その他リモート・インハウス

法務人材不足の解決策——アウトソーシングの先にある「共創」を目指す、リモート・インハウスという選択肢

「経験豊富な法務人材が採用できない」「M&Aで新組織が立ち上がったが、法務機能がない」「急な退職者が出て業務が回らない」——。これらは多くの企業が直面する、法務部門の構造的な課題です。特に、一人で案件を回せる中堅クラスの法務人材は採用市場での需要が高く、その獲得は容易ではありません。

従来の顧問弁護士やアウトソーシングだけでは、事業のスピード感や社内の複雑な事情にまで踏み込んだ対応が難しいケースもあります。こうした状況に対し、弁護士が社外から法務部員の一員として業務を担う「TKIリモート・インハウスサービス」が今、新たな解決策として熱い視線を浴びています。

今回、東京国際法律事務所(TKI)でリモート・インハウスを実践する大竹将之弁護士美馬拓也弁護士相原友里弁護士の3名に、本サービスが目指す企業法務の新たな形について、話を聞きました。

大竹将之弁護士
2009年検事任官、2024年弁護士登録、2024年8月TKI入所
検事として15年間、企業犯罪やサイバー犯罪などの捜査・公判に従事。法務省および外務省への出向経験も有し、政府間交渉を含む国際関係業務にも携わる。検事および公的機関での豊富な経験を基盤とし、現在はその知見を活かして、企業のジェネラルカウンセルレベルの包括的な法務支援を提供。特に、不正調査、危機管理、レギュレーション対応など、経営判断に直結する戦略法務を得意とする。

美馬拓也弁護士
2012年弁護士登録、2025年1月TKI入所
ライフサイエンス・ヘルスケア分野、および知的財産分野を主な専門領域とする。国内大手法律事務所で10年以上の経験を有し、外資製薬会社の法務部や国内大手メーカーの知的財産部への出向経験を持つ。薬事規制と知財戦略が複雑に絡み合うライセンス取引や共同研究開発、クロスボーダー案件に精通。出向経験から得た事業サイドへの深い理解をもとに、ビジネスの実態に即した戦略的法務サポートを数多く手掛けている。

相原友里弁護士
2013年弁護士登録、2024年3月TKI入所
大手渉外事務所にてM&Aや一般企業法務など、国内外の多様な案件に従事。その後、医療機器などを扱う大手メーカーの法務部に移籍し、約7年間にわたり国内外の商取引、ヘルスケア法務、グループ内再編などを担当。法律事務所と事業会社、双方の視点を持つことを最大の強みとし、現在はその経験を活かして、クライアントの内部に溶け込み、現場のニーズを的確に捉えた法務実務を幅広くサポートしている。

法務人材不足の背景にある、構造的な課題

なぜ、これほどまでに法務人材は足りないのか。その背景には、個別の事情を超えた構造的な問題が横たわっています。

大竹弁護士が挙げるのは、外資系企業などで見られる、ジェネラル・カウンセル(GC)などの法務責任者の離職による機能の低下です。経営の中枢を担う人材が突然不在となった際、その専門性の高さゆえに社内で代替できる人材がおらず、法務機能が著しく低下してしまう事態は決して珍しくないといいます。

一方で、事業再編が人材不足の引き金になることもあります。美馬弁護士は「M&Aや組織再編に伴い新会社が設立され、Day Oneからオペレーションを回す必要があるが、その時点までに必要な人材の全てをプロパー人材で確保するのは難しい場面もある」と指摘します。特にM&Aや組織再編の結果としてグローバルサイドが関与することになる案件では、クロスボーダーでのレポートラインが生じやすく、クロスボーダーでのコミュニケーション能力と事業への深い理解を兼ね備えた法務人材へのニーズは高いといえるでしょう。

相原弁護士は、よりマクロな視点から、法務人材の売り手市場化とキャリアの多様化が背景にあると分析します。弁護士資格を持つ人材が増え、企業が積極的に採用するようになった結果、特に中堅層は法律事務所からも企業からも需要が高まっています。「弁護士自身のキャリア観も変化し、自分の興味やライフステージに合わせて職場を変えることが珍しくなくなった」(相原弁護士)ことで、法務人材の流動化が生じているのです。加えて、法務部員が経営企画や海外子会社の管理部門など法務の枠にとどまらない職責を担う部署・ポジションへ異動していくケースも多く、結果として現場のリソースが不足するという状況も生まれています。

出向と顧問のいいとこ取り——“必要なときに、必要なだけ”という解

こうした慢性的なリソース不足に対し、TKIリモート・インハウスサービスは極めて合理的な解決策を提示します。それは、従来の「出向」と「顧問」のメリットを掛け合わせた、柔軟な支援形態といえます。

企業側から見れば、育成コストをかけずに即戦力を確保できる点が最大の魅力です。「必要な知見を持つ人材を、直接雇用のリスクを負わずに、迅速かつタイムリーに配置できる」と大竹弁護士はその利点を説きます。

この柔軟性は、さまざまな状況で有効に機能します。たとえば、産休・育休や海外留学などで1〜2年だけ人材の穴が空いた場合、新たに正社員を採用するのは現実的ではありません。相原弁護士は、そうした期間の穴埋めに本サービスは最適であるとしたうえで、「その方が戻ってきた後も、プロジェクト対応や株主総会対応などにより突発的・一時的に業務リソースが逼迫したときのために、”ベンチにいるバックアップ要員”としてサポートすることもできます」と、その継続的な活用法も示します。

また、本サービスは、本サービスを提供する弁護士自身の業界における知見を広げ、幅広い業界動向やプラクティカルな経験を踏まえた洞察とバランス感覚を備えたリーガルサービスをクライアントに還元できる点も大きなメリットです。「自分の弁護士としてのレベルアップが、同時にクライアントへの貢献や価値提供につながる、双方にとってWin-Winの仕組み」と美馬弁護士は強調します。

「外の知見」を持ち、「中の人」として動く


リモート・インハウスの価値は、その具体的な業務内容にも表れています。三者三様のスタイルは、このサービスがいかに多面的であるかを物語っています。

元メーカー法務部員という経歴を持つ相原弁護士が重視するのは、現場への「溶け込み」です。

「NDAのレビュー一つとっても、技術を守りたいメーカーと、スピードを重視する商社では、その重みや見るべきポイントがまったく異なります。特にサービス開始直後は、些細なことでもレポート先に相談し、その会社の文化や力点を肌感覚で理解することに努めます」(相原弁護士)

契約書レビューからプロジェクトの一員としての案件推進まで、当事者意識を持って業務に取り組む相原弁護士にとって、自身は外部の弁護士ではなく、あくまで「その会社の法務部員」なのです。

ヘルスケア・ライフサイエンスや知的財産領域を強みとする美馬弁護士は、自らを事業の”翻訳者”と位置付け、契約書案だけでは見えない本質的な課題を洗い出すことを信条としています。

「技術が関わる契約で最も重要だと考えているのは、R&Dや事業部が実現したい姿を正確にヒアリングし、それをリーガルタームに適切に落とし込む作業です。ここを疎かにすると、契約がビジネスの実態と乖離したものになってしまいます。事業として何を実現したいのか、そのために相手方にどんな情報を提供し、結果として何を生み出すのか。コラボレーションによって実現する商流や技術情報の流れが生じるのか、得られた情報や技術をどのように活用する想定なのか、当社から提供する情報をもとに契約相手方がどのような活動を行う可能性があるかなど、全体像を把握するために、気になることは慎重に、ときにはしつこいと思われるほどに確認します」(美馬弁護士)

「ときに煙たがられることもありますが」と苦笑する美馬弁護士ですが、妥協は一切ありません。そのコミュニケーションのなかから、契約書案だけでは見えなかった大きなイシューが見つかることも少なくないためです。

大竹弁護士が担うのは、経営の意思決定に伴走するGCの役割です。海外へのレポートラインを持つ外資系企業では、日本の法規制だけでなく、その背景にある文化や理屈まで含めて説明する”通訳”としての能力が問われます。元政府職員として、多様なステークホルダーと対峙してきた大竹弁護士の経験が、ここで活きるのです。

「対面でのコミュニケーションも意識的に行い、何気ない会話を大切にしています。相談しやすい関係性を作ること自体が、インハウスの法務部員として、会社への法務・ビジネスリスクとなり得る状況をいち早く察知することや、法務として後手に回るのではなく、先手を打ってリスクに対応し、よりよいビジネスの機会創出の支援につながります」(大竹弁護士)

「個」の力を最大化する組織のバックアップ

個々の弁護士の専門性に加え、TKIは組織としてもクライアントを支える体制を整えています。その背景にあるのは、風通しの良い組織文化です。

たとえば、カリフォルニア州法が絡む事案が発生した際、相原弁護士は即座に所内の有資格者に論点を確認し、フィードバックを行いました。通常なら現地の弁護士を探すところから始まる工程ですが、所内での迅速な連携によって即座に解決へと導いたのです。

また、普段は別の弁護士が担当しているクライアントで不正調査の必要性が生じた際、検事経験のある大竹弁護士に即座に声がかかったケースもあるといいます。国際法務から危機管理まで、案件の性質に応じて最適な専門家を柔軟にアサインできるのも、組織としてのTKIの強みです。

こうしたスムーズな連携を可能にしているのが、弁護士同士の物理的・心理的な近さだと美馬弁護士は語ります。

「TKIは東京オフィスがヘッドクォーターで、弁護士同士の距離も近い。パーテーションもない空間で、隣に座っているインド法の専門家に『これってどういう意味?』とすぐに聞ける。このウェットなコミュニケーションとレスポンスの速さが、結果的にクライアントへの価値に直結しています」(美馬弁護士)

共に未来を創るパートナーとして

座談会の議論は、やがてサービスの核心部分へと深まっていきました。TKIリモート・インハウスサービスが目指すのは、決まった業務を代行するだけのアウトソーシングではありません。クライアントと共に未来を創る、「共創」のパートナーシップです。

その姿勢は、日々の業務への向き合い方にこそ、色濃く表れています。「リモート」という形態は、ともすれば「後回しにされるのではないか」という不安をクライアントに抱かせかねません。だからこそ、「『忙しそうですね』とクライアントに指摘されてしまったら、私たちの負けだと思っています」と美馬弁護士は言い切ります。どんなに多忙でも、一次応答は即座に行う。その積み重ねが、「いつでも相談できる」という安心感、ひいては強固な信頼へとつながるからです。

その信頼が形になったとき、相原弁護士は担当先の営業担当者から「プロパーの社員だと思っていた」と驚かれたといいます。

「物理的にはパートタイムでも、マインドはフルコミット。従業員の方と同じ熱量で会社のことを考えている。それが伝わった瞬間が、何より嬉しいですね」(相原弁護士)

TKIが定義する「共創」とは、一体どのようなものでしょうか。それは、来た仕事に対してただボールを返すだけの関係ではありません。大竹弁護士が語るように、「会社が持つビジョンを共有し、そのバリューに即した伴走者として、思いを乗せたボールを返す」こと。美馬弁護士が実践するように、「契約書の修正で終わるのではなく、その後の交渉フェーズまでワンチームで関わっていく」こと。そして、相原弁護士が体現するように、「物理的な距離を超え、従業員以上の当事者意識を持つ」ことです。

法務人材不足という避けられない課題に対し、TKIリモート・インハウスサービスは一時的な穴埋め以上の価値を提供します。それは、外部の高度な専門性と、内部の当事者意識を兼ね備えた、新しいプロフェッショナルの形。この選択肢は、人材不足への対症療法にとどまりません。企業と法務の新しい関係性を築く、攻めの経営戦略といえるのではないでしょうか。

(取材・文:周藤 瞳美、写真:岩田 伸久)