M&A(企業買収等)

【コラム】インドにおけるM&A、リストラクチャリングと出口(EXIT)戦略 <第2回>

「インドにおけるM&A、リストラクチャリングと出口(EXIT)戦略」の第2回として、今回はインド企業からの事業の買収(資産譲渡・事業譲渡)、合弁(Joint Venture)などの手法についてお届けします。

下記の情報は、インド法律事務所の DSK Legal より提供いただいています。

インドにおけるM&A、リストラクチャリングと
出口(EXIT)戦略 <第2回>

3. インド企業からの事業の買収(資産譲渡・事業譲渡)

インド企業の事業の一部を買収する場合、インド国内にある既存事業を資産又は事業の売買によって取得することが可能です。資産・事業の一部の売買は、資産譲渡契約(Asset Purchase Agreement)によって行われ、全事業の売買は事業譲渡契約(Business Transfer Agreement)によって行われます。資産譲渡及び事業譲渡のメリットとしては、例えば、法人に関連付けられているリスク・義務(債務)は譲渡する必要がないということが挙げられます。また、中核資産・事業と非中核資産・事業を分離することにも有用であることがポイントとして挙げられます。資産・事業譲渡契約は、主にインド会社法180条により規律され、同条上、実質的全部の資産・事業の譲渡を実行するためには、株主総会の特別決議が必要とされます。会社法上求められる遵守事項に加えて、資産・事業譲渡契約の実行にあたっては、譲渡対象となる契約の相手方の同意が必要となることがあります(例えば、顧客、仕入先、金銭消費貸借契約上のレンダー、賃貸人、規制当局など)。さらに、資産・事業譲渡契約は、インドの税務当局における調査事項とされることがあります。したがって、資産・事業譲渡契約に基づくリストラクチャリングを行う際には、財務・税務の観点からも検討を行うことが重要です。

4. 合弁(Joint Venture)

合弁は、インド進出を検討する日本企業にとって、現地のパートナー企業との戦略的パートナーシップにおいて有力な選択肢の一つとなっています。インド法上、合弁の形態、事業行為、終了時期に関する制限は特になく、合弁契約(Joint Venture Agreement : JVA)の定めに従うことになり、合弁契約は1872年インド契約法により規律されることになります。合弁は、法人形態(例えば、Limited CompanyやLimited Liability Partnership:LLP)により設立されることが多いですが、法人形態をとらない形も可能です。また、合弁契約は、後々当事者間で権利義務について解釈上の争いが生じないように慎重な議論と検討が必要です。加えて、合弁パートナーからの株式などの譲渡やEXITに関する規定も含まれることが通常です。既存の合弁を有する企業は、合弁契約上の建付けを検証し、従前の合意を修正する必要があるか、合弁事業からEXITすることが必要か、はたまた合弁パートナーからの株式取得をすべきかの必要な手続を検討することが必要となる場合もあります。

合弁事業における再編・EXITの手法として、ドラッグアロングやコールオプション、プットオプションは有用な選択肢です。株主間契約又は合弁契約(取引実行後、当該文言は定款にも規定されます)は、債務不履行事由(events of default)や重大な義務違反(material breach)など、一定の事由が生じた場合を列挙しており、これらの事象が発生した場合にはドラッグアロング、コールオプション又はプットオプション行使事由になるよう設計することが可能です。例えば、合弁契約の中に一定の撤退基準を定めておき、撤退基準に該当する場合にはプットオプションを行使してEXITする道を確保しておくことが可能です。これらの権利を行使した場合、既存の外国投資家は、外国為替管理法(Foreign Exchange Management Act:FEMA)の規定の遵守が必要となり、価格規制・バリュエーションに関する規制、届出規制が適用されます。

5. 会社分割(Demerger)

会社分割は、スピン・オフ、スプリット・アップの形態の一つです。スピン・オフは、一つの事業を複数の法人に分割する手続をいいます。スピン・オフでは、新法人が設立され、事業譲渡契約に基づき、全資産と義務が当該新法人へ移転されます。新会社は、事業譲渡の対価として、分割会社の株主に対し按分割合で株式譲渡契約に基づき株式を発行します。スプリット・アップは、スピン・オフの一形態であり、二つ以上の会社を新設し、それらに事業を譲渡する形で行われるもので、従前の会社は消滅し、新会社が存続することになります。

インドでは、会社分割は、裁判所主導で行われ、会社法及び1961年法人税法の2条(19AA項)により規律されます。合併と同様に、計画書は従業員、負債、資産、債務などの新会社の譲渡に関する詳細が規定され、取締役会により承認されます。計画書はその後、NCLTに提出され、NCLTは当該会社の株主総会、債権者集会を招集します。当該会社の株主、債権者は当該計画書を承認又は否決することになります。NCLTは、これらに関する監督権限を有し、全手続を監視し、計画書を承認します。

6. 減資及び自己株式買戻し

インド会社法66条は、株主総会の特別決議及びNCLTの承認(当該承認は中央政府(Regional Directors、ROC及びSEBI)から異議がないことを前提に与えられる)により、資本金の額を減少させることを認めています。外国会社でありインド国内に剰余金を有する子会社を有する会社は、当該規定に従って減資手続を行うことが可能で、資本剰余金はインド法の規定に従って外国会社に払い戻しをすることが可能です。

インド会社法68条は、自己株式買戻しを規定し、準備金(free reserve)若しくは証券プレミアム勘定(securities premium account)を原資として又は株式その他の有価証券を発行することを対価として、会社にその株式を既存株主から買い戻すことを認めています。ただし、定款による授権がされているか、又は株主総会の特別決議による承認を得ている必要があります。

第1回:インドでの非上場会社の株式取得、TOB(Takeover)による上場株式の取得、合併(Amalgamation/Merger)
第3回:インド法人の清算など、インド外資規制

(執筆担当者:岩崎


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