【TKI Voice】改正下請法により適用対象が拡大(改正法対応支援のご提案)
改正下請法により適用対象が拡大
TKIによる改正法対応支援のご提案
本ニュースレターでは、2025年6月にお届けしたコラム(改正下請法の概要はこちら)に続き、7月に開催したセミナーで議論された「現時点での法解釈」や運用基準案を踏まえた最新情報をご紹介します。
「下請代金支払遅延等防止法及び下請中小企業振興法の一部を改正する法律」(以下、下請法または改正法)が2025年5月に成立しました。これまで下請法の適用を受けなかった事業者や取引形態も新たに対象となります。施行までの準備期間が限られている一方、改正法への対応は多岐に渡ることから、東京国際法律事務所(TKI)では改正法対応に特化したサービスの提供を始め、お客様の法務業務を支援してまいります。
改正法は2025年5月16日に成立し、公布日から1年以内の施行予定でしたが、国会審議の過程で急遽、2026年1月1日の施行となりました。2025年7月16日には公正取引委員会が運用基準案を公表しています。本コラムでは運用基準案を踏まえて改正法のポイントを解説し、あわせてTKIが提供する支援サービスをご紹介します。
1. 主要な改正点のポイント
(1)「下請」等の用語の見直し
従来、下請法といわれていましたが、「下請」という用語には取引関係が対等ではない語感を与えるとの指摘を受け、従来の「親事業者」を「委託事業者」、「下請事業者」を「中小受託事業者」、さらに「下請代金」は「製造委託等代金」へと改称されます。法律の名称も「下請代金支払遅延等防止法」から「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(略称「中小受託取引適正化法」、通称「取適法」)に変更されます。
(2)協議を適切に行わない代金額の決定の禁止
中小受託事業者が委託事業者に対して、製造委託等代金額に関する協議を求めたにもかかわらず協議に応じず、または協議において求めた事項について、必要な説明もしくは情報の提供をせず、一方的に代金額を決定する行為が禁止されます。昨今の人件費や原材料費等の高騰を受け、価格転嫁を促す環境整備が必要との観点から設けられました。
必要な説明もしくは情報の提供をしたかの判断について、運用基準案での説明によると、「中小受託事業者の給付に関する事情の内容、中小受託事業者が求めた事項、これに対し委託事業者が提示した内容及びその合理性、中小受託事業者との間の協議経過等を勘案して総合的に判断する」としています。協議の場や情報提供を求められた委託事業者は真摯に対応することを基本姿勢としたうえで、個別具体的に判断が難しい場合は専門家に相談したり、都度検討したりするのが望ましいでしょう。
価格転嫁できない状況の改善について、公正取引委員会はこれまで下請法改正以外の手段で、複数回にわたって対応してきました。公取委の指針は改正法より一歩進んでおり、発注者側から協議の場を設けるように求めています(2023年11月29日「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」)。従って、発注者側から協議の場を設けなくても改正法違反にはなりませんが、独占禁止法の優越的地位の濫用として問題になる可能性がある点には注意が必要です。
(3)手形払い等の禁止
代金の支払い決済手段として手形等を用いられることがありましたが、手形を受け取ってから現金化までに時間がかかることで、中小受託事業者に資金調達の負担を押し付けることになっていたため今後、手形払いは認められなくなります。電子記録債権やファクタリングについても支払期日までに代金が入らない決済は認められません。政府は2026年に約束手形の利用廃止に向けて取り組んでおり、改正法で一足早く手形廃止が実現することになります。
(4)運送委託の対象取引への追加
下請法が規制対象としている取引カテゴリーは製造委託、修理委託、情報成果物作成委託、役務提供委託の4つに分類されます。そこに特定運送委託が追加され、運送事業者が荷主から直接、委託を受ける取引が新たに対象になります。なお現行の下請法でも運送事業者が別の運送事業者に再委託することは、役務提供委託に該当して規制対象です。
荷主からの運送委託は現在、独禁法の物流特殊指定で規制されていますが、今回の改正で下請法の対象となりました。改正で下請法の対象となる上での主な変更点は、親事業者に4つの義務(明示義務、支払期日を定める義務、書類の作成・保存義務、遅延利息の支払義務)が新たに適用される点になります。
(5)従業員基準の追加
下請法は一定規模以上の事業者と、一定規模以下の事業者との取引が適用対象となります。一定の規模というのは従来、資本金で判断(製造委託の場合、資本金3億円超の事業者が、同3億円以下の事業者あるいは個人に対しての取引)していましたが、現実には資本金が少なくても大きな企業は少なくないことから、従業員数での判断(製造委託の場合、従業員300人以上の事業者が、同300人以下の事業者あるいは個人に対しての取引)も追加されることになりました。
これにより、現行法では対象ではなかった企業が新たに下請法適用対象になる可能性があり、その場合は親事業者の4つの義務(明示義務、支払期日を定める義務、書類の作成・保存義務、遅延利息の支払義務)が新たに発生します。運用基準案によると、従業員とは事業者が使用する労働者のうち、雇用期間が1か月未満の者を除いた者を指すとしています。従業員数の決定方法は「その事業者の賃金台帳の調製対象となる対象労働者の数によって算定」(運用基準案)となっています。資本金基準と従業員基準の関係性については、まず資本金基準で判断し、満たさない場合は従業員基準で判断されることになります。
(6)面的執行の強化
不当な扱いを受けた中小受託事業者が事業所管省庁(トラック・物流Gメン)に通報した場合も、委託事業者が報復措置を取ることが禁止されます。
(7)その他
① 金型のみならず木型・治具等も製造委託の取引対象に追加され、木型・治具等の保管費用を受託事業者に負担させることも違法であることが分かりやすくなります。
② 下請事業者の承諾がなくても、旧3条書面は電磁的方法による交付でも可になります。
③ 遅延利息の対象が代金減額にも拡大されます。
④ 違反行為を自主的に是正したとしても、勧告の対象となり得ることが明記されました。
⑤ 事業承継後の会社にも立入検査等が実施可能になります。
⑥ 振込手数料を受託事業者に負担させる行為は、下請事業者が合意していても「減額」と扱われ違法となる見込みです。
2. 施行日に向けた具体的な準備
改正法の運用基準案は7月に原案が公表され、パブリックコメントを募った上で10月に成案が公表予定です。また、実務に依拠してかなり細かい項目まで記載されている、公正取引委員会が実施する下請法講習会のテキストは、12月に改正法を踏まえた版が公表される予定です。しかし、施行は2026年1月1日であり、準備期間が非常に短い状況です。具体的な方針が明らかになるのが12月に入る可能性もあるので、今から対応できることは進めておく必要があります。
委託事業者としては、法律の名称変更に伴って、既存の社内規定・マニュアルの見直しや3条書面の文言を修正する必要があります。改正法で実務上のインパクトが大きいのが、従業員数基準の対応です。取引先である中小受託事業者の従業員数を都度確認するのは難しいので、ある程度の増減を見越した上で基準である300人より余裕を持たせた人数で慎重に判断する必要があるでしょう。確認方法にあたっては、取引先のウェブサイトでの確認もありますが、下請事業者自身から申告してもらうのが確実ですので、覚書等を交わすのが一つの有用な対応になります。
3. ご提案
改正法によって適用対象が広がることで当事務所にも多くの相談、問い合わせが寄せられています。TKIではお客様の法務業務を支援するために改正法に特化した以下のサービスを提供いたします。
(1)下請法改正 実務対応パック
現在直面している社内の課題を把握のうえ、改正法の対応まで一気通貫のパッケージで提案します。まずキックオフミーティングで課題を確認し、TKI所属弁護士による社内研修を約1時間半、実施します。内規やコンプライアンスマニュアルの改訂業務の支援や、従業員基準についての覚書の案文を作成、提供いたします。また契約書作成にあたって注意すべき点のチェックリストも組み合わせ、初動対応をスムーズに進められるようサポートします。
(2)下請法特化リモート・インハウス
TKIでは所属弁護士がリモートベースで法務部員の一員となって、月次の固定報酬、稼働時間にて法務業務を支援するリモート・インハウスサービスを提供しています。下請法関連は定型業務であるものの対応件数が多く、同法関連の業務を一括でアウトソースしたいとのご要望に対応して、下請法対応に特化したリモート・インハウスサービスを始めます。日常的な課題解決や業務負担の軽減にご活用いただけます。業務量はご要望に応じ、柔軟な設定が可能です。
「下請法改正 実務対応パック」は改正法対応の初動を想定したサービス、「下請法特化リモート・インハウスサービス」は対応中に生じる日々の課題を継続的にサポートするものとして設計しています。いずれも具体的なサービスをパッケージで準備しておりますので、詳細についてお気軽にお問合せください。
(執筆協力者:植村直輝)
※本記事の内容は、一般的な情報提供であり、具体的な法的又は税務アドバイスではありません。
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東京国際法律事務所
E-mail: naoki.uemura@tkilaw.com