【TKI Voice】M&A・投資に備える医療機器ビジネスの薬事許認可~薬事許認可の基礎とストラクチャー上の留意点
M&A・投資に備える医療機器ビジネスの薬事許認可~薬事許認可の基礎とストラクチャー上の留意点
Executive Summary, Key Questions (FAQ) / 要約(クリックで開く)
- Q1. 医療機器ビジネスの「業許可」と「プロダクトライセンス」には、M&Aの承継においてどのような違いがありますか?
― A1. 「承継の可否」にあります 。 製造販売業許可などの「業許可」は、合併や会社分割などの包括承継であっても他社へ承継させる制度がありません 。そのため、業許可を持たない承継先において同様の許可必要であれば新規取得が必要です 。一方、製品ごとの製造販売承認・認証などの「プロダクトライセンス」は、一定の要件(全資料・情報の引継ぎ等)を満たせば承継が認められています。 - Q2. 医療機器M&Aの事前調査において、PMDA等のデータベースを活用してターゲット企業の許認可状況を把握する際、どのような注意点がありますか?
― データベースに掲載されない情報があるため、デューデリジェンス(DD)プロセスでの網羅的な確認が不可欠です 。 事前調査の段階では、PMDA(医薬品医療機器総合機構)の「医療機器情報検索」やターゲットのウェブサイトから添付文書その他許認可に関係する情報を確認し、状況を把握することが有用です 。しかし、家庭用医療機器や受託製造のみ行っている場合などはデータベースに掲載されない場合があるため、それだけでは判断せず、実際のDDで網羅的に確認する必要があります 。 - Q3. 事業全体を買収する場合、許認可の観点から最も簡明なM&Aスキームはどれですか?
― A2. 法人格がそのまま維持される「株式取得」です 。 株式取得であれば、原則として業許可の新規取得やプロダクトライセンスの承継手続きは発生しません 。ただし、買収に伴い製造販売業者の商号(社名)や役員が変更になった場合は、変更の日から30日以内に監督官庁への「変更届書」の提出が必要となる点に留意が必要です。 - Q4. 一部製品の事業のみを切り出す「カーブアウト」買収での主要な留意点は何ですか?
― A3. 主に、業許可の再取得やストラクチャーの柔軟性、製造所・事業所の物理的な切り分け、実務的な移行作業の観点から、以下の点に留意して検討を行う必要があります。
① 業許可の再取得その他薬事許認可のアレンジメントを踏まえた買収スキーム(ストラクチャー)及びスケジュールの検討 :例えば、売主が受け皿会社(新設子会社)を設立して会社分割等を行う「三段階の手法」を採り、業許可の取得・整備の完了を株式譲渡の「前提条件」とするなど、ディール実行の確実性を高める柔軟なストラクチャー検討が必要です。
② プロダクトライセンスの承継可否と実質的変更:会社分割等に伴い製造販売承認・認証の承継は可能ですが、対象となる医療機器の製造所が変更になるなど実質的変更が生じる場合は、別途、一部変更申請等が必要となり、買収スキームやスケジュールに影響が及ぶ場合があります。
③ 人的・物的な切り分けの検討:例えば、医療機器YとZが同一のR工場で製造されているケースのように、製造所の物理的な切り分けが論点となります 。製造所の分離、買い手側工場へのライン移設、売り手側への製造委託など、切り分けの可否やスケジュールとの兼ね合い等を踏まえ、総合的に比較検討する必要があります 。
④ TSAのアレンジを要する事項の洗い出し及び法的構成:例えば、医療機器Xや医療機器Zなど特定の製品に係る製造・販売部門を切り出す場合、医療機器Zを製造するR工場において引き続き同製品の製造を委託するためのアレンジ、当該製品の販売を担う特定の人員について出向等によるアレンジ、また、事業部門のオフィスに関するリースの検討等が必要となる場合があります。そのため、①で検討するストラクチャー及びスケジュールを踏まえ、TSAの対象とすべき事項を漏れなく整理し、それぞれについて適切な法的枠組みを検討することが求められます。 - Q5. プロダクトライセンスの承継の際、製造所変更を伴う場合はどのくらいの期間がかかりますか?
― A4. 製造所の変更を伴う製造販売承認の承継には、承継の手続きに加えてQMS適合性調査を含む一部変更申請の手続きを履践する必要があるので、1年程度を要する場合があります 。米国FDAなど海外の監督官庁への対応が含まれる場合は、さらに時間を要する可能性があるため、希望するクロージング時期から逆算したスケジュール設計が不可欠です 。
本稿は、当事務所が2026年3月に開催したセミナー「M&A・投資に備える医療機器ビジネスの薬事許認可」での議論をもとに、ディールの前提となる薬事許認可の全体像と、具体的なケーススタディを通じた買収ストラクチャー検討上の留意点について解説します。
近年、ヘルスケア・ライフサイエンス分野におけるM&Aや投資が活発化しています。従来のデバイス単体のディールにとどまらず、ソフトウェア(SaMD)と組み合わせた製品・サービスなど、異業種からの新規参入や海外事業者のインバウンド案件も増加傾向にあります。また、グローバルでの事業再編やポートフォリオの見直しを背景に、特定の製品ラインや機能のみを切り出すカーブアウトのニーズも高まっています。
しかし、医療機器ビジネスには薬機法に基づく厳格な許認可制度が存在し、ディールの実行にはレギュラトリーへの正確な理解が不可欠です。
1. 医療機器ビジネスにおけるレギュラトリーの基礎
医療機器ビジネスへの投資やM&Aを検討する際、ターゲットがどのような許認可を保有しているかを特定することがDD(デューデリジェンス)やストラクチャーの検討の第一歩となります。医療機器ビジネスの許認可は、大きく分けて事業者単位で取得する「ビジネスライセンス(業許可)」と、製品ごとに取得する「プロダクトライセンス」の二段階構造となっています。
(1)クラス分類と業許可の対応関係
制度設計の出発点となるのが、医療機器のリスクに応じたクラス分類です。不具合が生じた際の人体へのリスクに応じ、クラスI(一般医療機器:X線フィルムなど)から、クラスII(管理医療機器:MRIなど)、クラスIII・IV(高度管理医療機器:カテーテルやペースメーカーなど人体への侵襲性が高いもの)までの4段階に分類されます。
このクラス分類に応じて製造販売業許可も第1種から第3種に区分されます。クラスの異なる医療機器を複数扱う場合には複数の許可が必要であり、たとえばクラスIに対応する第3種許可のみを有する企業が新たにクラスIIの事業を買収する場合、第2種許可を別途取得しなければなりません。
薬機法上の「製造販売」は文字どおりの意味よりも広い概念で、自ら製造を行わず第三者に委託する場合や、外国からの輸入販売も含まれます。製造販売業者は発売元として市場に対して品質責任を負う主体であり、QMS省令に従った品質管理体制やGVP省令に基づく安全管理体制の整備が求められます。
とりわけ「三役」と呼ばれる総括製造販売責任者・国内品質業務運営責任者・安全管理責任者の設置が重要で、総括製造販売責任者には薬学等の専門知識が要請されるため、カーブアウト等による新規参入時にはこの人材確保が実務上のボトルネックになり得ます。
(2)ビジネスライセンスとプロダクトライセンスの承継可否
業許可とプロダクトライセンスの最大の違いは、承継の可否にあります。業許可は、合併や会社分割のような包括承継であっても他の事業者に承継させる制度が存在せず、対象となる業許可を引き続き必要とする場合、承継先では、承継先が必要な業許可を既に保有している等の場合以外は、新規に許可取得等を行う必要があります。
これに対し、プロダクトライセンスのうち製造販売承認・認証は一定の要件のもとで承継が認められています。なお、プロダクトライセンスはリスク分類に応じて、届出・認証・承認と手続きが異なる点にも留意が必要です。
この違いはストラクチャー選択やスケジュール設計に直結する重要なポイントです。
2. ケーススタディ:買収ストラクチャーと許認可
では、これらの許認可がM&Aストラクチャーにどう影響するのでしょうか。以下では、医療機器の製造販売を行うA社をターゲットとした買収を想定し、2つのケースについて検討します。
A社は以下の3製品を取り扱っています。
- 医療機器X(クラスI):Q工場で製造
- 医療機器Y(クラスII):R工場の一部で製造
- 医療機器Z(クラスIII):R工場の一部で製造

なお、ストラクチャー検討に先立ち、ターゲットが保有する許認可の特定が必要です。事前調査の段階ではPMDAの「医療機器情報検索」やターゲットのウェブサイトから添付文書その他許認可に関係する情報を確認し、製造販売業者や製造業者等の許認可に関わる状況を把握することが有用です。ただし、家庭用医療機器や受託製造(CMO)の中間体などはデータベースに掲載されない場合があるため、DDプロセスでの網羅的な確認が不可欠です。
ケース1)事業全体の買収
事業全体を買収する場合、大きく分けて、株式取得・事業譲渡・会社分割の3つのスキームが想定されます。許認可維持の観点からは、法人格が維持される株式取得が最も簡明であり、原則として業許可の新規取得やプロダクトライセンスの承継は発生しません。ただし、買収の結果として製造販売業者の商号変更や役員の氏名変更が生じた場合には、変更の日から30日以内に監督官庁へ変更届書を届け出る必要があります。
ケース2)一部事業のカーブアウト
一部の医療機器に係る事業のみを切り出して買収する場合は、より複雑な検討が求められます。留意点は大きく3つです。第一に、承継先において対応する業許可をDay 1までに取得しておく必要があること。第二に、業許可取得に伴う不確定要素に対するリスクヘッジ。第三に、買収対象外である医療機器に係る事業をどのように分離するかというカーブアウト手法の検討です。

代表的なストラクチャーとしては、売主が受け皿会社(新設子会社)を設立し、対象事業を会社分割または事業譲渡で切り出した上で子会社株式を買主に譲渡する三段階の手法があります。分割→株式譲渡のスキームでは、対象事業に必要な業許可の取得・整備を売主側で進め、その完了を株式譲渡の前提条件とするなど、ディール実行の確実性を高めつつ、柔軟性を持たせることが可能です。他方、譲渡対象外事業をカーブアウトしてターゲットの株式を譲渡する方法を採れば、ターゲットが取得済みの許認可を維持した形での買収が可能になります。
(1)同一製造所の一部切り出し
R工場で医療機器YとZが製造されているケースでは、製造所の物理的な切り分けが論点になります。考えられる主要な方法は、製造所そのものを分離する方法、製造ラインを買い手側の工場へ移設する方法、工場自体は承継対象外とし従来どおり売り手側に製造を委託する方法の3つです。いずれも人的・物的な分離可能性、移設コストとタイムラインへの影響、TSA(Transitional Service Agreement)の複雑さやバリュエーションへの影響を総合的に比較検討する必要があります。
(2)承認・認証の承継と一部変更申請
プロダクトライセンス(承認・認証)の承継にあたっては、品質・有効性・安全性に関する一切の資料・情報が併せて引き継がれることが要件であり、会社分割契約や事業譲渡契約においてこれらを譲渡対象として明示する必要があります。また前述のとおり、承継先が対応する製造販売業許可を保有していることが承継の前提となるため、未取得の場合は承継に先立って新規取得を完了させておく必要があります。
プロダクトライセンスの承継と併せて対象となるプロダクトの承認・認証事項に実質的な変更が生じる場合――典型的には製造所の変更――には、当局への一部変更申請が必要です。一部変更申請を完了するためには、QMS適合性調査を含め1年程度を要することがあるため(なお、FDAなど海外の監督官庁との関係での対応も必要となる場合は、さらに時間を要する可能性にも留意が必要です)、承継前と承継後いずれのタイミングで申請を行うかなど、希望するクロージング時期を見据えたスケジュール設計やストラクチャーの検討が求められます。
また、製造販売業者の変更に伴い、出荷される製品のラベル(製品表示)も新たな製造販売業者名への変更が必要です。実務上は、ホームページ等で製造販売元の移管を通知してユーザーの混乱を防ぎつつ、クロージング日を調整して旧在庫を売り切る運用や、当局との事前相談を経て進めるケース等が考えられます。
3. デューデリジェンスの実務ポイント
医療機器ビジネスのDDにおいては、薬事許認可の取得状況に加え、近年の投資・M&A実務を踏まえると、内部統制や知的財産、プログラム医療機器該当性といった観点も重要になります。
(1)内部統制・ガバナンス
スタートアップなど規模の小さい企業では、法令遵守体制が十分に整っていない場合があります。総括製造販売責任者の権限が社内規程で明確に定められているか、役職員への研修の実施状況、安全性に関する記録の管理・報告体制、内部監査の頻度と報告内容などがチェックポイントです。体制が不十分な場合はPMI(買収後統合)での体制構築を見据えた検討が必要になります。
(2)知的財産
医療機器は複数の特許技術が関わるプロダクトである場合もあり、医薬品とは知財マネジメントの構造が異なります。FTO調査の実施状況、共同研究先との契約による制約、キーパーソンとのアレンジメントなどについて総合的な評価が必要です。
(3)プログラム医療機器該当性
ヘルステックベンチャーやSaMD関連のディールでは、ターゲットのプログラムが薬機法上の医療機器に該当するかも論点となり得ます。プログラムの医療機器該当性に関するガイドラインや医療機器該当性の一元的相談窓口における相談などの活用も視野に入れた検討を要します。
4. まとめ
医療機器ビジネスのM&Aや投資においては、薬事許認可の二段階構造やプロダクトライセンスの承継要件といった特有の規制枠組みを正確に理解し、手戻りのないプロセスを設計することが不可欠です。
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※本記事の内容は、一般的な情報提供であり、具体的な法的又は税務アドバイスではありません。

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