際に負担した費用を補填する、実質的な「完全補償」として機能することを確認したものです。こうした費用には、耐空性を回復するための費用、再輸出に必要な法令対応費用、および再リースまでの空白期間中に失われた賃料収入が含まれます。これは、日本のエクイティ投資家が案件組成時に引き受けるリスクの配分に直接関わります。すなわち、本判決は、JOLCOリースにおいて補償条項を適切に起草することにより、解除後であっても、資産の状態に関するリスクおよびリマーケティング・リスクを債務不履行に陥ったレッシーに負担させることができ、SPCおよびその日本の投資家が復旧費用を補填されないまま負担する事態を回避できることを裏付けるものです。また、裁判所は、定型的な損害額の算定に依拠するのではなく、FWAが「実際に発生した損失」を証拠により立証したことを重視しました。この点で、本判決は、補償条項を明確かつ正確に起草することに加え、費用の発生およびその内容を示す資料を適時に作成・保存することの重要性も示しています。
(執筆: アール リベラ ドレラ, 奥山 光幸, 青木 陽佑)
*本ブリーフィングは一般的な情報提供のみを目的とし、法的助言を構成するものではありません。本稿は、FW Aviation (Holdings) 1 Ltd v VietJet Aviation Joint Stock Company [2024] EWHC 1823 (Comm)、[2024] EWHC 1904 (Comm)、[2024] EWHC 1945 (Comm)、[2024] EWHC 3337 (Comm)、[2025] EWHC 928 (Comm) および [2025] EWHC 1920 (Comm)、控訴審判決 [2025] EWCA Civ 783 および [2025] EWCA Civ 1458、ならびに VietJet Aviation Joint Stock Company v FW Aviation (Holdings) 1 Ltd [2026] SGHC(A) 11 という公開判決に基づいています。記載内容は 2026 年 7 月現在のものです。© 2026 TKI Singapore LLP.

TKI (Singapore) LLP
earl.dolera@tkilaw.com
アール・リベラ=ドレラは、国際仲裁およびクロスボーダー紛争解決を専門とする弁護士です。当事務所入所前は、ベトナムのFrasers Law Company(旧Freehills)においてパートナー兼国際仲裁部門責任者を務め、ICC、SIAC、JCAA、HKIACなど主要仲裁機関に基づく仲裁手続において数多くのクライアントを代理してきました。これまでに200件以上、総請求額100億米ドル超に及ぶ案件に関与し、仲裁人(単独・当事者指名・議長)、代理人、あるいは著名な国際仲裁人の下での仲裁廷書記など、多角的な立場で豊富な実務経験を積み上げています。
また、航空機ファイナンス・紛争分野においても深い知見を有し、債務不履行に陥った航空会社に対するダブリン拠点のレッサー(貸主)への助言や、ロンドンにおける裁判手続を含むクロスボーダーでの権利行使・紛争対応に関与し、戦略的な法的アドバイスを提供しています。
主な取扱分野:国際仲裁、航空機・アセットファイナンス紛争、エネルギー・インフラ関連紛争、建設クレーム、クロスボーダー訴訟・取引
弁護士資格等:ソリシター(イングランド及びウェールズ)/弁護士(米国ニューヨーク州、テキサス州、フィリピン)
所属:Chartered Institute of Arbitrators(CIArb)フェロー/Singapore Institute of Arbitrators(SIArb)フェロー
奥山光幸は、13年以上の実務経験を有する日本法弁護士です。TKI入所前は森・濱田松本法律事務所に所属し、国内外のクライアントに対し、ストラクチャード・ファイナンス、再生可能エネルギー、建設、不動産取引に加え、航空・空港関連案件に関しても幅広く助言を行っています。
航空機ファイナンスの分野では、日本および海外の当事者に対し、取引関連書類や担保設定を含む商用航空機のリース・ファイナンスストラクチャーについて助言を提供しているほか、空港敷地内の土地使用権に関する訴訟対応の経験も有しています。また、国土交通省への出向時には、国の空港コンセッション(PPP)事業に直接携わり、制度設計、入札・事業関連書類の作成、国内外の入札参加者との交渉、ならびに事業運営段階の対応まで支援しました。
弁護士としての法的専門性に加え、二級建築士および宅地建物取引士としての技術的・実務的背景を併せ持ち、日本のエネルギー、インフラ、実物資産プロジェクトのライフサイクル全般において、ビジネスに即した実践的なアドバイスを提供しています。
主な取扱分野:再生可能エネルギー関連規制・立地対応、プロジェクト・ファイナンス、航空機ファイナンス、空港・インフラPPP、インバウンド投資、建設・不動産紛争・契約
弁護士資格等:弁護士(東京弁護士会)/二級建築士/宅地建物取引士

