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2020.05.01

【COVID-19】新型コロナウイルスのM&Aのプロセス・契約への影響

INSIGHT

新型コロナウイルス(COVID-19)は、今後の国内外のM&Aのプロセス、契約条件に大きな影響を及ぼすことが想定されます。本コラムでは、クロスボーダー案件を含めたM&Aを念頭に、今後のM&A契約の交渉におけるエッセンスについて考察します。

なお、各国において概ね同様の影響が想定されますが、ロシアの法律事務所のALRUDより、COVID-19のロシアにおけるM&Aに対する影響について情報を提供いただいていますのでご参考までに共有します。(詳細はこちら

新型コロナウイルス(COVID-19)の
M&Aのプロセス・契約への影響

1. デュー・ディリジェンス及び表明保証

COVID-19の影響下における対象会社の買収にあたっては、少なくとも以下の項目について、対象会社の慎重なデュー・ディリジェンスが必要となることが想定されます。

  1. 各取引契約における履行不能などに基づく解除権、不可抗力条項(force majeure)の適用状況(コモンロー下の契約の問題については、こちら
  2. 規制遵守(リモートワークのための情報管理体制、罹患情報などの個人情報の取扱い(欧州におけるGDPRの遵守状況など)、各国労働関連規制など)
  3. 保険によるリスクの担保状況
  4. PMIを見据えた、リモートワーク環境下における取締役会などの意思決定機関の対応状況、出資後の意思決定過程への参加などのガバナンスへの影響

M&A契約において、買主は売主に対し、上記の項目に関して買収後も対象事業に影響がないことに関する表明保証を求めることが考えられますが、売主としては、買主の認識や事象の重大性(knowledge/materiality qualifier)により、表明保証の対象の限定をより一層強く求めることが想定されます。

2. 譲渡対価(価格調整メカニズムの傾向)

M&Aにおいて売主の交渉力が強い場合には、締結日より前の財務書類を基準として譲渡価格を固定するLocked Box方式(経済的な支配権の帰属をクロージングより前に買主に移転させる仕組み)が採用されることが多い傾向にあります。他方、買主としては、クロージング時(又はクロージング時に近接した時点)における貸借対照表を基準とした事後調整を行う伝統的なclosing/completion account方式(経済的な支配権の帰属をクロージング時又はクロージング時に近接した時点に買主に移転させる仕組み)を要求することが多い傾向にあります。一般的に、特に欧州のM&AにおいてはしばしばLocked Box方式が採用されますが、対象会社の買収局面においては、COVID-19の影響を受けて不確実性が増す環境下における運転資本の減少、負債の増加、資産価値の減少などのリスクを可及的に回避するため、買主の側では、売主に対してclosing/completion account方式での調整を要求する交渉が必要となる場面が増加するものと考えられます。更に、COVID-19の影響が長期化する可能性があることから、買主からの要請に基づき、譲渡対価がクロージング後の業績に連動するearn out方式による支払い、売主の補償義務の担保として譲渡対価の一部の支払いを留保するhold backやescrowの活用により、譲渡対価の支払いを遅らせるスキームを採用する交渉が必要となることが予想されます。

3. プレ・クロージングにおける留意事項

  1. クロージングまで対象会社において通常の業務(ordinary course of business)を遂行する旨の売主の誓約との関係において、COVID-19の対応については迅速かつ緊急の対応が必要となる可能性があることから、買主の同意なく行うことができる上記の誓約の例外的な条件について、売主・買主間の協議が必要となることが想定されます。
  2. COVID-19への対応について、クロージングまでに売主・買主が対象会社の事業について一定の協力をする旨の合意が必要となる可能性がありますが、ガンジャンピングなどの競争法上の規制に抵触しない態様で行う必要がある点には留意が必要です(米・英・日の競争法/独禁法の留意事項については、こちら
  3. Long Stop Dateの設定に関して、当局の承認の取得(競争法上のmerger filingなど)、Change of Control条項に基づく第三者からの同意の取得などに時間を要する可能性を踏まえて、これらを前提条件とするM&Aにおいては、COVID-19を原因とする遅延についてLong Stop Dateの自動延長などの条項を検討することが考えられます。

4. Material Adverse Change (MAC) 条項

M&A契約締結後クロージングまでの間に、対象会社の事業に重大な悪影響(MAC事由)が生じる可能性を踏まえて、MAC条項は、主に買主が取引実行を回避するための条項として、(1) MAC事由の不存在を取引実行の前提条件とする、(2) MAC事由の不存在を表明保証の対象とし、重大な表明保証違反がないことを取引実行の前提条件とする、(3) MAC事由の存在を解除事由とするなどのいくつかのパターンがあります。買主としては、COVID-19の影響をMAC事由として規定することを求め、他方、売主は、COVID-19の影響をMAC事由の除外事由として規定することを求めることになります。もっとも、今後締結されるM&A契約においては、COVID-19の影響を認識したうえで締結されることが多いことが想定されますので、MAC条項から一歩踏み込んで、具体的・客観的であり、かつ、クロージングまでに検証可能な指標(売上金額、EBITDA、顧客数など)の達成をM&A実行の前提条件とするなどにより、当事者間のリスク分配をM&A契約内で明確化するのが慎重な対応であると考えられます。

(執筆担当者:岡田


※本記事の内容は、一般的な情報提供であり、具体的な法的アドバイスではありません。
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連絡先:岡田 孝太郎 Tel: 03-6273-3506(直通)E-mail: kotaro.okada@tkilaw.com