【コラム】再生医療に関する技術規制の基本構造
Executive Summary, Key Questions (FAQ) / 要約(クリックで開く)
- 再生医療に関連する主な法的枠組みは何ですか?
― 主に「再生医療等安全法」と「薬機法」の2つがあります。前者は医療機関による「医療の提供」を、後者は企業による「製品(プロダクト)の製造販売」を規制するものです。 - 再生医療等安全法における「リスク分類」とはどのようなものですか?
― リスクの高さに応じて3段階に分類されます。
・ 第1種(高リスク): iPS細胞やES細胞を用いるもの
・ 第2種(中リスク): 脂肪由来幹細胞などの体性幹細胞を用いるもの。
・ 第3種(低リスク): 加工した体細胞を用いるもの。
それぞれ、厚生労働大臣への計画提出や、認定委員会による審査が必要です。 - 特定細胞加工物を外部委託して製造することは可能ですか?
― 可能です 。ただし、再生医療等安全法に基づき、厚生労働大臣の許可を受けた「特定細胞加工物等製造事業者」に委託しなければなりません。 - 薬機法における「条件及び期限付き承認」とは何ですか?
― 再生医療等製品の特性を考慮し、有効性が「推定」された段階で、期間を限定して早期に承認を与える制度です。2026年3月には、iPS由来製品である「アムシェプリ」や「リハート」がこの制度により承認されました。 - 再生医療等製品の製造に求められる基準は何ですか?
― 「GCTP(Good Gene, Cellular, and Tissue-based Products Manufacturing Practice)」と呼ばれる基準への適合が求められます。これは医薬品のGMPに相当するもので、品質管理や製造管理の方法が適切であるかを審査するものです。
2026年3月、iPS細胞を用いた治療について歴史的な非常に喜ばしいニュースがありました。2026年3月6日、厚生労働省により、住友ファーマ株式会社の iPS由来ドパミン神経前駆細胞製品 「アムシェプリ」 と、クオリプス株式会社の iPS由来心筋細胞シート 「リハート」 が条件及び期限付きで承認されました。
再生医療は、iPS細胞を含む技術革新への期待や新たな治療の選択肢への期待が急速に高まる一方で、細胞・遺伝子という特性から、品質管理、長期安全性、提供体制などの論点が複雑になりやすい領域です。こうした背景のもと、規制対応は「製品としての承認」にとどまらず、「医療としての提供・管理」までを含めて複層的に捉えることが、事業化・提携・投資判断の前提になりつつあります。
本コラムでは、直近の動向を起点に、再生医療をめぐる制度の全体像と実務上の勘所をコンパクトに整理します。
1. 二つの法的枠組み
- 再生医療の技術を規制する代表的な法律として、①再生医療等の安全性の確保等に関する法律(再生医療等安全法)、②医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(以下「薬機法」)の2つの法律があります。
- 再生医療等安全法と薬機法は、いずれも再生医療の技術に関連する行為を規制する性質がありますが、前者は医療の側面から、後者はプロダクトの側面からの規制を定めるものであり、適用範囲に以下のとおり差異があります。
| 再生医療等安全性法 | 薬機法 | |
|---|---|---|
| 規制のコンセプト | 医療機関が医療として再生医療を提供するプロセスの適正化・安全確保 | 再生医療等製品に該当する製品を製造販売等するにあたっての品質、製造及び安全性確保 |
| 規制対象の主たるエンティティ | 再生医療等を提供しようとする者(医療機関) | 製造販売業者、製造業者、販売業者等 |
| 規制対象の主たる行為 | 再生医療等を医療として提供する行為 | 再生医療等製品を製造販売等する行為 |
2. 再生医療等安全法の概要
- 再生医療等安全法は、第1条の目的規定が定めるとおり、「再生医療等を提供しようとする者」が講ずべき措置を明らかにし、特定細胞加工物(再生医療等に用いられる人又は動物の細胞に培養その他の加工を施したもののうち、再生医療等製品であるもの以外のもの)の製造許可制度を定める等により、再生医療等の迅速かつ安全な提供及び普及の促進を図ることを目的としています。このことから、同法は、再生医療等を実施する医療機関を対象として規制することを目的としたものと解されます。
- 重要なポイントは、再生医療等安全法で規制される再生医療等技術を用いて行われる医療からは、(i)治験と、(ii)再生医療等製品を使用して、その承認を得た効能・効果、用法等の範囲で行われる医療が除かれている点です(第2条第1項括弧書、同条2項1号括弧書参照)。すなわち、再生医療等製品を開発するために行われる臨床試験(治験)として行われる場合と、再生医療等製品を使用してその承認を得た効能効果、用法等の範囲で行われる医療については、再生医療等安全法は適用されないということになります。
- リスクの3分類に応じた規制
再生医療安全法は、再生医療等のリスクを3分類し、求める手続きや審査の重さを違える点が規制のポイントとなります。リスクの3分類については、概要、以下のとおり整理できます。
| リスク分類 | 技術の例 | 概要及び医療提供に関する手続き |
|---|---|---|
| 第 1 種再生医療等技術 〜高リスク〜 |
iPS細胞、ES細胞を用いて行う再生医療技術 | 人の生命・健康に与える影響が明らかでない又は相当の注意をしても人の生命・健康に重大な影響を与えるおそれがある →「特定認定再生医療等委員会」の意見を聴いた上で提供計画を策定、同計画を厚生労働大臣に提出して実施 |
| 第 2 種再生医療等技術 〜中リスク〜 |
体性幹細胞等(代表例として脂肪由来幹細胞など)を用いて行う再生医療技術 | 相当の注意をしても人の生命・健康に影響を与えるおそれがある →「特定認定再生医療等委員会」の意見を聴いた上で提供計画を作成、同計画を厚生労働大臣に提出して実施 |
| 第 3 種再生医療等技術 〜低リスク〜 |
体細胞を加工したものを用いて行う再生医療技術 | 第 1 種及び第 2 種再生医療等技術以外の再生医療等技術 →「認定再生医療等委員会」の意見を聴いた上で提供計画を策定、同計画を厚生労働大臣に提出して実施 |
- 特定細胞加工物の製造許可制度
再生医療等安全法第12条によれば、再生医療等提供機関の管理者は、特定細胞加工物等の製造を委託しようとするときは、特定細胞加工物等製造事業者(第2条第10項)に委託しなければならないとされています。なお、同法第2条第4項によれば、「細胞加工物」とは、人又は動物の細胞に培養その他の加工を施したものをいい、「特定細胞加工物」とは、再生医療等に用いられる細胞加工物のうち再生医療等製品であるもの以外のものをいいます。
すなわち、特定細胞加工物の製造は、以下の許認可を受けた特定細胞加工物等製造事業者によって行われる必要があります。
| 特定細胞加工物等製造事業者の種類 | 許認可の内容 |
|---|---|
| 特定細胞加工物の製造をしようとする者(第 35 条第 1 項) (※いわゆる外部委託を想定) | 施設ごとに厚生労働大臣の許可 |
| 外国において日本において行われる再生医療等に用いられる特定細胞加工物等の製造をしようとする者(第 39 条第 1 項) | 施設ごとに厚生労働大臣の認定 |
| 病院・診療所に設置される特定細胞加工物等製造施設等において特定細胞加工物の製造をしようとする者(第 40 条第 1 項) (※いわゆる院内加工を想定) | 施設ごとに厚生労働大臣に届出 |
クリニックで、患者自身の細胞を採取し、培養・増殖した上で患者に戻すタイプの再生医療が提供される例があります。このような治療は、再生医療等安全法の枠組みの下で、当該クリニック又は委託先が特定細胞加工物等製造事業者として「特定細胞加工物」の製造を行うとともに、再生医療等提供計画が受理された上で、実務上は第2種再生医療等技術として実施されるケースが少なくないものと思われます。
3. 再生医療等製品に対する規制(薬機法による規制)の概要
- 薬機法では、第2条第9項において「再生医療等製品」の定義を設け、その有効性及び安全性の確保並びにこれらの使用による保健衛生上の危害の発生及び拡大の防止のために必要な規制を行うことを同法の目的としております。
- 再生医療等製品の規制の在り方は、基本的には、医薬品の規制に準じています。すなわち、ビジネスライセンス及びプロダクトライセンスの枠組みで構成されています。
再生医療等製品を製造販売するためには、プロダクトライセンスに相当する製造販売承認を得ることに加え、製造販売業許可、及び製造態様に応じて製造業の許可を取得する必要があります。また、再生医療等製品を販売する場合は、営業所ごとに都道府県知事から販売業許可を付与される必要があります。
- GCTP適合性調査
再生医療等製品についてプロダクトライセンス(製造販売承認)を得るための要件として、当該承認を受けようとする者及び当該承認を受けた者は、その承認に係る再生医療等製品の製造所における製造管理又は品質管理の方法が、厚生労働省令で定める基準に適合している必要があります。この基準が、GCTPと呼ばれるものとなります。医薬品の場合にはGMP基準、医療機器の場合はQMS基準の適合性が問題となりますが、これと同じ文脈において、再生医療等製品において適合性が求められる基準となります。なお、GTCP適合性調査は、承認申請時、及び政令によって5年を経過するごとに実施される必要があるものとされています。
- 条件及び期限付き承認
プロダクトライセンスについて、再生医療等製品において特徴的な制度といえるのが、条件及び期限付き承認となります。再生医療等製品は、生きた細胞を加工するものであり、化学合成品の医薬品と比較して、その品質の均質性に違いが生じる傾向があり、有効性を確認するためのデータの収集や評価に時間を要します。他方、患者へのメディカルニーズへのアクセスを高めるニーズにも応じるべく、このような再生医療等製品の性質を踏まえた特殊な承認となります。
条件及び期限付き承認とは
① 申請に係る再生医療等製品が均質でないこと
② 申請に係る効能・効果又は性能を有すると推定されるものであること
③ 申請に係る効能・効果又は性能に比して著しく有害な作用を有することにより再生医療等製品として使用価値がないと推定されるものでないこと
これら条件のいずれにも該当する場合、(7年を超えない範囲内。もっとも3年を超えない範囲において延長も可能)一定の期限を切り、条件及び期限付きで製造販売承認を付与するというものとなります。条件及び期限付き承認の期限内に、改めて承認の申請を行うことが想定されています(薬機法第23条の26各号ご参照)。
4. おわりに
再生医療という文脈で語られる場合、その規制態様の入り口が医療側かプロダクト側かによって、二つの法的枠組みがあるという点が重要な出発点となります。そして、これら二つの枠組みはいずれも、再生医療等の安全性の確保を前提に、その適正な発展と社会実装を後押しすることを目的として制度設計されています。本稿が、こうした全体像をご理解いただく一助となれば幸いです。
(執筆:美馬 拓也)
※本記事の内容は、一般的な情報提供であり、具体的な法的又は税務アドバイスではありません。
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東京国際法律事務所
takuya.mima@tkilaw.com
美馬拓也弁護士
国内大手法律事務所において10数年以上にわたり、M&A、戦略的提携、事業再編、クロスボーダー取引等を含む企業法務全般に従事。特にライフサイエンス・ヘルスケア分野を中心に、ライセンス契約、共同研究・開発、ブランド・デザイン保護等の知的財産関連取引に加え、米国における特許訴訟を含む知財紛争についても豊富な経験を有する。さらに、外資系製薬会社の法務部及び大手メーカーの知財部門への出向経験を通じて、規制対応や知財管理を含む実務とビジネスを架橋する、実践的な助言を提供している。知財及びヘルスケア分野に関する執筆実績も多数。